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千波 一也の部屋  〜 新着順表示 〜


[593] 良かれ、とついた嘘
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少女のために

空き地のために

泥靴のために

良かれ、とついた嘘



自分の肩幅もかえりみず

良かれ、とついた嘘



あの頃は

そうでもしなければ

苦しくて




自分の足でも踏み潰せそうなものを

置き去りには

出来なくて




良かれ、とついた嘘は

毎夜の潮騒



治りかけの傷ほど

かゆくてたまらない


良かれ、とついた嘘は

毎夜の潮騒


2006/09/09 (Sat)

[592] 答をくれる人
詩人:千波 一也 [投票][編集]


貝殻を気取る私は

捕獲されるのを警戒する


辺りが静かになった頃

深い深い、おそらく他人には不快と思われる

夜の底にて

ようやく貝は口を開く



ポロポロと子守歌

誰にも与えられぬような

おのれのための

子守歌



貝殻はそこに

ありもしない伝統を見つける



答をくれる人は

いつだって居てくれるのに



私は

私の愚かさについて

もっと詳しくならなければ

ならない



2006/09/09 (Sat)

[591] 手毬唄
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お嬢の小唄を

宙に放れば

おてんと様が照らしてくれる


小僧の小唄を

地に撞けば

根っこの隅々しらべてくれる



手毬唄、ひとつ

この手に優しい中身かどうか

優しくこの手に帰るかどうか



婦人の小唄を

宙に放れば

そよそよ風がゆすってくれる



御仁の小唄を

地に撞けば

石ころたちがためしてくれる



手毬唄、ひとつ

この手に優しい中身かどうか

優しくこの手に帰るかどうか




唄は たのしや 

唄は ゆかしや

こころという名のまろやかな型

愛でるべき縁の 

もたらす土産



あしたの唄を楽しみに待ちつつ

手毬唄、ひとつ


手毬唄、ひとつ


2006/09/09 (Sat)

[590] 優しきあなたへ罪状を
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悪気などないのだから

だから尚更

優しいあなたは嘘つきになる


誰をも騙せなくて

自分を騙すことではじめて嘘つきになる



それがたとえ取り繕いの仮面であっても

優しいあなたは

そういうふうに嘘つきになる



けれどもやはり安手の仮面ゆえ

途ゆく人は

あなたの背後を確かめる


優しいあなたは自分しか騙せないものだから

途ゆく人に嘘を手渡す

優しく手渡す



優しきあなたよ

振り返る途に

いくつの涙が見えるだろうか

振り返る途に

いくつの掌が見えるだろうか



判決、

その優しき光の源を

絶やさぬように抱くこと



判決、

すべての温かさの懐に

優しき寝息を立てること



2006/09/09 (Sat)

[589] ふわり、風
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ふわり、風

ふわり、髪


いつかの夏の真昼の丘で

風にそよいでいたきみのこと



ふわり、風

ふわり、髪


いつかの夏の真昼の丘で

きみの光が思い出に捕らわれそうで

哀しかったのを覚えてる


穏やかな日だまりのなかで

哀しかったのを覚えてる



ふわり、風

ふわり、

きみの髪のかたちが

心に蘇る



参ったなぁ

いつかの少年にはもう戻れない



ふわり、風

ひとりきりでは乗り切れず


ふわり、風

くすぐったいような

きみが好き


2006/09/09 (Sat)

[588] 釣り人
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釣れた、釣れぬは

問題ではなく


私が尋ねたいのは「何が釣れますか」

それだけ

どうぞ素敵にこたえて下さい



たまたまの数秒

真偽は気になさらずに


私もまた

非礼と知りつつ 

あなたの答えをねじ曲げますから

どうぞ素敵にこたえて下さい


2006/09/09 (Sat)

[587] 埠頭
詩人:千波 一也 [投票][編集]


埠頭に

群れなす

カモメはすべて

哀しい心のなれの果て



船は今日も出てゆくのだ



海は広いというのに

のぞきこめない

瞳の深さをもって

船は今日も出てゆくのだ



乗れない者と

手を振る者と

うつむく者と

その

鮮やかすぎる不幸について

船はいつか振り返るだろうか



船は行ってしまった


埠頭に

群れなす

カモメはすべて

哀しい心のなれの果て


2006/09/09 (Sat)

[586] 作業灯
詩人:千波 一也 [投票][編集]


星空の下では今日も 

作業灯が明るい


掘り起こされる大地

積み上げられゆくコンクリート

道行く人は

まだか、と未来を吐き捨てる

けれども作業灯は

必ずの未来へと向かって

今日も一途に明るい



私に未来は あるのだろうか

私の未来は どこであろうか



星空の下では今日も 

作業灯が明るい

一途に明るい



2006/09/09 (Sat)

[584] 夏の虫
詩人:千波 一也 [投票][編集]


ほら、見てごらん

無数の蛍  

無数の蝶々


せっかく部屋を暗くしたのに

ほら、見てごらん

僕らはすっかり取り囲まれてる



吐息、ひとつ

(甘く、美味)

喘ぎ、ひとつ

(淡く、光り)



蜜と光を求める虫に君の波長が重なったらしい



限界まで火照ったところだ

丁度いい


おいで

おいで

夏の虫

飛んで火に「入れ」夏の虫



二人の瞳にふさわしく可憐に映える花火とかわれ



おいで

おいで

夏の虫


飛んで火に入れ夏の虫


2006/09/09 (Sat)

[583] 不思議の国のアリス
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ねぇ、アリス

貴女が居なくなっても

この世界は続くと思っているでしょう


ここは たまたま落ちた夢の国


だから

たまたまなんて

二度と起きたりしないのよ



ねぇ、アリス

貴女でなければならないの


不思議も 魅惑も 恐怖も 郷愁も

貴女らしさの為にあるのよ



でも、鍵は渡しておくわ

こちらの国の扉には錠なんか無い

あちらの国の扉のために

その鍵を

なかなか勇気のいることでしょう



ねぇ、アリス

この国にも例外なく 

永遠は約束されないわ


ねぇ、アリス

そのことだけは忘れないでいて欲しいの


だから、鍵を渡しておくの


2006/09/09 (Sat)
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