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[172467] いつかの海で会おう

詩人:夕凪

 親や先生に内緒で
 校区外の海へと
 冒険する計画

 片道30分の道のりに
 胸が高鳴って
 4人だけの秘密で
 ペダルをこいだ ‥

 国道添いは危ないから
 そう言って
 見慣れない民家の間を
 試行錯誤で
 走り抜けた ─‥

 次第に近付く潮の香り
 あの信号辺りで
 左に曲がったら
 きっともう着くよ

 エリちゃんの予想は
 いつも自信に満ちて
 外れがない

 釣具屋さんの信号まで
 やってきたら
 目の前に大きな海が
 広がった ‥

 さっきまで
 少し不安げだった
 年下のアヤちゃんも
 その景色に
 目を輝かせて笑った

 自転車を止めて
 駆け寄ると
 遠浅の静かな波が
 太陽の光に
 キラキラ揺れながら
 打ち寄せる ‥

 何をするでもなく
 波に近付いては
 離れてみたり

 足首に絡みつく海水を
 蹴り上げて
 ずぶ濡れになったり ‥

 4人で集めた貝殻を
 交換し合って
 砂浜に並んで座った ‥

 私達はまだ子供で
 水平線の向こうも
 知らなかったけれど

 それでも4人で
 世界を手に入れた
 そんな気がしてた ‥

 帰り道優子ちゃんは
 落ちてた空き瓶に
 砂と貝殻を入れて
 自転車のかごに
 大事そうに乗せていた

 私の記念のそれは
 スカートのポッケで
 揺れていた ‥




 大人になった今は
 車で10分の
 見慣れた町並みと海

 缶コーヒー片手に
 少し離れたベンチから
 その海を眺めてる ‥

 水平線の向こうにある
 大陸も
 全部知っているけれど
 あの頃よりも
 なぜが世界は小さくて
 私は俯き笑った ‥

 太陽は西に傾いて
 やがて海は
 小さな波音だけ残して
 夜に見えなくなる ‥

 空き缶を手に
 立ち上がり
 背を向け歩き出した瞬間

 波音のずっと
 向こうの方から
 4人の笑い声が
 聞こえた気がした ─‥

 家に帰ったら
 あの時の貝殻を
 探してみようか ‥

 そんな事を考えて
 振り向いた海は
 あの時と同じ
 潮の香りで
 満ち溢れていた ─‥。

2011/12/01 (Thu)
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