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感想掲示板  〜 “どるとる”さんの詩に対する感想をお願いします 〜

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[823] 世にも奇妙な物語 [返信]
投稿者:裏日本

不発弾 キャスト 宮川一朗太

2017/05/22 00:47


[822] ありがとう [返信]
投稿者:ジャイロ2000

ありがとう

2017/05/16 23:12


[821] (*´∀`)ノ [返信]
投稿者:あいる

ツキすぎた男はホントに世にも奇妙なでありそうですね!
映像まで見えそうでした!

2017/04/08 21:20


[806] 親切心@ [返信]
投稿者:どるとる


園田は昔から周りからも評判の良いいわゆる(いい人)だった。

「彼を恨んだり憎む人なんかいないわ」
社内のOLたちが茶飲み話をしている。

「でもいかんせんぱっとしないのよね。さえないっていうかさー」

ある日、昼休み会社の近くにある公園でいつものようにベンチに座り弁当を食べていると子どもが目の前で転んだ。

すかさず駆け寄り大丈夫かとたずねる。

しかし、あとからやって来た母親に睨まれ子どもが誘拐されるとでも思ったのかすごい剣幕で怒鳴られた。

「なんだよなあこっちは親切で話しかけただけなのに」

思えばその日を境にして親切をしても報われなくなった。

些細なことだったが、今までは人に親切にするのが生き甲斐だったのに親切が報われなくなったとたんに親切は人によっては余計なお世話なんじゃなかろうかと思えてきた。

しかし、報われないからといって人に親切にしないではいられない。それが人情であり彼の人柄だからだ。

困ってる人は放ってはおけない。

負けじと親切にしたが、やはり報われない。

お財布を落とした老人に落としましたよと渡すと泥棒に間違えられた。

とうとう彼は人に親切にすることがいやになってしまう。

考え方を変えてぎゃくに人に冷たく接してみた。

すると、驚くことに軽蔑されるどころか感謝された。

親切しようとしていたときには味わえなかった懐かしいありがとうの言葉を聞いたとたんに涙が溢れ出した。

親切は報われなくても誰かのためになるなら親切にすべきだ。しかしときには思いがけない行動が親切に繋がったりするんだ。僕は今までは親切にすることに喜びを感じていただけだった。本当はありがとうの言葉に喜びを感じていたのかも知れない。

それに気づいたときになくしていた自分を取り戻せた気がした。

2016/10/05 12:29


[807] 親切心A - どるとる

休日、バスに乗った。

隣に立っていた人がバックを落としたので思わず拾ってしまった。

「また泥棒とかって勘違いされるんだろうな」

そう思いながらも落としましたよと手渡したとたん、バックの持ち主はぱっと明るい表情になり、

「ありがとうございます。このご恩は一生忘れません」

周りに同乗者たちや運転手までもが君は素晴らしい人だともてはやす。

どうなってるんだろうと思った。

バスが停留所に着くと、同乗者と運転手が全員で園田を胴上げした。

「園田!園田!園田!」
園田コールが巻き起こる。は
胴上げされたまま、園田はお神輿のように横断歩道まで連れていかれる。

信号は赤だった。
いきなり園田は道の真ん中に放り投げられた。

そこに入ってきたダンプに轢かれる園田。
園田の悲鳴が上がる。

園田を抱えていた人たちは泣き叫びながら歓喜し、

「なんて素晴らしい死に様なんだ。園田万歳」

狂喜しながら万歳三唱をする一同。

ダンプから降りてきた運転手がそこに加わり運転手も万歳をする。

「園田バンザーイ!」
2016/10/05 12:39

[808] 魅惑の体臭@ - どるとる

「ちょっと、私の服と一緒にしないでよ」

江川は洗濯機の前で娘に洗濯物を一緒にされることを拒否された。

小さな頃はあんなに素直でかわいらしかった娘も年頃になると冷たい。

ある日残業後、家に帰ると娘からめずらしくただいまと言われた。

普段は自分を見るとあからさまに嫌な顔をする娘が笑ってただいまと言った。

いいことでもあったのかと思ったが、風呂上がりにビールを出されたときにはさすがにおかしいと思った。

「どうしたんだ?今日はばかに優しいじゃないか」

そう言うと娘は自分に鼻を近づけて匂いを嗅ぐしぐさをし、

「今までが厳しくしすぎたんだよ。これからは優しくするね。パパ」

普段はおいとかねえとかで人を呼ぶくせに今日はパパだなんてどうかしてる。

疑問を抱えたまま眠る。
どうせ明日になればまた元通りだ。

目覚めると飯を食い、ゴミ出しをし、行ってきますと部屋の中に声をかけると妻と娘から両頬に片方ずつキスをされた。

「パパ、あなた行ってらっしゃい。はやく帰ってきてね」

全くおかしなもんだ。今まで嫌われていたのに今度は異常なくらい好かれている。

ことあるごとに匂いを嗅ぐ行動が気になるが、それよりも何よりも好かれるのは悪い気はしない。

会社での扱いも嘘のように変わった。

「江川さんっていい匂いね」

そんなことを言われるようになった。

次第にいつも気づけば人がそばにいるようになった。

最初のうちはいい気分だった。だが四六時中誰かと一緒というのも鬱陶しくもある。

人混みを避けるように逃げ回る日々。
家にも帰らなくなった。人に遭いたくなくて街を出た。

貯めたお金で食料を調達に久々に町に帰ると人の死骸の山だった。

生き残りの人間がいたのでどうしたのか?と声をかけると

「どうやらこの街にウィルスが蔓延したらしい。あんたは大丈夫なのか?」
2016/10/05 15:10

[809] 魅惑の体臭A - どるとる

「なるほど、この匂い。あんたが原因か。おそらくあんたが街を出たあと残り香のようになったウィルスが街を汚染したんだろう。このウィルスは効くのが遅いらしくただの甘い匂いでそれが次第に酸っぱい匂いに変わるんだ」

慣れてしまったからなのか気づかなかったがなるほど男の言うように酸っぱい匂いがあたりに立ち込めていた。

男は早く人のいない場所に行けと言い終わると死んでしまった。

とり残された江川は一人スモッグのようにピンク色に汚染された雲が浮かぶ空を見上げ一人声も立てず泣いた。
2016/10/05 15:14

[810] GOKIBURI撃退プロジェクト - どるとる

日本 東京
現在時刻 PM8時

高級マンションに住む大仁田瞳。テレビを観ているとカサカサという音がした。

やつだ。やつが来た。黒い悪魔だ。

スプレーを手に隙間に追い詰めて噴射。
しかし、奴等もばかじゃない。
ちゃんとこちらの手の内を知っている。
羽根で飛び回り囮を使って背後から奇襲をかけるつもりだ。

しかし、こちらもばかじゃない。奴等の行動パターンはお見通しだ。何時間にもおよぶ戦いの疲れが出たのか奴等の動きも鈍くなった。

これでしばらくは休戦。

しかし、戦いはまた始まる。
スプレーを二個に増やし奮闘する。

やがて、戦いはヒートアップしていく。
迷彩服に着替えた彼女は改造したモデルガンを手にする。
ガス銃が原因で引火し、部屋中が火で包まれる。
マンション中がパニック。

やがて到着した警察と消防に取り押さえられた彼女は開けたままの部屋のドアからゴキブリが飛び立つのを見た。

「チッ、まだ生きてやがったか」

彼女とゴキブリの戦いは続く。
2016/10/09 22:00

[811] 和の侵略 - どるとる

(愛国心規正法)が制定されてからこの国は変わった。
今までは外国の文化を柔軟に取り入れた多国籍文化といっても支障がない自由な国だった日本も今は無き古きよき日本の文化を取り戻そうと民間人への愛国心の強要を政府は命じた。

それに従わない人間には重い罰が与えられるようになり久しい。

すでに何人もの人間がその理不尽な規正法で処罰されている。

食事のマナーから挨拶の仕方まで様々な日本文化を無理やりに学ばされる。

洋服さえ着れない。和服か着物以外は着用してはならず、日本語はすべて江戸弁に矯正された。

御用、御用と提灯をぶら下げた奉行所の連中が髷をして法律違反者を追いかける。

やがて法律違反者は取り押さえられて連れて行かれる。

その国の法律に嫌気が差した馬渕はアメリカに逃げた。

うまく逃亡に成功したが、そこにあったのは日本と同じくアメリカン精神に支配された西部の開拓時代のような街だった。

唖然とする馬渕。
すると後ろから何者かに撃たれた。

気づくと天国にいる。
やっと文化から解放されると思ったのもつかの間、天国でも独自の文化があり再び馬渕は文化の檻に囚われるのだった。
2016/10/10 19:08

[812] 生存者 - どるとる

男は突然強烈な光に包まれた。はっと気づくとベッドの上だった。

たくさんの機器に囲まれた部屋の中にいて周りには防毒服のようなものを着たたくさんの人間がいた。

「ここはどこだ」と聞くと、
君は最後の生存者なんだと言われる。

訳のわからないでいると防毒服を着た一人がマスクをとった。

その顔は人間ではなかった。

詳しく聞くと、爆弾が落とされ自分以外の人間は全員死亡したという。

ただ、なぜ自分が助かったのかはわからないという。

我々はあなたを助けた恩人だと話す。

疑わしかったが信じるしかない男。

再び急にまばゆい光に包まれた。

頭の上に巨大な爆弾が落ちてくる。

「俺は最後の生存者じゃなかったのか」
2016/10/10 19:30

[813] 旨すぎる水 - どるとる

主婦である横川は水が好きだった。
だが水ならなんでもいいという訳ではなく好みのミネラルウォーターがあるのだ。
ただ、その日はどこに行ってもそのミネラルウォーターがなかった。

コンビニ、スーパー、酒屋まで思い付く場所は行ったのだがいつもなら簡単に見つかるはずの水がどこに行ってもない。

病みつきという言葉があるが、麻薬のように依存してしまうと何がなんでもそれをほっしてしまう。彼女は水がその依存の対象なのだ。

仕方なく家に帰った彼女は水道水を飲もうと蛇口をひねる。

コップに水を注ぎ、ごくりと飲み干すととても旨い。
あのミネラルウォーター以上の味わいだ。
きめ細やかな喉ごしと今まで飲んだことのない新しさを感じる味に彼女はすぐに病みつきになった。
一杯、また一杯とコップに水を注ぎ飲み続けた。
狂ったように飲み続ける彼女。

翌日、マンションの部屋で女の遺体が見つかる。彼女の家族が訪れた際に見つかったのだ。
不思議なことに遺体には水分が一切なくまるでミイラのように痩せ細りカラカラに乾いていた。
傍らには空のコップがひとつおかれていたという。
2016/10/15 22:19

[814] 夢の戦争 - どるとる

突然の爆撃が辺りに響いた。
爆煙と炎が周囲を包みなにかが焼けるような臭いが鼻をつく。

「また戦争が始まったらしい」

軍事マニアの仁科は七回連続で同じ夢を見ていた。

最初は2ヶ月まえ、覚えのない場所で一人戦地で敵と銃撃戦を繰り広げる。

外国なのか英語で書かれた看板が目立つ。

目覚ましの音で目を覚まし、また再び夢から解放される。

今夜もまた見るのだろう。残業から帰った仁科はコンビニで買った弁当を平らげるとそのままの格好で寝てしまった。

気づくとまた夢の中にいる。
そして再び朝になり会社と自宅の往復。

テーブルにあるカレンダーを見ると11月2日とある。

夢の境が最近曖昧になっている。
そんな気がした。

会社に行っている自分と戦地で戦う自分。
現実と夢が混ざりあい時々どちらが夢でどちらが現実なのかがわからない。

だが戦地にいる自分は夢のはずなのだ。
やがてリストラに遭い会社をクビになってしまった。
家族も頼る友人もいない仁科は途方に暮れた。
仁科は有り金で一本のロープを買い誰も通らない林道にある木にロープを結わえ首を括る。
不思議に苦しくはなかった。

