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[174732] 未来へテイク・オフ

詩人:波瑠樹

その朝、天候はあいにくの雨だった…
彼女は、重い気持ちで空港へと向かった。

学生時代からの「親友」が、転勤先の東京で結婚するという報せをよこしてきたのだ。

「親友」の結婚という出来事は、彼女にとって大きな区切りとなるものだった

なぜなら彼女は、長年ずっと「彼」に想いを寄せていたからだ…


搭乗手続きを済ませ、機内へと乗り込む頃には
雨足は更に強まっていた

行き場のない切なさを感じながら、窓に叩きつける雨を眺め
離陸の時を待った…

機体が滑走路へと入り、エンジン音を高める

一気に加速する圧力に、僅かな緊張を覚えたが
次の瞬間、それは清々しい躍動感へと変わった…

ふわっと浮いたかと思うと、どんどん高度を上げていく
あっという間に雨雲の中へと入り、窓の外は霧中の様に白く遮られた

さっきまで叩きつけていた雨も、下方へと遠ざかり
彼女の胸は、この先の光景へと抱く期待で溢れていた…

数分後、雨雲を突き抜けた機体は、眩しい太陽の光に照らされた…

まるで雪原を走るかの様に、真っ白な雲の絨毯の上を駆ける…

太陽は一回り大きく見え、窓から射し込む光は
熱さを感じる程だった

遥か彼方には、水平線の様な青空が横に美しいラインを引いていた…

なんて綺麗なんだろう…と、その光景に目を細めながら
心を支配していた何かが、解放され遠ざかっていくのを彼女は感じていた…

約一時間の後、機体は着陸体制へと入り、
高度を下げながら、また雨雲の霧へと包まれていく…

そして再び、窓の外には激しい雨が戻っていたが
彼女は、不思議と穏やかな気持ちでその雨を見つめていた…。


羽田に着き、到着ロビーに出ると
明日に式を控えた「彼」が迎えに来ていた

屈託のない笑顔が、ほんの一瞬彼女の胸を痛めたが
それもすぐに笑顔に変える事が出来た…

久しぶりに見た「親友」の笑顔は、守るべき愛を見付けた充実感と幸せに溢れ
それは、ついさっき見たばかりの雲の上の太陽の眩しさに似ていた

彼女はずっと言えずにいた祝福の言葉を、ようやく彼に伝えると
心からの握手を交わした


空港の外は相変わらずの雨だったが、二人が見せたそれぞれの笑顔は
その先に生まれる虹の様に煌めいていた…。

2012/03/07 (Wed)
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