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[131566] わたしとあなたの宝物

詩人:甘味亭 真朱麻呂

悲しい恋の思い出
忘れるまでわたしとふたり はかない夜に揺られて
今夜は忘れ酒
つきあい程度に呑みましょ

あなたはそれでも
いつもわたしより先に酔いつぶれて
いびきをかくわね
だからわたしはかすかに火照ったからだをそのままに
はだけた浴衣の帯をなおしながら名残惜しそうに意気地なしと皮肉って笑うの

だけれどあなたは
寝言でいつでもあの人の名をよんでいる
だからわたしも名をよんでほしくて
だれかも知らない女の名前を憎んだりして せめて寝言でよぶならわたしの名前に変えてとつぶやいた
けれどもあなたがよぶのは決まってわたしじゃない女の名だけ今日も夜は更ける

あなたのそんな一途なところにひかれ
わたしはわたしというひとりの女を磨こうとはじめて思ったの

ああ わたしは小さな飲み屋のママ そしてあなたは常連客ただそれだけのつながりね
呑めや食えやの宴会は零時を過ぎればはしごをする人の影も薄れて
辺りにゃ静かにさびしく灯った赤提灯と一番奥の席で眠りこけたあなたがいるだけ

いくら起こそうしても起きない困ったさん

一時を過ぎたらいつものように暖簾をしまって 店に鍵をかけるはずなのに

あなたはそれでも起きずにわたしの前で寝息をたてるだけ

わたしはあなたのなんでもないのに
あなたの清らかな寝顔に恋心 感じては赤くほお染める

あなたのせいで眠れないわ 今夜
それでもあなたの寝顔はもっと見てたかった
不思議ね 早く気持ちは起きてほしいのに
あなたの寝顔は今はわたしだけのもので
永久につづけばいいなとこぼした 左の手に熱燗

やがて夜は明けて
あなたは目覚めるでしょう やさしいあなたは起こせなかったことを責めずに笑うでしょう
たとえばそんな場面がわたしの宝物
わたしとあなたのつながりの証
それだけでわたしは幸せ。

2008/09/08 (Mon)
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