ふいに目覚ましの音に目を覚ます。
11月2日。

これで何度めだろう。首をいくら括っても死ぬことが出来ないのだ。また再びあの夢を見たいのに自殺を繰り返すばかりでまたつまらない現実に引き戻される。

「現実なんてつまらないじゃないか。俺は永遠にあの夢の中で戦争をしたいんだ」

そして仁科は何億、何兆回と自殺を繰り返している。

木にロープを結わえつけてそのロープの輪に首を通す。
やがて痛みのない安らかな死がやって来る。

自分に死が訪れるわずかな希望を抱いて死ぬまで仁科は自分をころし続けるのだ。

けっして終わることのない果てしない戦争のように。
2016/10/15 22:39

[815] ツキすぎた男 - どるとる

天野は昔から運がいい。
福引きをすれば必ず一等が当たり、懸賞に応募すればかなりの低確率でも当たる。

商店街の福引きで当たった景品を手に彼は自宅に帰りつく。

思えば小学生の頃、ヒーローのカードは買えば必ずレアカード。
どんなどしゃ降りの雨でも一歩外に出れば嘘のように降りやんだ。
だからか周りにはまるで神童のように扱われた。

部屋には懸賞などで当たった沢山の品々が山のようにある。

たまには外れてみたいな。
そんなことを考えるようになった。ツキ過ぎるのはやはりつまらない。
順調な人生はいい。しかし順調過ぎる人生はただ退屈なだけだ。

たいして勉強もせず難関大学に合格し、上々企業に勤める。

ただそれも昨日までの話だ。
自らツキを手放してみたらどうなるかが知りたかった。

わざと貧しい暮らしに身をおくことでツキからも解放されるのではと思った。

しかし、無駄だった。金持ちの養子の話が持ち上がり、自分はいつの間にか成金になってしまった。
再び、金と欲の生活に舞い戻ってしまう。
やがて養父が亡くなると使いきれないほどの財産が残ってしまった。

彼はこんなところにはいられないとすべての財産や家、株にいたるまでを慈善団体などに寄付し、自分は夜逃げ同然に家を出た。

その道中、どこに逃げるかと思っているとふいに空からお金が落ちてくる。
札束がひとつ、ふたつ、みっつ。

なんだあと空を見上げると沢山の札束が落ちてきてあっという間に札束の山に埋もれてしまった。

翌日のニュースで現金輸送のヘリから誤って数億円の札束が地上に降り注いだというニュースが流れた。
なお、この事故での被害者は一名おり、東京都在住の天野広明さん。天野の笑った顔写真が画面に映る

「ツイてるなあ、この人。札束に埋もれて死ねるなんて」

電気屋のショウウィンドウのテレビに向かって下校途中の小学生二人が言う。
2016/10/17 12:37

[816] 頼りになる人 - どるとる

三木は、人に頼られたことなんて生まれてこの方なかった。

しかし、ある日を境にして変わった。
周りの見る目が変わったのか頼られているのに自分が気づいてなかったのか。

やたら頼られるようになる。
半ば雑事を押し付けられているような気もしたが、損ばかりしている訳ではない。頼られるからにはそれなりに見返りがあるのだ。

会社の飲み会の幹事を任されることになり乾杯の音頭をとる。

「カンパーイ」

気持ちよい酔い加減のまま帰路につくとすぐに寝てしまい夜が明けた。

「三木さんは頼りになるわ。とにかく頼りになるわ」

給湯室での会話に聞き耳を立てる。
全く人生とは不思議なものだ。
頼りにされていることがこんなにも気持ちがいいとは。

ある日出社後部長のカツラを誤ってとってしまう。

怒られるかと思ったが、部長は笑って

「つんつるてーん」

普段は真面目な部長がおどけて自分の禿げ頭を指差してギャグを飛ばす。

そのとたんにオフィスに笑いが渦巻く。

「あんなに笑われたのははじめてだ。君のおかげだよ。ありがとう。やはり君はわが社の星だな。頼りになるねぇ」

そんなふうに言われた。

友人の江原の誘いで飛び入り参加した合コンで知り合ったユミはとても可愛かった。

いつの間にか付き合うようになった。

自分には申し分ない女性。

しかし、ある日とんでもないことを頼まれた。

「お願いがあるの。私のかわりに死んでくれない?私、自殺したいのだけど怖くてできないの。だからあなたが死んだのを見届けたら私もあとを追って死ぬから」

そんなことを頼まれた。しかし、いくらなんでも死んでくれと言われて死ぬわけにはいかない。

断ると、態度が一変

「頼りにならない人ね。もういいわ、さよなら」

そう言ってユミはそれ以来連絡ひとつ寄越さなくなり、その日以来頼られることもなくなった。
2016/10/18 12:33

[818] 水源 - どるとる

砂漠で倒れる男。

蜃気楼なのか。目の前に蛇口がひとつ。少し迷いながらも蛇口をひねる。

幻でもいい。死ぬまえに水が飲みたい。

やがて男は水を飲むたびに体が痩せ干そっていく。
カラカラに乾いてミイラのようになってしまう。
水を求め蛇口をいっぱいまでひねるも蛇口からはもう一滴の水も出ない。

蛇口から絶え間なくあふれる水。それは自分の中にある水分だった。
自分の体内の水分がなくなれば蛇口からあふれる水もなくなる。

それに気づく間もなく男は死んでしまったのである。

2016/10/20 17:11

[820] - どるとる

野久保は昔からツキには縁がなく自分には運がないなんて思っていた。しかしある日を境に運気が急に上がった。

パチンコをすれば出まくるし、競馬をすれば万馬券。

商店街の福引きをすれば一等。

野久保はその日からまるで見違えるような生活を送る。

しかし、やがて野久保の元に神様と名乗る老人が現れる。
老人によるとある人物に運を与えたつもりが間違えてあなたに運を与えてしまった。こちらの手違いとはいえ不服ではあろうが今まで使った運はお返し願うほかはない。

そう言うのだがしかし返せないと言い野久保は神様を追い返してしまった。

仕方あるまいと神様は野久保の命の火を消した。

晩年26歳
野久保は短い生涯を閉じた。
死因は突然死だった。
2016/12/08 12:16


[819] 投票しましたが言葉の途中で [返信]
投稿者:獏'

操作間違えてしまいました。
改めて
教科書どおりのルールじゃない宇宙(そら)のルールが有ると感じました。

2016/11/07 13:00


[792] 雨天の悲劇 [返信]
投稿者:どるとる


「雨、止まないなあ」

つぶれたパン屋の屋根の下、男女二人が雨宿りをしている。

男は片山、女は西川という。
片山は西川と会うのは初めてだが、なんとなく話しかけてみた。

西川は軽く微笑みながら頷いた。

話題なんてものはない。互いに何が好きで何が嫌いか、そんなものはわからないからだ。

しかし無言でいるのも退屈だ。

片山は適当に最近のドラマについて話を振ってみる。

「あのドラマ観てます?あの俳優の小野坂なんとかが出てる」

「ああ、小野坂忠彦ですか?」

「そうそう」

そのあとも適当に話をしたが、あまり覚えてはいない。

出会いも運命なら別れることもまた運命

そんな台詞が印象に残る恋愛ドラマだったが、ヒロインの浅野某という女優がタイプなので観ているに過ぎない。

会話をするうち雨がやむ。

「ではお先に」

西川が走って行く。

それをただ片山は見ていた。

「ああ行ってしまった」

片山は一度でいいから女付き合いをしてみたかった。しかしあまりに彼女が優しかったために出来なかった。そこに可愛らしい女性が雨宿りをしている。思いを告げるには十分なシチュエーションの筈だった。

その翌日の新聞にある記事が目に止まる。

「〇〇県〇〇市茅町幸子さん(23)暴漢に襲われ死亡」

犯行発生時刻はあのつぶれたパン屋の屋根の下で彼女と別れたほんの数分後だった。

もしかしたら自分にもう少し勇気があって彼女を引き留めて思いを告げていたら死ぬことはなかったかもしれない。

2016/09/08 12:21


[793] 猥雑将棋 - どるとる

いつからなのか。気づかない間に街は開発され私が知っている街とは様変わりしてしまった。

「あれもそう。私らの頃にはなかった代物」

知人の指がでんと聳える門を指差した。
門の片側には料金所のような小さな箱形の建物。

あそこで出たり入ったりをするわけだがここは県境。
つまりは県にある門だから県門と呼ばれるわけだ。

あれがあるから他県の人間が簡単には入れないし、出ることもままならない。

今日も一人誰かが国を出ようとして止められている。
あんな光景は日常茶飯事だ。

将棋をうちながら話していると、王手を知人に決められた。
今見ている光景はテレビから発信されている映像で、
逃げる手を考えながらもテレビに目はいく。

出ようとしていた人物にカメラが行くとその人物は今まさに目の前にいる知人。

「ビルもない。コンビニもない畑ばかりのこんな街からはよう出たい。出せ。出せ。出せ〜」

知人を見ると知人は照れ臭そうにして

「まあそんなこともあったべな」

そう言って自分の桂馬を取る。

ずばり知人は県の長である。
2016/09/08 12:36

[794] 策謀 - どるとる

ある男が女性を街中で殺害した。

ナイフを手に男は血まみれになっている。

やがて警察に逮捕され取り調べをしていると、刑事が男に殺害動機を聞いた。

「なぜ、殺害したんだ?」

男は思いを寄せる彼女のストーカーで朝、女に声をかける男を見かけた。

男を尾行すると男は女性について話をしている。

「やっちまおう」

そんな会話が聞き取れて彼女を守るために女性に男のことを言ったのだが聞き入れてもらえず口論の末にあやめてしまった。

それが言い分だった。

しかし女に声をかけた男たちは自分たちは劇団の人間でただ近々やる現代劇の舞台稽古をしてただけだという。

男は勘違いで女性を殺してしまったのだ。

やがて男は裁判で有罪になり、数年後刑期を終え、刑務所から出た。

男は無表情だったのがとたんに笑顔になり

「ざまあ」

そう言って立ち去った。
2016/09/08 12:50

[795] 果てしなき書斎 - どるとる

「先生、早く原稿上げてもらわないと。もう締め切りからだいぶ過ぎてますよ」

若い編集者が先生と呼ばれる人物と電話で会話をしている。

電話先の人物はSF作家の重鎮筒井。

「だいたい、今時原稿を紙に書くなんて古いですよ。みんなパソコンでやってます」

若い編集がそう言うと筒井は毅然として

「パソコンなんてのは邪道だよ君。小説なんてのは紙に書くもんだ。紙に」

「今から行きますから。待てるのは明日までです。半分は仕上げといてください。今夜は徹夜ですからね」

そう言ったあと編集は自らの車で筒井宅に向かう。

郊外にある筒井宅はさながらドラキュラ伯爵の城に見える。扉横の呼び鈴を鳴らすと勝手に入って来いというので中に入る。

中に入るとずっと長い廊下が続いていた。
いささか空気の流れがゆっくりに思えるが、書斎に向かう。
途中、振り返ると先ほどまであった入り口がない。ただずっとどこまでも廊下が続いているだけ。

