詩人:千波 一也
わたしに幸福を、と
願えることの その幸福を
わたしは いくつも
置いてきた
たぶん、わたしたち
水槽のなかに
生きている
そこは程よく窮屈だから、
ぬくめることも 可能だろうに
こごえることだけ
繰り返し
さかなになれず
おぼれも できず
わたしたち、たぶん
水槽のなかに
生きている
わたしに幸福を、と
願わなかったことは ない
それは
まったく平たい 熱なのだから
恐れるに足らない
当然の こと
あたりまえ、と
思っていることも
ある日突然 終わってしまう
そんな歌ばかり 知っているよ
たぶん、わたしたち
捕らわれて
わたしに幸福を、と
願えることの その幸福を
わたしは いくつも
捨ててきた
そうして そのぶん
拾うのだろう
幾重にも
ていねいに くるんだ
幸福のなかで