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[196553] 僕らの声は澄んでいる

詩人:たかし ふゆ

金曜日に髪を切りに行った
山崎さんの指が相変わらずしなやかで
僕の髪も相変わらずへたり癖で

世界は変わらない

と思ったのに
道すがら、交差点でお地蔵さんを見掛けて、まじまじと見る
果たして、こんな顔立ちだっただろうか

エントロピーが拡がり続けていくように
世界はアップデートを加速し続ける



別れたとき、元カノが「他の人の彼女になったよ」、とメールしてきていて
付き合いだした頃の温度と、その時の温度とを天秤に意味もなくかけた

夕暮れの時計台
伸びていく給水塔の影
風に舞いながら
空を漂ういくつもの折り紙たち

秒針の音だけが響いて
怒りもせず、悲しくもなく
僕は歩き出す
ただ、何かの終わりだけを実感しながら


見えない涙や傷を抱えながら
僕らは生きている
切り落とされる髪の毛のように
伸びきって、いつかそれらが身体から離れていくまで


煙草の煙がくゆる自室

切れかけのトイレットペーパー

机の上の、書きかけの文字


2020/03/25 (Wed)
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