その後、筒井に携帯電話で連絡をとると改築したから少々家が複雑になっていると話す。

筒井の言われたとおりに書斎に向かう。
ジャングルのような密林を抜け、豚が人間を解体する工場を通り、巨大な水槽の水の中を泳いでいくと急にまばゆい光に包まれる。

「おい」という先生の声に目覚めるとそこは書斎で、先生に先ほどまでのことを話すが、先生は改築などしてはいないよという。

廊下を見ても普通の廊下があるだけ。
夢でも見てたんだろうと言われる。

寝ている間に原稿を書いたらしく、チェックをする。

チェックを終えたあと原稿を持って家を出る。

無事仕事が終わり良かったと安堵したのもつかの間一歩家から外へ出るとそこには宇宙が広がっていた。

電話があり、とると先生からで

「ああ言い忘れていたが、家の中は改築していないが庭をちょっといじったんだ。迷わないように帰ってくれ。忙しいのででは」
2016/09/11 17:02

[796] レッドカード - どるとる

草サッカーを見物していた中年のサラリーマン。

「昔は俺も、あんなふうにサッカーやったなあ。しかし今は人生の退場者。会社の若い者からは邪魔者扱いされる始末」

駅の券売機で切符を買い会社に行こうと電車に乗るため改札を出る時に

ピーという音が鳴り、駅員にレッドカードを出された。

訳がわからないでいると駅員がさも当然のように言う。

「あなたは駅を利用することは出来ません。覇気のなさを表すメーターがレッドゾーンに位置しているので」

仕方なくとぼとぼと帰る。
どうせ定年まであと1ヶ月。一月定年が早まったと思えばいい。

そう思いコンビニで握り飯とお茶でも買おうとしたが、またもやレッドカードを出される。

仕方なく自販機でビールを買おうとしたがレッドカードですと表示され買えない。

俺はわずか数百円のビールも買えないのかと肩をおろして、むなしい日々を暮らす。

もう生きるのが堪らなくいやになりビルから飛び降りようとした。

しかし飛び降りる寸前、数人に取り押さえられた。

「レッドカードです。レッドゾーンの方は、自殺は許されません」

「俺は死ぬこともできないのか」

そう呟きながら押し付けられるように残された大量のレッドカードの山をビルからばらばらと投げ捨てた。

ビルの真下の路地には同じようにレッドカードを持った数人の人間がレッドカードを燃やしながら焚き火をしている。

ホームレスになった彼らは仕事に就くことさえもできない。

数年後、ホームレスになった中年サラリーマンはレッドカードの散らばった路地を徘徊しながら今にも雨が降りそうな空を見上げ宛もなくふらふらと歩いていく。
2016/09/11 18:22

[797] 出世への道 - どるとる

今坂は白髪が混じった年になってもいまだに平社員。

勤続40年。真面目にコツコツやってきたのに窓際社員と呼ばれる始末。

同期の人間はみんな上に行き俺は山の麓で書類整理なんかをやらされている。

ある日、人事移動があり、別の課に移動になった。

ささやかな形ばかりの飲み会をし、酔ったまま帰路に着く。

飲み足りずテレビのニュースを観ていた。

真面目な社員よ今こそ下克上の時!
真面目な社員に出世コースに乗れる!

翌日、新しい課に挨拶に行くとヨッ出世頭!と言われた。

それからあれよあれよという間に社長になった。
窓からの眺めに一喜一憂しているとお茶を秘書が持ってきた。

社長になってため息が多くなった。平よりもずっと責任が問われることもままある
平のあの頃のほうが良かったなあと今坂は後悔をしたのだった。
2016/09/11 19:50

[798] お客様検定 - どるとる

お客様は神様ですなんて台詞はこの頃聞かない。

ただ、お客様検定が広がってからは級ごとに入れる店が決められている。

級が上がるごとに客のレベルも上がり、もちろん一級ともなるとマナーはもちろんのこと様をつけたくなるほどの立派な立ち居振舞いをする。

店員が気を遣うのではなくお客様に気を遣っていただくことで店員の労力を軽減するためにも一役買っている。

やがて広範囲に渡って検定は広がって公園のトイレや、銭湯、店ではないものにまで級が定められ入れる人間は級ごとに分けられた。

やがて自宅にまでその牙は伸びて
お客様検定一級専用自宅となって帰れずあぶれた人間がホームレスとなる新たな問題が生まれた。
一級を取ろうにも莫大なお金と学力を要するため富裕層しか一級を所持できない問題点があとから出てきたのである。
2016/09/11 19:58

[799] 選択肢 - どるとる

小林は昔から優柔不断な男だった。
何をするにも人より選ぶのが遅いので昼飯を外で食べる際に、選ぶのがあまりに遅いので同席していた彼女に嫌われるくらいだ。

会社の食堂で、その日も迷っていた。
B定食は煮魚定食。健康を気にするならこっちだが、
A定食は焼き肉定食。腹持ちがいいのは間違いなくこっちだ。

「うーんどうしようか」

迷っていると、ついに休み時間が終わって休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴ってしまう。

大好きな競馬の馬券を選ぶにも迷う。
第一レース。本命はタイカイオー。
しかし、ダークホースであるシバノックも捨てがたい。

さんざん迷ったあげくその日は馬券を買わずに帰った。

ある日、やっと出来た彼女に些細なことで振られた。
公園の出店でソフトクリームにするかフランクフルトにするかで迷って、彼女にきつい言葉を浴びせられてついカッとなって手を上げてしまったためだ。

悪いのは自分だが、謝るのもシャクなので別れたままついに半月が過ぎた。

会社の仕事もうまくいかずこのまま死のうとしたが、死に方にさえ迷ってしまう。

死にたいが、しかし苦しいのは嫌だ。痛いのもごめんだ。
楽に死ねるならそっちのほいがいいに決まってる。
決められずに死ぬのを断念した。

ふらりとコンビニに買い物に行った帰り、乱暴な運転で青信号で無理やり曲がってきたダンプに跳ねられ呆気なく死んでしまった。

天国の門の前で門番にたずねられる。

「あなたが行きたいのはどの天国ですか?」

「?天国はひとつではないのか」とたずねると

「天国も日々開拓されてまして、行ける天国がひとつまでと決まってはいるんですが、行ける天国はざっと五万近くあるんです。どれにします?」

モニターには案内図が映し出された。

どうやら死んでも選択からは逃れられないらしい。
2016/09/14 12:38

[800] 天国の受験 - どるとる

「死んだ奴は気楽でいいよ。一ヶ所落ちたくらいで死にやがって」

その頃天国。頭に輪っかを乗せた子供が下界の様子を見ていた。

「人間は勝手なことを言うよな。こっちと変わらないのに」

モニターを見ていた子供は後ろから母親に怒鳴られる。

「来週試験でしょ。遊んでないで勉強しなさい」

どうやら天国にも受験や試験はあるらしい。
2016/09/14 12:45

[801] 代償 - どるとる

岡島は非情な男。
女には冷たいし、乱暴を絵に描いた人物だ。

ある日バスの中で痴漢に遭っている女の子を見つけた。

だが、見て見ぬふりをした。
女の子と目が合うと助けてほしいという目をしたが、かかわり合いになりたくなくて目をそらした。

目の前で財布を落とした人を見ても財布を拾ってそのまま猫ババをしたり、

恐喝にあっているおじいさんを見過ごしたりした。

ある日、電車の駅のホームで後ろから急に押され線路内に落とされた。

そこに電車が入ってくる。
瞬間立ち上がろうとしたが足を捻ったらしくうまく立てない。
引き上げてもらおうとして周りに助けを呼んだ。

そこに一人の女の子が駆け寄ってくる。

「ああ助かった」と思ったのもつかの間その顔に見覚えがあった。

この前痴漢に遭っていた女の子だ。
いつの間にか女の子の周りに集まった連中にも見覚えがあるやつばかりだった。

線路から這い上がろうとするが、そのまま突き飛ばされてそこに入ってきた電車の下敷きになった。

岡島の悲鳴が上がりやがて電車のブレーキ音にかき消された。

そのあと、たくさんの歓声が上がりそこにいた全員が立ち去るとホームには再び静けさが戻ってきた。
2016/09/14 12:57

[802] 極道の嗜み@ - どるとる

古くから続くヤクザの世界に身を置く八木沢は鷺沼組の中でも温厚で義理堅くそれゆえに慕われている存在だ。

しかし少々変わったところがあり、拘りすぎる面があるのだ。

たかが珈琲の銘柄や淹れかたにしても自分で気に入ったものでなければ飲まないし、服のファッションもヤクザのくせにアメカジにしか興味はない。
ただし、喧嘩はめっぽう強く負けたことがないという噂だ。

子分の安本、通称ヤスを連れて買い物に行く。
マグカップを買いに来たのである。

ヤスに八木沢はたらたらとマグカップについて自分がいかに拘りを持っているかを延々と語って聞かせる。

マグカップの材質、形状、色、そしてなんといっても唇をつけたときの感触や手触りまですべてが彼の拘りにマッチングしたマグカップだけが彼の愛用品になれるのだ。

(男は拘る生き物。それが男)
それが男八木沢の信条である。

男、男としつこいようだが、彼は男であることにも拘りを持っている。
男足るもの女にはやさしくあるべき。
男足るもの一度決めたことは曲げないこと。

様々な拘りを持っている八木沢は自分を拘りのアマゾネスなどと訳のわからないふたつ名でヤスに呼ばせていた。

「いいか、ヤス男はな、拘れなくなったり拘りを捨てたらその時点でもう男じゃねえ、ただの人間だ」

などと毎度のことながら要領の得ない理解不能なことを言いながらマーケットの中を歩いていく。

結局彼の拘りにマッチングするマグカップは見つからなかったようでその日は手ぶらで帰った。

ある日八木沢はとんでもないものに拘り出す。

それは花の世界。
つまりはフラワーアレンジメントだ。
花を生けてしかもそれをアレンジしちゃう。
ヤクザには到底似つかわしくはないが、彼は本気だった。

どこまでこの人は行くんだとヤスは半ば呆れながら彼の拘りぶりを冷ややかにそして穏やかに見守ることにした。
2016/09/15 12:38

[803] 極道の嗜みA - どるとる

だが、フラワーアレンジメントの世界は3日と持たず拘り飽きたらしい。

ヤスが気づいたときにはもうべつの拘りを見つけてそっちに鞍替えをしたようだ。

瞑想への拘りときて次に安眠の拘り、掃除の拘り。

世界は拘りだらけで満ちていると思わせる彼の拘りぶりは様々な分野に彼を誘わせた。

いつしか彼はノーベル賞をもらった。
テレビの中にトロフィーを手にした八木沢が嬉しそうにインタビューにこたえる様子が映る。

「この28年間ただ拘り続けた人生です。それがただこういう形で結果になっただけです。ありがとう」

ヤスはどこに行くんだろうこの人はと思った。

やがて八木沢はヤクザから足を洗うと冒険家に転身し、今はアマゾンの秘境を探して探検隊を組みいまだ見ぬロマンを追いかけている。

その顔はヤクザでいた頃よりむしろ幸せに満ち溢れている。
2016/09/15 12:45

[804] 視聴率の男 - どるとる
いい番組を作る。彼の頭の中にはそれしかなかった。
視聴率UPの為ならば容赦なく他人のプライバシーを侵していく番組プロデューサー御法川。

マスコミをうまく利用し、根も葉もないでっち上げを作り芸能人を陥れる番組で一躍人気者になった。
彼をテレビで見ない日はない。

ある日、突然彼は自宅の前でインタビューを受けた。

「あなたが、有名な御法川さんですよね?」

そうだと言うと次々に質問された。

調子に乗った御法川は本を書いたり、人を集めて怪しげな会合を開いたりした。

最初は乗り気だった御法川もマスコミのしつこさに嫌気がさしてきた。

しかしそれでもいい番組を作りたい彼はプライバシーを犠牲にして自分の番組を作った。

しかし、その番組内であることないことをでっち上げられる。
自分はそんなことは知らないと言うのだが誰も信じない。

「またまた御法川さん冗談がうまいんだから」

スタッフ一同は笑うだけで一向に番組を中断する気はない。

カメラにつかみかかり、撮るのは寄せと怒鳴ると

「あなたが今までやってきたことじゃないですか?ああそうだ番組のために死んでください。いい番組作りのためですから、必要な犠牲ですよ」

スタッフから追いかけ回される。
そんな中でもカメラは回り、テレビ局内を逃げ回る御法川を映し続ける。

やがて屋上に来て、御法川は逃げ場を失う。

「やめろー」と叫んだとき運悪く足を滑らせ転落する。

地面に激突する御法川がズームUPされていく。

「なぜオレがこんな目に遭うんだ。いい番組を作りたかっただけなのに」
そう言って頭から血を流す御法川は事切れた。
視聴者たちの笑う絵が映る。
その瞬間、最高視聴率を叩き出した。

