詩人:千波 一也
およいでいる、ということに
気がついてしまうと
溺れはじめる
わたしが
わたしを忘れることも
たいせつな息継ぎ
うまれもった、すべ
音色、という文字に触れるとき
わたしのなにかが
しずかに止まる
沈黙は
無数の波間に
ひとり、ながい
わたしをはなれた
すべての胸の
すぐそばで
雨にふられたひとたちと
雲からこぼれるしずくとが
おなじことばに
濡れている
そうしてわたしは
ときどき溺れる
水の
まもりの
きれいなそこで
流れを絶えず
あふれるものは
かたちづくることの歪み
とうめい過ぎない
器、がわたし
惑うことなく
みちたりている