詩人:ハト | [投票][編集] |
いつも同じことを考えているんだ
それは例えば
誕生日の前の一瞬
ここに居ることを実感させられる
それは例えば
卒業式の一週間前
しがみついていたくとも
否応なく突き放されていくモラトリアムとのお別れ
それは例えば
異国を離陸する瞬間の
惜しむ気持とそれから安堵
どうしようもないのは
分かっているんだ
だけど気持ちが
無視できなくて
いつも同じことを考えているんだ
いつも同じことを突き付けられるんだ
きっと今夜も
秒針を見つめているんだろう
同じ気持ちを無視できなくて
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ぶりの半身が届いたよ
母のさばく手元を見ている
大人に成りきれないわたし
半分はお刺身に
もう半分はブリしゃぶに
アラは塩を振って焼こう
お腹一杯になって気持ち悪くなっても幸せ
お祖父ちゃんが欠けた
家族全員で囲んだ
今年最後の食卓
アラ焼きは私のものだよ
ねぇ、ねぇ
本当にありがとう
ありがとう
嫌いだと思うときでも
あなたたちが大好きです
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私はこの後きっと
あの空の色合いを
あの不思議な色彩を、光を
忘れる事はないのでしょう
「ゲリラ雪のため、ノーマルタイヤでの走行は不可能です」
そんな起伏
あの坂の上
つながる先はいずこ
冷えたハンドルを握り締めて
傾斜を始める坂を降る
溶け出しそうな朝焼けに
夜の名残を纏った雲が
まるで初めて見た世界のよう
好きないろ
嫌いないろ
あなたのいろ
私のいろ
こぼれだして
あふれかえる
いろ、いろ、いろ
しっかりと目を開いて
焼き付けておこう
時速80キロのこの空間から
通り過ぎてしまわないうちに
刻一刻と変容していくの
この景色も、ね
愚かでしか在ることが出来ないのは、不幸ですか
「この先路面凍結走行注意」
だけどこの道を通らないと
私の場所へ帰れない
し、辿り着けないのだから
スノータイヤで武装して
形の定まらない朝日を進行方向に
選択肢がありすぎて逆に不便な毎日に
向かう
さあ
行こう
この景色を忘れないうちに
この色にまだ
涙を誘われないうちに
さあ、行こう
その季節に
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長い長い時間をかけて
描いた螺旋は如何程だろう
その枝を覆い隠す
私は蔦です
ねえ、いいの?
じっとしていていいの?
私は蔦です
欲するのはそこに差す光
その枝ではないのです
おとなしく絡めとられていて
いいのですか
執着と愛を込めて
描いた螺旋は如何程だろう
全てを覆い尽した時には
きっと
あなたは枯れるのでしょう
それでも
それでも
私は蔦です
この螺旋を止めることは
できないのです
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あなたの言葉は雨
私をぬらしはしても
私のものにはならず
すぐ乾いて
何事も無かったかのように還っていってしまう
極力、傘は持たない
持ち運びが面倒で
しかもよく置き忘れる
私はあなたになりたかった
姿見に映る自分自身が
段々と見えてきた
いや、映っているものが
理解できるように
なってしまったものだから
あなたの言葉は雨
乾いたアスファルトに
水玉模様を描いている
私は蛙にすらなれない
待ちわびて
待ちわびて
打たれたと顔をあげた
その瞬間から
雨は乾きだすものだから
笑ってしまう
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無邪気にも
同じお皿を舐めあったね
あの頃は
君の作った
小口切りソーセージ入り
スクランブルエッグ
宿題もおざなりに
ゲームに熱中する君を見ていた
真っ白いお皿と
焦げ付いたフライパン
それと、
ゲームのコントローラー
私も君も
走ったり跳ねたりする事に
ただ熱中していただけ
同じお皿を舐め合うのも
どうと言う事は無かった
半分ずつ舐めとっていった
小口切りソーセージ入り
スクランブルエッグ
君は今も
誰かに作っているんですか
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宿題のプリントと
コンパスを持ってって
覚えてるかな、あの天体観測
あの頃私達は
たくさんの、たくさんの
星座を知っていたけどね
二人、隣り合って
覗き込むコンパス
明日がやって来る方を知ってる?