「すごい視聴率だ。いやぁやっぱり御法川さんは視聴率の神様だな。全く御法川様々だよ」

スタッフはげらげらと笑い飲みに行く相談をしながら屋上を出る。
2016/09/29 12:42

[805] 自分教 - どるとる

「自分を愛すること。それこそが究極の愛であり我が自分教が目指すものであります」

白いローブに身を包んだ教祖が演説をする。
井岡が人生に疲れはて心の拠り所を求めて入信した宗教。その名は自分教。

自分教の宗教理念はその名の通り一心不乱に自分を愛すること。
ただ、それが難しい。自分を愛する。自分を愛し尽くす。

教祖のありがたいお言葉を何度も心の中に巡らせながら井岡だったが、

事業に成功するともはや自分教などと縁切りをしたくなった。

しかし宗教をやめる手続きをしてほしいと願い出ると教祖は笑って井岡を入信者にメッタ刺しにさせた。

教祖は言った。

「自分を愛する宗教が自分教。
私自身ももちろん自分を愛している。自分を愛する人間として自分の意思に反する行為をされるということはあってはならないのだ。
ゆえに君には死んでいただくよ」
2016/09/29 23:13


[782] カウント [返信]
投稿者:どるとる


その日は朝から妙だった。
朝ごはんにはハムエッグとトーストという地味なチョイスをしていつもの時間に家を出た。
なんの問題もなく順調な出だしだった。
通りすがる人、会話をする二人の主婦や元気にマラソンをするおじいちゃんに挨拶を交わす。

おはようございますと言うと笑ってた人も急に真顔になって係数計というのか
あのカチカチと数をカウントするあの小さな機械。

あれを徐に手にしたかと思うと私のほうに向けてカチカチやりだす。

主婦もおじいちゃんも子供でさえいつもそんなものを持ち歩いてるのかとそんな疑問も生まれそうなほどにポケットや鞄から取り出したかと思うとカチカチやる。

私に会うまでは全然普通なのに私が通る瞬間、スイッチが切り替わるようにおかしな行動に出る。

最初は赤の他人ばかりだったが、やがて喫茶店で友人と会話をしているとさっきまでは普通だったのに急に係数計を取り出してカチカチやりだす。

挙げ句の果てには付き合ってまだ日が浅い彼女がソフトクリームを食べていると急にカチカチ音がして。
嫌な予感がしてそちらを見るとやはりカチカチとやっている。

何をカウントしているのかなんて聞いたって無駄だった。
カチカチと鳴らしながら気でも狂ったように口でも音にあわせてカチカチと言っている。

町を抜け出そうとしたが、たくさんの人間に途中道を遮られ追いかけ回された。

追いかけ回される間、不思議に彼らはカチカチと口にする速度が速くなっていく。

やがて駅前のアーケードの階段から誤って足を滑らせ転落してしまう。
無数のカチカチという音と言葉が聞こえる中で男は頭から血を流し息絶えた。

するとまるで何事もなかったように男を囲んでいた人たちは散り散りになっていく。

カチカチという音は男の脈拍や心音と同調した音だったのである。男が死亡したことによってその命の音が消えたのだ。

2016/08/26 17:08


[783] 王様の椅子 - どるとる

商店街の福引きで特別賞なるものを引き当てた。
一等がハワイだからよほどいいものがあたるのだろうと鼻息を荒くしながらどんな商品が出るのか楽しみにしていた。

すると「王様の椅子」と呼ばれる小汚い椅子が商品だと福引き屋のオヤジが言う。

「あんたは運がいい。これで当分はいい思いができるよ」

そう言って仕方なくその椅子を持ち帰る。

椅子を持ち帰ってあまりに汚かったのでタオルで拭いてやると座れる程度にはなった。

せっかくもらったからには使わないとと思い縁側に置き、昼寝用の椅子にすることにした。

その椅子で昼寝をすると妙な夢を見るようになる。

夢の中では自分は遠い異国の王様らしく羽根団扇であおぐきれいな女と金色に輝く王宮。
たくさんの美味そうな肉料理と果物の数々に舌鼓をうつ。

最初はほんの数秒程度の夢が数分、数十分、数時間と長くなりしまいには1日や一週間くらいの長さに思えた。

どちらが現実なのかわからなくなる程に。

現実の自分はさえない商店街にあるちんけな店のせがれだが椅子に座れば一国の王になれる。

やがて椅子に座ったまま夢の中で自分は覚めない夢を見続けてかれこれ十年が過ぎた。
時間の概念は正確ではなくもしかしたらそれよりずっと時間が経過したのかも知れない。

さすがにやることがないので退屈をもて余してしまった。
椅子から離れようとするが立ち上がることができない。

やがて夢が飽きてしまい早く覚めろと念じていると、急に視界が歪み目眩がした。

目眩のあとに気づくと自分はごみ捨て場にいた。
たくさんのごみに埋もれている。
どうやらごみ収集所のようで、ボロボロになった椅子に座っていた。
自分はさえない店のせがれどころか家も家族もないホームレスだということに暫くして気づいたのである。
今までのはすべて自分が作り出した妄想の世界だったのだ。
2016/08/28 17:32

[784] 英雄と呼ばれた男 - どるとる

島野はある日ゴミを道で拾った。
それをゴミ箱に捨てた。
たったそれだけのことで周りから賛辞を受けた。

「君は偉い。英雄だ。是非ご馳走させてください」

その日から何か小さなボランティアや人助けをするたびに賛辞を受けた。過剰なほどの人々の扱いにさすがに悪い気がして断ると英雄に何もできないなんてと泣き出す始末。
なかには死のうとする人までいるのでわかりましたと仕方なくご馳走になったりした。

今の彼女もそんな中で出会った。
彼女は英雄の彼女になれるなんて素晴らしい。自分はついていると何かあるたびにありがとうありがとうと涙を流して感謝する。

やがて英雄を讃えようという団体まで出て来た。
町では英雄を讃えようという催しまであり、調子に乗った島野は自棄だと思い彼らの賛辞に素直にこたえることにした。

ある日曜日、町で見かけた女の子が自殺をしようとしていたので助けたときに

「ありがとう。あなたは英雄。あなたには感謝してもしきれません。この感謝はいずれ返しますね」

そう言って行ってしまう。
やがて黒塗りの車が島野の家に来て聞けばあの女の子の使いだという。その車に乗って女の子の家に向かうと盛大な歓迎を受けた。
やがて帰ろうとしたときに扉をふさがれて

「私はあなたに命を助けられました。しかし命を助けられた感謝は何をしても返しきれません。なので由緒ある私どもの家に代々あなたの名を伝え継ぐためにあなたには即神仏になって頂きます。あなたの名は後世まで語り継がれることでしょう」

そう娘が言うと島野は薬のようなものを嗅がされやがて意識がなくなった。

やがて娘の家のエントランスに英雄というタイトルのつけられた立派な剥製が設置された。

その剥製は指を空に突き立てられたポーズをとらされた島野だった。
2016/08/28 17:52

[785] 白昼夢 - どるとる

ある昼下がり交番に男が慌てた様子で駆け込んでくる。

ちょうどパトロールから帰ったばかりの巡査が男を椅子に座らせてなだめ透かす。

「まあまあ、落ち着いて何を盗まれたんですか?」

すると男は落ち着きを取り戻し、自分の身の上話を始める。

やれ自分は難産で生まれただの結婚したのはいいものの妻が乱暴な奴で結局離婚しただのと延々と子供のときの話や最近の話をぐちゃぐちゃに織り混ぜた人生談を聞かされた。

民間人の話を聞くのも警官の勤めと真面目だった巡査はうなずきながら聞いていたが、やがて何回も同じ話をする男の退屈な話につい眠ってしまう。

「おい、川上。起きろ」

そんな声にはたと気づくと眠ってしまったことに気づいて、寝ぼけたように

「はい」とだけ返事をするとなんだか寒い。

見るとパンツ一枚の姿になっている。

これはどうしたことかと思ってると交番の中が荒らされてひどい状態になっている。

引き出しを開けられていろんなものが散乱していた。

上司はカンカンだ。
目の前には何も書かれていない真っ白な被害届がある。

上司はそれはなんの被害届だと聞くと

「私の、私の被害届です。制服とあと備品を盗まれました」

大きな怒号が交番内にひびいた。
2016/08/30 12:26

[786] 卓上ゲーム - どるとる

商社に勤める綿貫はギャンブルに目がない。
競馬や競輪はもちろんのこと暇があれば会社を休んででもパチンコに行く嵌まりようだ。

しかしギャンブルで借金をこさえた綿貫は金もないし、どうしようかと思ってると怪しい男に道端で声をかけられた。

誘われるまま雑居ビルの階段をおりていき扉を開けると数人の男が机に向かって何かをしている。

机に座るよう指示され言われたとおりに座ると何をするのか説明もなく案内してくれた男は奥に引っ込んでしまう。

何をすればいいのかと男たちに聞くが、男たちは何もこたえない。

ただ、ひたすらに数字を言い合っている。

男は三人いて、まずひげ面の男が98というと太った男が97という。そして老人が96という。

どうやら数字を減らしていき、それを順番に言い合っていくルールらしい。
なんの面白みもないゲームじゃないか。

しかし暇潰しにはちょうどいいかと最後の老人に続いて自分も数字を言うことにした。
途中参加は認められるのかと思ったが男たちは自分が参加したことをとがめもせずに自分を含めた形でゲームは続く。

50を過ぎたあたりでなんだか体が妙にだるくなっていく気がした。
気のせいかと思ったものの数字が減っていくたびに体から熱がうばわれていく。

とうとう30を切るとめまいと吐き気に襲われた。
このままじゃマズイとある瞬間に

「100」と叫ぶと三人の男が一斉にこちらを向いてチッと小さく舌打ちするとかき消すようにいなくなってしまう。

そのとたんに強烈なめまいがしてふと気づくとベッドの上に寝かされていた。

隣には看護婦がいて

「気づかれましたか。一時期危ない状態だったんですよ。生死の境をさまよって。でもバイタルが正常値にいきなり戻って吃驚しました」

看護婦に聞けばいきなり路上で倒れて病院に運び込まれたらしい。念のため検査入院を勧められた。
2016/08/30 12:53

[787] 選択@ - どるとる

人はいつもあらゆる選択に迫られます。
今日はどんな服を着ていこうか。
何時に家を出ようか。どの道を使おうか。誰とすごそうか。
選択とは必ずどちらかを選ばなければなりません。それが二択であれそれ以上の選択肢であれ結果の出ない選択は私が知るかぎりこの世界にはありません。
しかしその選択があなたの人生をも左右するとしたらどうでしょう。あなたは選択を間違えずに成功をつかみとる自信はありますか?
これは選択を余儀なくされたあなた自身の物語かもしれません。

