詩人:千波 一也
いくさ、という発音に
引き戻されてしまわぬよう
平和とよばれるうたかたを
つぎからつぎへ
渡らぬよう
なぞりやすさは滑りやすくて
おとした角が膨らんでゆく
ひらたいよるを
ずしり、と重く
沈殿させる
隠しごとに背いてしまえば
えがおはきっと絶えるだろう
わかりやすさを縛りつければ
なみだにそっと
涸れるだろう
おぼえていない決まりごとから
もっとも近しい地平には
きょうもしずかな
雨が降る
ちぎり、
かすかに匂わせて
ことば少なく
砂の果てから
誇り、とよく似た刀剣を
おさなき者へ突き立てぬよう
まもりのはずの糸のうち
からめとられて
しまわぬよう
あるはずもない
始まり方の隙間から
かけらはきれいに
あふれてゆける
かけらのすべを
失うことなく
うつくしく