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[172407] 秋冷

詩人:千波 一也


車窓からみえた

数羽の白鳥

つめたい水に

ああしてきれいに

浮くまでに

どれほど

ためらったことだろう

どれほど

しつけられたことだろう


わたしの知らない習わしが

見慣れたつもりの

水辺に憩う


季節は

しずかに冬へと渡るけれど

この移行は

終わりなのだろうか

始まりなのだろうか

確実な

足跡が満ちてゆく

広い空の下でわたしは

こころもとなく

答を見出だそうとして

しずかに

置き去りになる


わずかに

葉を残した木々

土へと戻ることを

予告するかのような

草原のいろどり

すずやかに晴れわたり

ようやく思い知る

空の高さ


覚えることは

忘れてゆくこと

くじけることは

立ち直ること

うたがうことは

願うこと


すべて世界は

簡単なことのはずなのに

わかろうとして

わかろうとして

わからなく

なる


風の

むこうの

ささいな影が

なぜだか妙に懐かしいのは

風に

時間が

とけているから


消えるものなど

ありはしなくて

みんな

姿を変えるだけ


風に

姿を変えるだけ



車窓からみえた

数羽の白鳥

つめたい風に

ああしてきれいに

抱かれるまでに

どれほど

痛んできたのだろう

どれほど

癒されてきたのだろう



2011/11/27 (Sun)
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