国枝は昔から自他共に認める優柔不断な男だった。
そんな性格からか周りからは疎まれていたりする。

昼の社内食堂。B定食にするかA定食にするかで迷っている。

同僚たちはすんなりと決めていく。
どうしてあんなに軽々と決められるのだろう。それが国枝は不思議でならなかった。

結局、気づくと昼休みは終わり昼飯を食いっぱぐれた。

腹は空くが、選ばなかったのはある意味正解だった。迷ったまま安易に決めてしまえばおそらくそれが不安材料になってしまい仕事に集中できないからだ。

だが、反面選択することをもっとスムーズにできたら。それが彼のささやかな夢だった。

そんな彼にも迷わずに選択できたことが一度だけある。

落としたハンカチを拾ったことから付き合った彼女の留美からデートに誘われたときだ。
行き先は遊園地。
その日は楽しかった。

しかしある日こんな出来事が起こった。あちらこちらで助けてという声。
ある人は犬に袖を捕まれて困っているし、またある人は風船を木に引っ掻けて困っている。

周りには人がいるのになぜか誰も助けようとはしない。
そして助けを求める彼らは一斉に国枝に助けを求める。

どうすればいいのか。まず先に誰を助けどんなふうに助け、そしてどう声をかければ。

助けてほしいのは寧ろこちらだった。
2016/08/31 21:19

[788] 選択A - どるとる

困り果ててしまった。い

そのうちに目の前で女の子が車に乗せられそうになる。

一方ではおばあちゃんが引ったくりにあっている。

どちらを助けようか。どちらか一方を選べばどちらかを見捨てることになる。

これ以上ないくらい迷ったが、おどおどしているだけで何もできないでいると、急にまるで芝居でもしていたかのようにおばあちゃんを襲った引ったくりとおばあちゃん、それから女の子をさらおうとしていた数人の男と女の子が無表情でツカツカと国枝に歩みより
「この薄情者!」と罵った。

その瞬間、近くを歩いていた警官の銃を無理やり奪い

「選べないくらいならいっそ死んだほうがマシだ」

そう叫びこめかみに銃口を向け引き金を引いた。

一発の銃弾が国枝の頭を貫通し、国枝はその場に倒れた。

しかし彼を気にかける者は誰一人いなかった。
2016/08/31 21:31

[789] 親切@ - どるとる

親切にされる。或いは親切にする。
それは一見人間味に溢れた行為であるが、それが度をすぎると親切もうざったい。
しかしもしその親切を苦労のように買ってでもしたがる人間がいたら、あなたはその親切を快く引き受けるでしょうか。これは望まれない親切を押し付けられる男の身に起きた奇妙な話です。

親切な男がいた。趣味は募金。
蓄えのほとんどを慈善団体に寄付するなんてことは彼にしてみれば当たり前だった。

その日道に落ちていた1000万を警察に届けた。1000万は皮のバッグに入って路地に無造作に置かれていた。
猫ババしていないか聞かれたが、警察が勘定し終えると申し訳なさそうに詫びを入れる。

「いや、あなたみたいな親切な人がいるんですね。大抵はみんな拾ったり見つけたりするといくらか持ち逃げなんてこともざらにあるし、今回は金額が金額だけにね。そういうケースだと思ったもんで」

だったら警察になど届けないだろうと思ってると簡単な書類を書かされた。その後一週間で落とし主が見つかった。

見るからに気の弱そうな多田という男だった。

ありがとうありがとうこのご恩は忘れないなどと拾ってくれた男の手を握り涙ながらに感謝した。

それからだった。用もないのに何か出来ることはないかといつもしつこく付きまとわれる。

いいですからと言うのだが、彼はそれでは気がすまないと利かない。

最初はありがとうと感謝をしていたがだんだんエスカレートする男の行為に怒りを覚えそろそろやめてくれないかと言おうとした矢先。
あれだけしつこかった男は急に姿を見せなくなった。

やっと解放された。親切にされるというのも大変なものだと今までの自分の行いを反省し、親切も大概にしないとなあと思っていると、

ある時、後ろから刺された。

あの男だった。

「なんで」と言うと、男は平然と
2016/08/31 22:08

[790] 親切A - どるとる

だってぼくと酒を飲んでたときよく会社で上司に怒られるから死にたいって言ってたでしょ。だから希望どおりコロシテあげますよ」

意識がなくなる瞬間、そういえば酔った勢いで多田と飲んだとき死にたいなどと口走った。それを真に受けたんだと思った。

「それは親切とは言わないだろう」

それが男の最後の言葉だった。

警察が来るまでの間、涙を流して自分があやめた男に追いすがるようにして

「まだまだ親切を返しきれてないのに。負債ぶんはぼくの命で勘弁してください」

多田はナイフで自身の胸を刺し貫いた。
2016/08/31 22:22

[791] 忘れられない味 - どるとる

ある山荘の中、山本と五十嵐は共謀して殺したある男のことについて話していた。

どれだけ時間が過ぎただろう。
雨が強くなってきた。ガタガタとドアが鳴る。

やがて、ノックをする音がした。

ドアの向こうにどちら様と声をかけると池田ですという。

その名前を聞いた瞬間、応対した山本は青ざめる。

池田は自分たちが殺した男の名だった。

「少々道に迷いまして体を休めさせてくれませんか?」

中にいれるか悩んだ結果、男たちは池田を中に入れる。

池田は怪我ひとつなく男たちとはまるで初対面といった感じ。男たちとの記憶がなかった。

不思議に思ったが、このまま生かしておいてはいつかばれると思った二人は再び池田を殺そうとナイフを手に池田の眠る部屋にこっそりと向かう。

布団を頭からすっぽりと被った池田にナイフを降り下ろした山本。

その瞬間、池田が布団から這い出て

「また殺すの?」

気づくと自分は洞穴にいて、焚き火の薪が割れる音で目を覚ます。

近くには二つの死体。先ほどまで人間だったもの。

そろそろ焼ける。
一口大に切られた肉の塊にかぶりつく。
血が滴るその肉を美味しそうに食べる山本。

「こっちは五十嵐味
こっちは池田味」

美味い、美味いと肉の味に舌鼓を打つ山本の姿はまるで化け物のようであった。
石の壁に映る影がゆらゆらと揺れていた。
2016/09/06 21:54


[749] プロ@ [返信]
投稿者:どるとる


昨今では様々な分野のプロが活躍しているが、中にはプロと呼んでいいのかどうか疑わしいものもある。

マイクを持った数人の記者がある男にインタビューする。

「あなたがあの有名な整理整頓のプロですね。お噂はかねがねetc…」

サングラスをかけた色黒のその男は執拗なインタビューにもまんざら不満でもなさそうに応えた。

「整理整頓は日頃の努力が大事なんだ。まず一度でも散らかしたらいろいろな場所に乱れが出る。恋愛とか人付き合いとかね」

そう言ってタクシーに乗った男はある住所を告げそのまま記者たちを残し走り去った。

やがて男はそれから様々なプロになる。
プロには資格はいらない。そう周りから呼ばれればその分野のエキスパートになれるのだ。

たとえば赤ちゃんをあやすプロ。散歩のプロ。
家庭菜園のプロ。言い訳のプロ。
誤字脱字のプロ。逃げ足のプロ。

男はマスコミから様々な顔を持つプロと呼ばれ調子に乗っていた。

やがて男はマスコミから不死身のプロ。あるいはどんな状況下に措かれても死なないプロ。
そう呼ばれていた。

しかしその呼び方は風聞や噂がつくった偽の情報。しかし男はそれも美味しいとマスコミに噂は本当だと話した。

それから男は危険なスタントや命懸けのマジック。
様々な死と背中あわせのパフォーマンスを見せるようになった。

ある時、男は仮死状態から生還すると断言し、わざと大量の薬を服用。
それから何年かして男は記憶喪失になったまま目覚めた。

マスコミは「記憶喪失のプロ」と彼を呼んでもてはやした。
だが、それから何年かするとマスコミはかそんな彼に飽きたのか彼を話題にすることはなくなった。

それを良く思わない男は再び自分に注目してもらおうとある美術館の厳重な警備を掻い潜り美術品を盗んだ。

「窃盗のプロ」

彼はそれをマスコミの前で公開。
だが、彼は当然のごとく刑務所行き。

2016/07/31 13:24


[750] プロA - どるとる

何年かして、刑務所から出てきた男をマスコミが取り囲む。

記者「今、忘れられた人という特集をやってまして、あなたがあの有名なあの人は今のプロですよね」

彼ははじめてプロと呼ばれることに恥ずかしさと奇妙な抵抗感を抱いた。

「いえ人違いです」

男はかかわり合いになりたくなくてマスコミを振り切ろうとしたが、記者が詰め寄り

「なるほど今度はしらばっくれのプロですね」

違いますと強い口調で言い返すと

「ではなんのプロなんですか?」

カメラの光が瞬いていくつものマイクが彼に向けられた。

「もうほっといてくれ。俺はなんのプロでもない」

記者は納得したようにマイクを離した。
しばらくしてはっと何かに気づいた顔をして

「なんのプロでもないプロ。それこそ究極のプロの中のプロですね!関心です」

そう言う記者にあきれながら男は叫んだ。

「違う!俺はプロなんかじゃない」

今月号のある雑誌に出所後初インタビューと題され「絶叫のプロ」

そう書かれた見出しに刑務所をバッグに叫ぶ男を写したカラー写真が掲載された。
2016/07/31 13:33

[751] 献身 - どるとる

彼は昔から乱暴だった。何かというと人にあたる。
口より先に手が出るタイプだ。
そのために周りからは嫌われたがその腕っぷしを買われて組に入った。

やがて男はそこそこの地位にのしあがり舎弟のような弟分を抱えるまでになった。

チンピラ上がりのヤスが男を兄貴と慕いいつもあとをついてくる。

男が右に行けばヤスも右に。
男が左に行けばヤスも左に。
まるでカルガモの親子のように男のあとをついて回った。

ある日、男が些細ないざこざでチンピラ風の数人をぼこぼこに殴った。

なかなか手応えのある相手で傷だらけの体で男は帰路に着く。

夢の中に神様を名乗るじいさんが出てきた。
じいさんによるとお前は人様に迷惑をかけている。よってあと一度でも人を殴れば地獄に落ちるという。
だが、逆に人を助ければ天国に行ける可能性もあるという。
それから男は人に親切にしたり自らすすんでボランティアに参加したりした。

男の変わりように周りは男を白い目で見る。

やがてやくざが善行をするなどおかしくなったとしか思えないと組を追い出されてしまった男は感謝されることの喜びを様々な人との出会いによって気づく。

ある日、病院で少女に出会い臓器提供者を探しているという話を聞く。
だが提供者がなかなか見つからず合うドナーがない。
男は自らが提供者になり得るか調べる。すると少女と同じ血液型でつまりは提供できるとわかった。
男は自らの命を捧げわざと飛び降りをするとヤスに自分が死んだあと臓器を少女に提供するように言付けを頼み、少女は男の臓器提供により生きることができた。

少女は男の墓の前で涙を流しながら両親とともにありがとうと男の冥福を祈り手を合わす。

その光景を雲の上から見ていた男は傍らに立つ神様に

「やっぱり感謝されることはとても気持ちがいい。私は今までそれに気づかなかった」

そう言って天国の門へと歩いていく。
2016/07/31 14:06

[752] 痛みのラリー - どるとる
普段から部下に対しては傲慢な態度をとっていた片岡はよく部下を殴ってはストレスを解消するということをしていた。

小さなことで部下を殴った瞬間、エレベーターが四階に着くと、たくさんの人が乗ってきてその中の一人の肘が片岡のほほを直撃。

それから他人や家族に手をあげると同じだけの痛みが様々な形で跳ね返ってくるという現象に見まわれた。

大きな痛みを与えればそれと同じく大きな痛みが跳ね返ってくるし、小さな痛みならばそれと同じく小さな痛みが跳ね返ってくる。

そのことに気づいてからは部下に手をあげるようなことはなくなった。

ある時、男の勤める会社の営業課にゴキブリが出た。
スリッパで叩いてゴミ箱に捨てるとみんなから賛辞を受けた。

そして喜んでいるとあることに気づく。

「やってしまった」

その頃NASAでは空から巨大な隕石が突如落ちてくるのを衛星がとらえた。

女性職員が言う。

「隕石が落ちていく方向にあるのは日本何々県の何々商社です。もう間に合いません。あと3時間もすれば隕石は間違いなく地上に到達します」

職員は続けて言った。

「でも不思議なんですよ。最初の観測では隕石の軌道は海に落ちるはずだったのですが、まるで隕石に意思があるように瞬間的に隕石が突然方向を変えたんですよ」
2016/07/31 14:34

