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[59275] 白昼の失踪

詩人:高級スプーン

TVの明かりだけの
薄暗い部屋で
何やらもそもそ
蠢いていた
嫌がる子宮のない母を
寡黙な父が
自分を満たす為だけに
没頭していた
非生産的な行為
その傍らには
学校帰りの
少年が立っていた
左手に持っていた
灯油を二人にかけて
即座に
マッチに火をつけて
ぽい、と放った
少年も含めて
燃える四畳半の部屋
けれども
二人には何故か
火は移らなかった
父の汚い尻が振られ
それに伴い
母の乳が上下に揺れた
行為は終わらなかった
夢も終わらなかった
いつもなら
怒りが破裂して
涙が飛び散れば
枕を濡らして
ふと目を覚ます筈なのに
熱い体
全身が燃えていた
とにかく
ここから離れよう
横幅の狭い
急な階段を駆け上がり
襖を開けて
自分の部屋に入った
部屋には
両親の代わりに
ファミコンがあった
漫画があった
小さいけれど
TVもあった
敷きっ放しの布団に
黒焦げになった
体のまま入った
どうなろうが
どうしようが
もう関係ない
仰向けになって
天井の枡目を数えたり
木目の模様に
様々な顔を浮かべていた
しばらくして
こちらを見ている
一つの目に気付いた
一体、何時からだ
天井に穴が開いていて
その暗がりから
するりと
手が伸びてきた
白い手
白い腕から
透き通って見える
紫色の血管
凄く綺麗だと思った
穴から覗く
一つ目は
背筋がゾクリとする程に
怖かったけれど
その手は誘っていた
明らかに
引き込もうとしていた

掴んではいけない

頭の中で僕は叫んだ
何度も何度も
掴んではいけないと
掴んだら
戻れなくなると
叫んでいたのに
一つも耳に入らなかった
何も考えられなかった
目先の誘惑に
耐えられず
その手を掴んだ

2005/12/11 (Sun)
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