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[192031] 失恋書簡

詩人:Cong

今となっては自分でも不気味で仕方ないのですが、
本当にあなたを愛していたようです。
何も知らぬ親族からは「恥を知れ!」と激しく罵られました。
稚拙な色恋に現を抜かし、一時でも夢を見た私が悪いのです。
これっぽっちも恥辱も惨めさもございません。
そのような安い言葉で形容できる感情は湧き出てまいりません。
なにゆえ、私を弄びになられたのでしょう。私が小娘だったからでしょうか。
自ら言うことではありませんが、私は決して物分かりの悪い子供ではありません。あなた様の言われたことが真実であれば、縁もしがらみもなんとでもできましょう。
逢瀬を重ね、熟成した私の純粋な真の愛を蹂躙された口惜しさ、これは如何程の重みになりますか。したためた便箋数グラムにしかなりませんか。
想い人のあなたが他の女性と懇ろになったと見聞きする度にいたたまれず、私は尋常ではいられなくなります。
いつの間にやら私の気が狂ってしまったのかもしれません。

あなたがお離れになられてからいくつもの嫌いなものが増えました。
あなたの私物は全て侍女に処分させました。あなたの愛したレコードも傷を疼かせるだけになるかもしれません。

ですが、ご安心ください。私は慎ましやかにあなた様の幸を祈るのみです。私怨晴らしなど毛頭考えておりません。ただ、ひもすがら袖を濡らすのみ。己の愚かさを呪いましょう。
それになにより、やはり、記憶の中のあなたはやはり愛おしいのです。
あなたの全ての言葉が私を呪縛から解き放つ、そんな魔法の力を持った言葉でした。
あなたとの文通は本当に楽しかったのです。

先日、車で神戸の街を走りました。三宮というところは良いところですね。戯れに少し抜け出して見たら、あなたが話していたフランス料理店を見つけ、その場で泣き崩れてしまいました。

あなたを嬉々と東京へ見送った無知な私よさようなら。
只管、過去を愛します。それだけに縋ります。そして、いずれ他愛の無い日常で埋めてしまうのです。

私は今後も胸中にあるあなたを愛し続けることでしょう。そして、あなたを翻弄する女を恨み申し上げます。
ご不快でしょうか、例えご不快でもしのんでいただきます。これが捨てられ、忘れられゆく惨めな女の幽かな嫌がらせと思し召し、ぜひお聞き入れのほどお願い申し上げます。

2018/02/14 (Wed)
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