[753] はい、カット - どるとる

「はい、カット」

その日エミはあるドラマの撮影をしていた。
撮影が終わり宿泊しているホテルに帰る。

長期に渡る撮影のためホテルに部屋をとりそこから撮影所に向かっているのだ。

演技にかけては自信があるエミは将来は大女優になることを夢に見ていた。

夢の中でも彼女は女優だった。
何度も何度も読み返した台本の台詞を流れるように語る。

「はい、カット」

そういう監督の声に目を覚ますと自分はホテルにいたはずなのに稽古場のパイプ椅子で眠っていた。

向こうには小さな舞台セットがあり見知った男優や女優が演技をしていた。

NGを出して落ち込んでいると監督が疲れてるじゃないの?と嫌みをいう。

ホテルに帰りベッドに倒れるように眠ると、再び

「はい、カット」

監督の声で目を覚ます。

無意識に撮影所に来て演技をしている自分がいる。
セットとして用意された姿見に衣装を着た自分が映っている。

撮影があと一回で無事終わるとクランクインまで数日という時に女優は倒れてしまう。

仕方なく、代役を立ててドラマは無事完成したが、エミとしては納得がいかない。
何度も監督に撮りなおしを要求したが、その要求は奇しくも拒否されてしまう。

そして疲れきった様子でお酒を飲み酔いつぶれてしまう。
ホテルで眠りに着いた。

「おい」と声をかけられた。
はたと気づくとそこは撮影所であり撮影開始の数分前。

「今、行きます」と言ってセットに入ろうとした瞬間、倒れる。
倒れる間際、監督が

「はい、カット」と言い、続けて
「テイク アクション」

再び目覚めると先ほどと全く一緒の場面。
おいと呼ばれ撮影セットに走っていく自分。

もう何度も何度も繰り返しているのに一向に先に進まない。ずっと同じシーンの繰り返し。
このままあとどれくらい繰り返せばいいのだろう。
そしてまた先ほどのシーンを倒れるまで繰り返す。
2016/07/31 15:14

[754] 養殖 - どるとる

街中を埋める人混みの中にスーツを着た男がいる。

男は台本を手にカツカツと軽快に歩いていく。

男は町行く人に声をかける。

「やあ、久しぶり」

声をかけられた女は怪訝そうな顔で男を見る。

男は再び歩いてゆくと今度は別の人に声をかける。

「敵兵発見」

銃を構えるしぐさをするとバンバンと銃声を真似た声を出した。

男はそんな感じで道行く人に声をかけては不可解なことを言う。

やがて男は急に苦しみ出してのたうちまわりながら動かなくなった。

やがて誰かが呼んだ救急車が来てタンカーに乗せられた男は運ばれていった。

ベッドに寝かされた男の隣には初老の科学者がいる。

科学者はため息を吐きながらまた失敗かと呟いて部屋を出る。

部屋の奥には巨大な空間があり無数の人間が立っている。
しかしどれも精巧につくられたロボットで、様々な職種の制服を着ている。
その建物の外の門には
「人間養殖・培養研究所」とある。
2016/07/31 15:32

[766] 狸の泥舟 - どるとる

ある男がバスに乗る。
つい眠りこんでしまい目覚めると知らない町にバスは停まる。

ここはどこか訪ねようと運転席に向かうと運転手がいない。他の乗客もいないので仕方なくバスを降りる。

バス停をあとにすると、しばらく同じような田んぼばかりの景色が続く道をひたすら歩いていく。

すると古い神社が見えてきて鳥居の前におじいさんがいて

おじいさんは水をくれと男に言う。

男はそれを無視しておじいさんを蹴飛ばしてしまう。

神社を過ぎてしばらく行くと若者が立っている。

しかし、若者は片足がなく杖をついている。

若者はおにぎりをくれと言うが、男は先ほどのおじいさん同様に厚かましい奴だと蹴飛ばしてしまう。

やがて、川があって川を渡るための船頭がいたが、川を渡らせるために船頭は百円寄越せとい言う。
男は船頭を川に突き落とし船を奪い船で向こう岸に渡ろうと漕いでいく。

真ん中あたりまで来たときに船は溶けて沈んでしまう。

来た方を見ると船頭が先ほどの若者とおじいさんの二人と並んでもっと沈め沈めと言っている。

男が沈むと三人はくるりと空中で回ると三びきの狸になった。

翌日の新聞にバスの中で男性死亡。死因は呼吸困難による窒息死。
そんな記事が載った。
2016/08/11 15:44

[768] 熱帯夜 - どるとる

ある部屋で四人の男たちが麻雀をしている。
皆で牌をかき混ぜる。

役満続きの平井が一人勝ち。
再びやり直し、また牌をかき混ぜる。

外がなんだか騒がしい。人が行き交う足音やサイレンの音まで聞こえる。
騒音もたいがいにして欲しい。
気にせず麻雀を続ける。
相澤がリーチを迎えたところで平井が麦酒をこぼすと野田がタオルで拭いてやる。
遠藤がそそっかしい奴だと笑う。

それにしても今夜は暑い。外は騒がしいし、部屋中が赤いライトに照らされているように真っ赤だ。
瞬間平井が麦酒をこぼすと野田がタオルで拭いてやる。
遠藤がそそっかしい奴だと笑う。
牌をじゃらじゃらとかき混ぜる。
そして平井が麦酒をこぼせば野田がタオルで拭く。

アパート外の会話。
「もうマンションには住民一人残っていません」

「よし、消火を始めろ」

勢いよく燃え盛るマンション。炎に向かってポンプ車のホースの水がかけられる。

四人の男たちは相変わらず麻雀をしている。
ある程度ゲームが進んだところで平井が麦酒をこぼす。
床に敷いたマットレスに麦酒が広がってゆく。
遠藤がそそっかしい奴だと笑う。
2016/08/21 01:31

[769] 感動の産出 - どるとる

平賀は売れない俳優。役がもらえてもエキストラばかり。
新聞の折り込みに劇団員募集のチラシを見つける。
平賀は所属する事務所をやめてその劇団に入ることにした。するとその劇団でも指折りの名優にまでなった。
やる舞台ほとんどが盛況。
賞もいくつかもらうまでになった。

そしてある感動ものの舞台をやることになりその主役を任された。
舞台が終わり感動の渦に包まれる。
拍手をする観客。

だがおかしなことにいつまでも拍手が止まない。
おかしいなと思いながら幕が降りるのを待っているといきなり後ろから刺された。

振り向くと劇団員たちが笑みを浮かべて彼を滅多刺しにする。

刺したナイフを抜いて返り血を浴びて血まみれになった座長がおもむろにマイクを手にし、こう言った。

主役の死こそ最高の感動です。どうですか?お楽しみいただけましたか?」

すると凄まじい拍手の渦が巻き起こった。
2016/08/22 12:24

[770] トンネル - どるとる

恵美は散歩中にいきなり背後から羽交い締めにされた挙げ句目隠しをされトラックの荷台に放り込まれた。

どれくらい経ったのか目隠しをとられるとそこは施設のような場所で

「アナタにほんじん?」

そう聞かれたのではいとうなずくと外人の男は日本人と聞くと嬉しそうに笑顔になり、彼女を歓迎した。

出された豪勢なご馳走を食べてワインを飲む。
最初は毒でも入ってるのかと疑ったが、毒味のつもりなのか先に外人が食べているところを見ると毒は入ってないようだった。

施設には日本人は自分一人らしかった。

ここどこなのか聞こうとしたが、なんだか恐くて聞けなかった。

数日をそこで過ごして施設での暮らしにも慣れた頃、エマというフランス人の女の子と友達になった。

エマにここはなんなのかを聞くと生存者のための施設らしい。
生存者とはなんなのかと問うと、よくわからないという。

やがてさらに数日経つと、エマはトラックでどこかに運ばれていった。

その夜、恵美は施設を抜け出すことにした。
驚くほど警備は手薄で簡単に抜け出すことができた。
途中トンネルがあったのでそこを抜け出すと白い光に包まれた。

「おい、しっかりしろ」

そんな声に目を覚ますと懐中電灯を手にした数人が自分の周りを取り囲み安否を確認している様子であった。

見渡すとそこは路地裏のようなところだった。

「良かった、良かった」

そう言うと男たちは何があったのか説明した。

「我々はある国が開発した爆弾の軌道をそらしたが、かわしきれなかったこの町が爆撃された。生存者を探しているときに君を見つけた」

あちこちが痛い。見ると膝や顔に軽いやけどやすり傷がある。

「ここは危険だ。我々の施設に来なさい」

そう言って男たちは恵美をトラックに乗せて運んでいく。

途中にトンネルがある。
恵美は見覚えがあったがどこで見たのか。よく思い出せない。
2016/08/22 12:49

[771] 爆破犯 - どるとる

爆弾事件を起こしうんよく逃げおおせた川栄。二年後、未登録の電話をとると、自分と同じ声で。
「あと二分で爆発するぞ」そう聞こえた。
なんのことかわからないでいると、二分後川栄の体が爆風と爆炎をあげ肉片を撒き散らしながら吹き飛んだ。
2016/08/22 15:03

[772] 二分後の未来 - どるとる

最初は何かの病気かと思った。
まるでフラッシュバックするように今見ているだろうものと同じ景色がスローテンポで流れる。

いつもの公園のベンチに座っているとベンチから見える眺めがゆっくりになる。
しばらくするとまたいつもの感覚に戻る。
その間、凡そ二分。

気づくと何度かそういう感覚になるがある段階で回数を重ねると二分後の未来を見てるとわかる。

目の前に女の子がいて赤い風船を誤って手から離してしまう光景を見たあとにそれと同じことが二分後に起きる。

ただ二分後の未来がわかったところで何の助けにもならずただ迷惑なだけだった。
しかしたまに事故を未然に防いだりすることもあった。

今も目の前で二分後に男の子にトラックが突っ込んで男の子が轢かれてしまう光景を見た。

咄嗟に体が動き男の子を助けようと男の子を抱き抱えるようにしてトラックをかわしたところにもう一台のトラックが死角から突っ込んできた。
時刻にすると二分二秒後のことだった。
母親の絶叫する声が公園内にひびいた。
2016/08/22 15:11

[773] 借運 - どるとる

ついてない。
また福引きでティッシュを引いちまった。
白色の玉を手にため息をつく片山。

ある日、運をローンで月々借りることが出来るという話を聞く。

ラッキーとばかりに運を借りる。
お金を借りるのとはわけが違うので運を借りるとなると、後々不運に見舞われることになるらしいが、彼にはそんなことはお構い無しだった。なにしろ今までがついてなかったからだ。

やがて彼は自分でおこした企業が成功し、社長になった。

だが、ある日身内に不幸があった。
母親が死に、まもなくして父親が死に月々に友人や親戚に不幸があった。
ある者は病気になりある者は事故に遭い、ある者は行方不明になった。

