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[78692] 雨宿り、雨上がり(前)

詩人:高級スプーン

どんな話がいいだろう

絵本の中から声がする
錯覚かな
確かめようと
手に取って
そっと開く
すると
こことよく似た地面が
一面に広がって


足元だけ顔を出す
「僕」の目線で進むお話
後を追うように
ページをめくる
どこまで行っても
「僕」はうつむいたまま
前を向かないから
空もろくに登場しない
場面が変われば
地面も変わる
歩いているのだけは
分かる


ぶつぶつ呟いて
時々ため息吐いて
何やら考えて
頭を悩ませてる

どんな話がいいだろう

俺に
訊いたんじゃないよな?
独り言が妙に
胸に響く


路面にできた水たまり
蝶がそれを
うまそうに啜ってる
隅の方でちらりと咲く
雨つぶ乗せた花の群れ
星くずみたく小さく輝く
見慣れていた光景は
見逃していた風景で
改めて見ると
良いもんだな
って
聞こえてないか
こっちの声は
伝わらないか
返事はないし
そして
「僕」は進む
考えなしに
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行く先々で声がする
道を尋ねる人
罵声を浴びせる人
エールを贈る人
色んな人の声がする
けれど
「僕」は振り向かない
聞こえてないの
シカトしてるの
なぁ
話し掛けても
応えない
お構いなしに上の空
下を向いて歩いてる


いま
「僕」の眼に映るものは
目の前にある
地面じゃないな
ここではないどこかで
どこでもないどこかを
じっと見ている
ここではないどこかで
地面じゃない自分を
きっと見ている

どんな話がいいだろう

そればかりで




2006/06/24 (Sat)
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