詩人:千波 一也
蟻が
わらじの死骸を
運んでいく
気持ち悪い、とか
すごいちからだ、とか
そのさまに向ける言葉は
まったくの自由だ
だがそれは
彼らにとって
とても重要な生命の営みである
蟻が運ぶものは
確かにひとつの死ではあるけれど
それゆえにこそ
まったく新しい
生命でもある
わたしはこうして思案に暮れて
きっと明日には
忘れるだろう
だがそれは
仕方のないことだ
生命の連鎖の仕組みのなかでは
まったく許されることだ
明日が来たなら、
わたしのおもいの端っこを
誰かがきっと見つけるだろう
みっともない、とか
残酷だ、とか
まったく自由に
おもうだろう
そうして次の日、
必ずかけらをこぼすだろう
蟻が
ちょうの死骸を
運んでいく
わたしのなかに点々と
蟻をおもう蟻、が
広がっていく