いよいよおかしいと思い、あのローン会社をたずねた。

ローン会社の人間が冷たく言い放つ。

「だから言ったでしょ。不幸があとからやって来ると。不幸はあなたに訪れるとは限りませんよ」

やがて男は自ら会社をたたみ、莫大な借金を背負い、断崖に見投げをした。

しばらくして生き別れた男の幼い妹にローン会社の人間がやって来て、片山が亡くなったことによって発生した運を受けとる権利を得ることが出来ると説明。

男が借りた運が死によってすべてチャラになりそれでもまだ残っている運の使い道をどうするか妹にたずねると妹はその運をお金に変えて、男に立派な墓を立てるようにと言った。
2016/08/24 12:31

[774] 落下 - どるとる

佐山は絶叫アトラクションが好き。

遊園地に行ったら、ジェットコースターには必ず乗る。

対して彼の恋人の真美は絶叫アトラクションが嫌いだった。

無理やりジェットコースターに乗せた佐山はもうすぐで落ちるぞという落下地点まで来たときに気絶してしまう。

気絶している最中、妙な光景を見た。

ストレッチゃーで運ばれる自分。
先には手術室と書かれた部屋。

周りを囲う医者とナース。
泣きじゃくる真美。

やがて気づくとマシンは地上に着き、みんなが降りてゆく。真美と一緒に降りると

「なあんだあなたも気絶することなんかあるのね」

そんなことを言う。もう一度乗ろうと言うと真美は待ってるという。

一人、順番を待ち再びジェットコースターに乗り、あの落下地点まで着たときに今度は急に何十メートルもあるビルの屋上から落下する光景を見た。
妙にリアルだ。すごい。

あまりの怖さにうわぁと叫び声をあげる。ハッと目を覚ますと白衣を着た人物が横にいて

「どうです?わが社の落下体験マシンは。
あらゆるシチュエーションでの落下をお楽しみ頂けます」

佐山はもう一度お願いしますと言っておこしたからだを横たえた。

白衣を着た人物はマシンのスイッチを入れて

「それでは今度は工事現場の足場から落下し、地上より250メートル上空から投げ出される場面からのスタートです」
2016/08/24 12:53

[776] 笑われ屋 - どるとる

野島はお笑いの仕事をしている。
主に日常の中にある笑いをネタにして提供する。

その日も数人のお客様を相手に小さなステージでお笑いライヴをしていた。

お茶をこぼして台詞を言う下りのところで何も入っていないはずの湯飲みを転がしてギャグを言うと笑いが巻き起こる。
一時間あまりのライヴが終わりアパートに帰る。
そして翌日もライヴをする。
そんな毎日が繰り返される。

ある日、おかしなことが起きた。
ちょっとつまずいただけで主婦に指をさされてゲラゲラと大笑いをされた。

そればかりではなく駅のホームで財布を落としただけで腹を抱えてその場にいた何人もの人間が一斉に笑い出す。

おかしな日だ。その日から全然ライヴで笑いがとれなくなってしまう。

代わりに日常生活でポカをやらかしたりすると誰彼構わず笑わしてしまう。

その日もライヴをしにステージに向かうタクシーの車内でお釣りを千円と一万円を間違えただけでタクシードライバーがハンドル操作を誤りそのまま電柱に激突した。

幸い、大きな事故にはならなかったが、事故を起こしたあともドライバーはゲラゲラと苦しそうに笑い悶えていた。

野島はそれをただ呆れたように見ていたのだった。
2016/08/25 12:35

[777] 臓器ドナー - どるとる

急患で運び込まれた中林。
田舎の病院で設備もなくかといってほかの病院に移している時間はない。

もちろんドナーなんてない。
先生と婦長が会話をしている。

意識だけがかすかに残っている中林は会話の内容を聞いて戦慄する。

「この際、豚の内臓で手術する他ないな」

うわぁと目を覚ます中林。

そこは病院のベッドの上だった。

退院の日、病院の入り口から出たときに養豚所のトラックが目の前を過ぎていく。

こちらをじっと見つめる一匹の豚がぶひっと鳴くと、中林も無意識にぶひっと鳴いた。
口を抑える中林。

どうやら昨日の会話は夢などではなく現実だったらしい。
2016/08/25 12:53

[778] 流行り - どるとる

【前口上】流行というものはいつの時代にもあるもので、その時代を彩るまさに代名詞のようなものである。
しかしたとえば流行にならざるもの。
あるいはなってはいけないものが流行になってしまったらどうでしょうか。
自殺。殺人。事件。事故。。
そんなマイナス性のあるものが流行になったら、その時あなたは気づく筈。すでに奇妙な世界の住人になってしまっていることに。

流行の最先端を行く東京のとある町に住むOLの久美。
流行とあらばなんにでも手を出す。
洋服にアーティスト、売れているものは片っ端から買いまくるし、新しい情報を常にPCやスマホでチェックする。
雑誌のチェックも怠らない。

それが仇になったのか流行に乗らずにはいられなくなってしまった。

やがて流行っている服がどんなにダサくても着なければいけない。そんな脅迫観念を抱くようになった。

同じ服やアクセサリーを身につけた人たちが町でよく見かけるようになった。
今までよりさらに尋常じゃない流行りようだ。

やがて自殺が流行り出した。
友達はこぞって自殺をする。自殺の楽しみを長く味わうために死なない程度に体を軽く傷つけたりあるいはわざと縄で首を絞めるなどのささやかな苦しみを与えたりする。

彼女も例外ではなかった。しかし、自殺はあまりにリスキー。
彼女は一人、町から出ようとする。流行りのない国へ行こうというのだ。
空港に来たときに町中の人間が集まっているんじゃないかというくらいのたくさんの人間でごった返していた。

流行はとうに移ろい、今や一人旅ブームになっていたのである。

彼女は飛行機に乗り込むとハッとして

「しまった。また流行に乗ってしまった」

旅客機の行き先は「ハワイ」

ハワイアンブームに乗らなければいいのだがと一抹の不安を抱いた。
2016/08/25 20:06

[779] 我慢 - どるとる

外はムシムシとした真夏の太陽がアスファルトをこんがりと焦がしている。

喫茶店内、入り口から一番遠い席に座る二人の男。

若い男が中年の男に「私は我慢の限界なんです」
と言うと、中年が
「何がだい?」と言う。

だがそれには男はこたえずに数分沈黙する。

数分後、再び男は

「もう持ちそうにありません。退避してください」

「でもまだ珈琲が途中だし」

そう男が言う。
しかし先ほどから若い男は苦しそうな表情をして顔がこわばっている。

ふいに男が砂糖をとろうとして若い男の前に置かれた水を倒してしまった。

ばしゃあという音。

若い男は避けるように立ち上がる。

その瞬間、

「ブベベベベ」

という凄まじい屁の音がした。

とたんに喫茶店は炎に包まれ燃え出した。

「私の屁は可燃性なんです」

そう若い男が炎の中で中年に言うが、中年は白目を剥いて気絶していた。
2016/08/25 20:20

[780] 副作用 - どるとる

大臣が病気になった。特別な薬で、その料金が高く国家予算並みである。
なんとか大臣はお金を用意して、薬を買った。
薬を飲んだ大臣は化け物に変わってしまう。鏡を見ると見たこともない生物だ。
ほかの人間に自分がどんなふうに見えるかと問うと、自分らと同じように見えると言う。
しかし、大臣には自分がどう見ても化け物に見える。
手が二本、足が二本ある肌色の気持ち悪い生物に。
鏡を見るたびに吐いてしまう。
あの薬を一度でも飲んでしまうと自分の姿形が自分の目にだけ化け物のように見えてしまうという。
困ったことにそれが副作用だと医者は言う。鏡に映る大臣の姿は半人半獣の生物だった。
2016/08/26 12:42

[781] 美の基準 - どるとる

エリカは誰よりも美人だった。
しかしまだまだ自分は美人ではない。
そんな思い込みから周りの声も聞かず整形を重ねた。
整形はうまくいきおかげで誰もが認める美人になった。

しかし流行り廃りは早いもので美人の基準は平安時代まで遡りぽっちゃりとした不細工顔が美人だという認識になり彼女は次第にあろうことか不細工と呼ばれるようになる。
それに腹を立てた彼女は整形をし今度は時代に合わせた不細工な顔に変えた。

彼女は持て囃されたが、やがてしばらくして美人の価値基準は戻ってきれいな顔立ちの人間が好まれるようになった。

整形を重ねた結果これ以上整形をすれば顔が崩壊しかねないと医者に言われるが無理やりに整形をしてしまう。

整形後、鏡を見たエリカは満足そうな顔で病院を出る。

美人が持て囃される時代は過ぎて今や猿顔がトレンドだった。

車のミラーに映るエリカの顔はまさに猿そっくりの顔だったのである。
2016/08/26 12:53


[763] 番外の館(短編怪談) [返信]
投稿者:どるとる


幽霊かどうかも疑わしい意味のわからない短編を中心に書きます。

2016/08/04 12:31


[764] 前の人の肩に両手を置いてぴょんぴょん跳ね回る人々 - どるとる

Dさんとします。彼が田舎のおばあちゃんの家に行ったときの話。

神社で夏祭りをやってたので暇をしていた彼は冷やかしについでに祭りに行った。

ありきたりな祭りでつまらなかったのでなんとなく裏手にある林に入った。

するとどこかでドンドコと祭り太鼓が聞こえた。
その音のするほうへ行ってみると少し開けた場所にやぐらがあり、その周囲に数人がいて、不思議なことをしていた。

前の人の肩に両手を置いてぴょんぴょんと跳ね回る。

そんなことをしながらぐるぐるとやぐらの周りを回るのだ。

その人たちは皆、猿だったり猫だったり犬を模した動物のお面をかぶっていた。

跳ねるたびにお面がずれていく。
やがて太鼓が一際ドン!と鳴ると、すべての人の面が剥がれ落ち鬼の顔が覗いたという。

それを見た瞬間怖くなり人のいるほうへ逃げた。

ちょっと前に祭りの提灯つけを手伝った際に聞いた話だ。
2016/08/04 12:39

[765] 金色に光る丸い大きな球体 - どるとる

ドライブ中に山に沿うような形ですーっと金色に光る丸い大きな球体が転がっていくのを見た。

私の知り合いが体験した。今から四年前に、ある県道であった出来事である。
2016/08/04 12:45

[767] 魔法使いの靴 - どるとる

これもまた不思議な話ですが、仮にNとします。

Nがある日学校から帰ると玄関にいくつかの家族の靴に混じって爪先が尖った紫色の靴(爪先の部分がぐにゃっと上に向かって曲がってる)
よく魔法使いが履いているようなのがきれいに揃えて置いてある。

リビングにいるお母さんにその靴のことを訪ねて無理やり玄関に連れてくると靴はなくなっていた。

でも確かに見たし、お母さんを連れてくる何秒かの間に誰かが履いていってしまったのかなと思ってあきらめた。
ちなみにサイズは25センチくらいだったという。
2016/08/15 12:18


