詩人:千波 一也
忘れ去られることは
滅び去ることと同義ではなく
ときに月夜の雨のなか
朱色の花の
面影が咲く
雲を織りなす風たちは
水の巨像を築き上げ
やわらかな片目の
やわらかな
記憶に
確かな腐食を
植えてゆく
鳥が
龍が
空かけるものならば
ひとの一途も
違わない
義務は統治であった、と
母国の言葉が
泣いている
かつての栄華の
月の底から
満ちる歴史が築いたものは
異国という身の
響き合い
闇夜を渡る舟たちは
それゆえ嘆きに沈まない
雨かも知れない
しずくが割れてゆくたびに
鮮やかに散る、
涙の主は
2009/06/25 (Thu)