詩人:千波 一也
空へと放った愛の言葉は
今ごろどこにいるだろう
雨の向こう側から
しずくのひとつを
ふと、思う
空から盗んだあの日の苦みが
髪と夢から香るとき
海はきまって
凪いでいる
鏡のように
青みを満たして
ぼくたちは
空から生まれてきたけれど
たやすくそこへは帰れない
それゆえ
空を歌うんだ
ぼくたちの一部は空であり
ぼくたちの所有とはならないのが空であり
ぼくたちの全ては空であり
ぼくたちの道具とはならないのが空であり
もしかしたら、
歌っているのは
空かもしれない
おそらく空が
歌うんだ
ぼくたちの空は
どこにもない
そういうことを
ぼくたちはおくり続けている
いや、迎え続けている
その
どちらが
正しかったかを
ぼくたちは空からいつも聴いていて
そのたび自由に
流される