未だに方角が分からない
お日様はどっちから昇ってきたの
堤防に腰掛けて二人
握り締めたコンパス
今日がどっちへ帰っていくか知ってる?
今は白く塗り替えられた堤防
曲線を描いて平行に走る
私は私の
君は君の
方角を指し示していた
テノヒラの上のコンパス
疑いを持てるほど
利口ではなかったから
簡単に道に迷ってしまったよ
プリントの空白は
埋まっていったけど
私達の間には
あの夜空が
広がりつつあって
私と君は
こぶし何個分離れてるの
二人の距離繋げたら
何て言う名前の星座が出来るのかな
今は記憶だけが君の存在だから
降り積もった思い出だけが私だから
覚えてるかな
あの天体観測
覗き込んだコンパス
私と君、と名付けた星座
君のいるその場所から
私はちゃんと見えていますか
私からは君が見えません
コンパスの指す方を見る二人は
そういえばお互い
背を向けていたね
夜空が傾いて
バイバイと手を振った
君の家は天の川のすぐ近く
ねえ
明日がやって来る方を、
知ってる?
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今年は暖かくて
積もる雪もなくて
履き替えた
スタットレスタイヤは
擦り減っていくだけだね
朝、二段ベッドの下から脱け出して玄関を開けるまでが楽しみだった。透けない二枚ガラスの向こうは、雪降ってるのか、降ってないのか。私の部屋には窓がなかったから。
二月は雪が降りやすい
昨日ニュースで言っていた
今日の滋賀県北部は
曇りのち雪ですって
私はガソリンを入れに行こうと思います
夕べはさすがに
カーテンを閉めた
あの冷え込み様
目が覚めると震えていたので
笑ってしまった
ソファで寝た私が悪い
雪の日は人一倍はしゃいだ。シモヤケはかゆかったけど、かくと痛いから我慢をしてた。足の指がパンパンになって、これは悪い血が溜ってるんだよ、と祖母に言われた。お風呂でよく揉んどきなさい、と母にも言われた。痛いから触りたくないのに。
車には常に
スコップが積んである
お子様用の赤いプラスチック
お子様の私にはそれで十分
車も傷付かなくて済む
家を出る前
何かしらお菓子をくすねていく
これは非常食と言い聞かせるけど
帰ってくる頃にはもう
無いことを分かっているので
毎日が非常時
と言い聞かせる
私に
歩くと、ただそれだけでシモヤケた足が痛い。ヒョコヒョコと変な歩き方をしている私を、兄が指差して笑った。おまえもシモヤケになってしまえばいいんだ、とは言わなかった。だって私には、アトピー性皮膚炎の辛さは分からないから。
今日の滋賀県北部は
曇りのち雪です
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彼が一言
にゃあと鳴けば
裏口の戸は
しずしずと開き
黄色の餌箱
もとい
彼の食卓には
彼のためだけの
ゆうげが満たされる
ただ、忘れてくださるな
汚れたお御足では
上がって頂けませぬゆえ
御覚悟下さいませ
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園庭にあった遊具は
丸くて大きくて
ね、まるで地球儀
ただ早く回すことに
一生懸命だったのね
地を蹴る
地を蹴る
宙を舞う
私たちは風になびく
回っているのは私達なのにね
世界の方が回ってるんだと思ってた
くるり
くるり
くるり
命を与えられた
子ども達が回る
ひらり
ひらり
ひらり
与えられた
色鮮やかな衣服が舞う
子ども達は笑わない
ただ回り続ける遊具につかまり
虹色に暮れていく空を見ている
遠心力と重力と
抗い難い引力と
私達を包む様々なもの
感じて
回す地球儀
翻る色彩
見つめる先は、あお
ただ、早く回すことに
一生懸命だったのね