[680] 忌の館(怪談企画D) [返信]
投稿者:どるとる

より恐ろしい不思議な話を語ります。

2016/07/04 00:33


[734] タイムホール - どるとる

Oさんの昔住んでいた家には庭にそこそこ大きな柿の木があった。

ある仕事が休みの日、ごろんと横になっていた。窓から庭の柿の木が見える。

なんとなくじっと見ていたら根元のところ(地面から40センチばかり離れたところ)に木に直接穴が空いているのに気づいた。

あんなところに穴が空いているなんておかしいなと思ってると青い顔をした何かが突然その穴から顔を覗かせこちらが見ているのに気づくと焦った感じで

「あ、間違えた」

そう言って顔を引っ込ませて穴の奥に消えた。
やがて穴もだんだん小さくなり渦を巻くように消えた。

それはまるでドラえもんに出てくる未来や過去に行く際にタイムトンネルの出入り口となるタイムホールのようだったらしい。
2016/07/22 12:31

[736] - どるとる

事故で娘さんを亡くした夫婦の話。
父親は現状を受け入れたんだけどお母さんのほうは気がふれちゃった。
一日中ぼんやりとしてまともに食べることさえしない。

風呂にも入らずタオルで父親が体を拭く。
そんな日々が五年くらい続いたある日お母さんが変なことを言い出した。

「あなたがね会社で家を留守にしてるときに押し入れに娘と同じくらいの女の子が私に話しかけてくれるの」

少しずつ人と話ができるくらいに回復してくれたのは嬉しいが変なことを言うのは気になった。

ある日会社が半日の日があって家に戻ると妻が押し入れに向かって話をしている。

しかし会話は一方通行。ひとりごとで妻の声しか聞こえない。

声をかけようか迷って黙ってそれを見ているとやがて閉まっていた押し入れがすぅーっと開く。

(えっ)と思ってると

押し入れから顔がひょっこりと覗いた。

それは妻がいう女の子というものからはかけ離れた。
いや、それ以前に人間というものからかけ離れたものだった。

顔の皮が全体的に上部へ持ち上げられたとでもいうのかそんな顔をした奴がうげっうげっとゲップのような声を出しながら少しずつ少しずつ妻に迫る。
そのたびに押し入れが開いていく。

急いで妻の手を握り無理やりに妻を連れ出した。
その後荷物をまとめると半ば夜逃げのようにその家を出た。

家を出ると妻は日毎に元気を取り戻して行った。
あの家の由来はわからないが、多分家とは関係ないとは思う。
2016/07/24 15:11

[737] 田んぼの畦道を歩く行列 - どるとる

国仲は幼い時分から体が弱く時々実家のある都会を離れ田舎の祖母の家に預けられることがよくあった。

田んぼや畑ばかりの風景。
つきぬけるような青い空。
都会とは違い自販機もましてやコンビニもない。

田んぼと田んぼの間には細い畦道が通っておりギリギリ人を二人横に並べたくらいの道幅しかなくよくその道を散歩がてら往復していた。

その日も夕暮れ時、暇をもて余していた彼は田んぼの畦道を歩いていた。

家に向かって歩いていたら田んぼを三つか四つばかり離れた場所にこちらと同じように畦道があるのだが、その畦道をたくさんの行列が歩いているのを見た。

その姿は異様で影のように黒かった。
着ている服さえもわからない。
逆光で見えないのかと思ったが、どうも違う。

まるで色を抜いたように影のように人の姿だけが黒いのだ。

じっと様子をうかがっているとその中の一人がこちらを見た気がした。

突き刺さるような眼差しで隙あらば襲いかかってきそうな敵意を感じた。
怖くなったので走って帰った。
逃げる際遠く鐘の音がチリーンチリーンと鳴ったのを覚えている。
2016/07/24 15:21

[755] 手渡し - どるとる

独り暮らしをはじめて最初の日、
片付けもそこそこにして疲れてたので休んでテレビを観ていた。

テレビに夢中だったのかふいに隣の部屋から声がした。

「酒くれ」

そちらを見ずにあいよとビールを伸びてきた手に渡す。

その瞬間、はっと気づいた。

隣の部屋をバッと覗くが、もちろん誰もいるはずもない。

無意識に渡したから記憶が曖昧だが、やけに青白く長い手だった気がする。
2016/08/01 07:57

[756] 山に棲む蛇体の神様@ - どるとる

おばあちゃんから聞いた話なんでかなり昔の話になる。

戦後まもなくのことその頃おばあちゃんは学校に通う学生で、裁縫と料理を得意としていた。

ただ、外に出れば遊ぶのは女の友達よりも男の友達のほうが多かった。

今と違い遊ぶとなれば山と相場が決まっていた。

山といってもそれほど大きな山ではなく丘を少しばかり大きくしたようなものであるが、広場のような開けた場所もあるのでそこで球遊びやかけっこなどをしてよく遊んだそうだ。

隠れん坊をやってたと思う。
自分が鬼であと一人で全員見つかるというときになって探してると道の真ん中にぼうっと立っているのを見つけたので、

「〇〇見っけ」

そう声をかけると男の子はそっけない返事をし、

「今そこに見たこともないきれいな女の人がおってな、こっちに手を振ってた。上半身裸ん坊だった。白い乳房が見えとった。見んかった?」

何をばかなことを言っとるんだと思っておばあちゃんは呆れつつ適当にあしらいその日は帰った。

翌日、またその山で遊んでたら大きな箱を二人がかりで運んでるおじさんがいたので何をしてるのか聞いた。

「山の神様に供え物をしに行くんじゃ」
そんなことを言う。

考えてみるとそういえば山の奥に社みたいなのがあったことを思い出した。

それで、なぜかはわからないけどそのおじさんにみんなでついていくことにした。

社は立派なもんでお酒の一升瓶が供えてあったり野菜が供えてあったりした。

手を合わすおじさんたちにならって子供らも真似して手を合わした。

それから何日かした頃に山で消えた子供がいたそうだ。

何日も何日も探したのにも関わらず見つからない。

神隠しだと信心深い人たちは騒いだが何ヵ月かした頃にひょっこりと子供は親元に帰ってきた。

話を聞くと山の神様のところに行ってた。

そう言う。食事はどうしてたかを聞くと
2016/08/01 22:21

[757] 山に棲む蛇体の神様A - どるとる

神様がとってきた小動物の肉を食べていた。

神様の胴体は蛇のように長く鱗のようなもので覆われていたという。
顔は頗る美人で言葉は通じないし姿こそ恐ろしかったがとても優しくしてくれたという。

あとで(天狗の隠れ里)に似た話だと思った。

神様のディテールも蛇とあって神聖な感じがする。
その時代の匂いや空気が感じられる貴重な話のような気がする。
2016/08/01 22:30

[758] 首振り人形みたいな子供@ - どるとる

子供の頃、親戚の家によく行った。
それというのも親戚の家には自分と同い年のみっちゃんという男の子がいたからである。

長い休みになると必ずその親戚の家に行く。
小学校の四年にもなると山道も楽々のマウンテンバイクを飛ばして30分程度で親戚宅に行けるためその頃になるとよく頻繁に行っていた。

その親戚の家の裏にはその親戚が所有する竹やぶがあった。
よくその竹やぶで遊んだ。
遊ぶといってもくだらない話なんかをしながら探検ごっこをするだけ。

でもそれがなんだか楽しかった。
話の合う友達と好きなアニメや漫画の話で盛り上がる。

夕方近くになってしまったので帰ろうと竹やぶを来た道に戻った。

だいぶ奥まで来てしまったようでなかなか入り口が見えてこない。それほど広い竹やぶではないもののうす暗くなると方向がわかりづらくなる。

やがて入り口が見えてきて暗くなったからおじさんの軽トラで自転車荷台に乗せて送ってもらおうかなんて話をしてると急にトイレがしたくなった。
恥ずかしい話、大だった。

家までは持ちそうになかったので仕方なく竹やぶの物陰ですることにし、みっちゃんに待っててもらうようにして一人適当な物陰にしゃがみそこで用足しをすることにした。

踏ん張ってやっと出るものも出たのでズボンを上げてチャックを上げた。

さあ帰ろうとしたときにふと背後に視線を感じた。
その視線の先を見ると異様に頭のでかい子供が薄ら笑いを浮かべながらこちらを見ている。

まるでその頭はカボチャのようで、水風船のように巨大でありその重さのためか首がぐわんぐわんと上下左右にゆっくりと揺れていた。

「うわ、これは見てはいけないものだ」

そう思って帰ろうとした瞬間に(ドスン、ごろろろ)と何かが転がる音がした。

ふいにその子供のほうを見ると首が地面に転がりその転がった首がこちらをじろりと見ていた。
2016/08/01 22:45

[759] 首振り人形みたいな子供A - どるとる

怖くなって、走って逃げたが、入り口にたどり着く間際までケラケラという笑い声があたりにこだましていた。

必死の形相でやって来た僕にみっちゃんは何があったのかを聞くがさすがに今見たことを説明するのは怖かったので何でもないとごまかした。

それからは竹やぶで遊ぶのはやめて遊ぶのはもっぱら家か庭に限定した。
2016/08/01 22:48

[760] 夜の葬儀@ - どるとる

真夜中にお葬式をしているのを見たことがある。
いまだに夢なのか現実だったのかその辺がはっきりせず曖昧な話だ。

栃木県にDという町がある。用事がありそのD町に来た。

用事を終えて宿泊先で夜まで寝てしまった。
煙草と麦酒を買いに近くのコンビニに行った。

コンビニの帰り、裏道を使おうと冒険してみることにした。なにぶん慣れない道なので迷うのはすぐである。

同じ道に出てしまう。そんなことを繰り返してるうちにある家の前まできてしまった。

「〇〇家葬儀」

そう書かれた看板。門があり両側に御霊灯。

夜に葬儀か。そんなこともあるのかなと思って、立ち去ろうとした瞬間、門が開いた。

ギギィという嫌な音を立てて門が開くと喪服を着て髪を後ろで縛った女性が私に向かって

「今日はお忙しい中ありがとうございます。あなたも葬儀にお越しになったのですね。どうぞこちらです」

そう言ってシャツの袖を引っ張る。

その力が尋常じゃなく抵抗することもできずあれよあれよという間に玄関、廊下と来て仏間に連れて来させられた。

「ご焼香をお願いします」

そう婦人は言った。

見ると電気を消したほぼ真っ暗な部屋に月の明かりだけが差し込んでかすかに暗がりを照らしていた。うつむいて顔の見えない数人の喪服姿の人たちが両側に座っていた。

ご焼香をするだけならいいかと適当にご焼香をすまし、手を合わせた。
故人の遺影は暗くてよく見えない。

帰ろうと向きを変えると

座っていた人たちがバッと立ち上がる。数珠を手にいきなりお経を唱えはじめた。

うろたえていると数珠を持った数人がじゃらじゃらと数珠を擦りあわせる。

「なむみょうほうれんげきょう…」

法華経を唱える数人の間を潜り抜けて廊下、玄関と来て玉砂利の敷かれた道を門まで走って逃げた。

門を出たところから記憶が途切れている。
目覚めたときには
2016/08/01 23:15

[761] 夜の葬儀A - どるとる

宿泊先のベッドの上だった。
しかし、部屋中に線香の香りが充満していた。
嫌な夢を見たと思った。

あとで気づくと革靴の裏が腐っていた。
その靴は捨てて新しいのを買った。

自分は参加してはいけない葬儀に出てしまったのではないかと思うと今でも気味悪くて仕方がない。
2016/08/01 23:20

[762] 呼子 - どるとる
Nは昔、不気味な体験を一度だけしたことがある。

近所に空き家があった。
表札は削れてしまい名字はわからなかったが、以前まで年寄りが一人で暮らしていたという話だけは知っていた。

その頃、噂でその家を夜に通ると窓に人影が見えると言われていた。

夜中、塾帰りたまたまその道を通った時にその家の前に来たときにその家にまつわる噂を思い出してしまった。

走って帰ろうと下を向きながら通り過ぎようとした直後ふいに名前を呼ばれた。

「たくや」

咄嗟に声のしたほうを見てしまった。

窓に人形のようなものが吊るされていた。

よく見ればそれは首だけで金色の髪飾りをつけた雛人形の首だった。

気のせいかと思って多分誰かのいたずらだろうと行こうとした時に再度

「たくや」と呼ばれた。

えっと思ってもう一度同じ窓を見ると巨大な首がこちらに向かって

たくや、たくやと何度も呼び掛けていた。

さすがに怖くなり逃げ帰った。

それからはその道は通らない。
2016/08/06 05:48
No. Pass.
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