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千波 一也の部屋  〜 投稿順表示 〜


[779] 水晶になる
詩人:千波 一也 [投票][編集]


透き通る石が相手なら

わたしの瞳もまもられそうで、

こころゆくまで

あずけて

うるむ


そんな夜には

ゆびも優しくなれるから

ゆめをすなおに飲み干して

爪は爪のまま



自由はいつでも自由のために、

あやまるための哀しみを

そこには寄せず



わたしの灯りは小さいけれど

果てなきうみのさかなのように

およいでくれた

水晶のこと、

それは

おどろきではなく

はかないものでもなく

おそらく不思議をつなぐもの

みごとなひかりに誘われて、

懐かしさを越えるための

その奥へ

ともに遊んで

ともにけなげに

月のたもとでとけてゆくまで



まぼろしの手前の

言葉をえらぶかたわらに

あなたの瞳をえがいてみた、

ふと


そこに持ち合わせたこころの名前は

透き通る石のなかで

ほほえみに染まるから

いつかきっと、

その続きもそっと

しなやかな遠くまで

待つためだけに

逃げてゆく



すべての隙間にこぼれて澄んで

水晶になる、

つるぎも

星も



2007/03/01 (Thu)

[780] いつか旋律へ
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脱ぎ捨てたシャツには

汗の匂い

それはそのまま

あすへとながれて


うっすらと

口づけをもとめる

よるの首筋は

片付けきらない部屋の

すべてを横切りとけてゆく



 あらゆる途中を

 かわせるはずもないままに

 さまようことを

 おろそかに遠ざけて

 戻りつづける素肌の微熱

 かばうつもりの涙から

 たぐり寄せられ

 絡められ

 はやる季節はいまもなお

 眠りのふちで待っている



荒々しい直線を

知らないままでは

かなしみはすれ違うから

抱きしめるちからの確かさは

情けなさを忘れるための

けものの習い


及ばないことなど

はじめから捨てたものとして

かろうじて息をする

背中で誓いは



あやまるともなく

星をかぞえて

ここからの

五線譜に

きのうのためのきのうは乗せず

ときの向こうを貫くような

はじめての旋律を

いつか


たやすい言葉に紛れることなく

幾度もかさなり

ゆれながら

2007/03/05 (Mon)

[781] 針葉樹
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よみがえる言葉を

踏みしめながら

いつの季節もささやかに鳴り



 のびゆくはずが

 逃げてゆけないものへと

 落ち着いてしまった


 あたらしく

 おとを試して、

 更なる空をおいもせず



結び目だけは

ていねいにしなさい、と

去りゆく風から

見つめられ


足音だけが沈みこんでゆく

それが、くれない



 いつからが、つち

 いつまでがつち



燃えるとするならば

両手はいかにも砂のいろ

きびしさに負けてしまうまで

孤独は、枯れて



 いのりの数を

 おだやかにそそぐ雨は

 みがわりの

 羽


 無言のなかでも、

 あきらめを棄てながら



他人を絡めるゆびさきの

目覚めとともに

森はある


たとえ閉じゆくさなかでも

さいごのおとには

だれかが

続く、


ふかき護りに



2007/03/05 (Mon)

[782] 春風を凌ぐ君
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ふと気がつけば

後ろ手の冬


雪の匂いも薄らいで

それとは知らず

陽をまとい


季節は

追い越せないものだとばかり

待ち続けてきたけれど

いつの間にやら

景色は流れて



 暦、三月



すぐにもそこに

足音が軽やかであるのなら

同じおもてで

名を呼ぼう



君から遠く離れても

鮮やかな香に

つぼみは

揺れて


透けてゆく胸から

願いは始まる


まだまだ広い

こころのうらで

不意の訪れ

やさしく

染めて



 光、架橋



春風を凌ぐ

君の日につつまれて



 桜、便箋


 雪、飛脚



春風を凌ぐ

君に逢いたい

冬のひとひら夢見るように



2007/03/06 (Tue)

[783] ひとは優しくなる
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別れの時刻を知ったとき

ひとは優しくなる



 すなおには

 明かせなかったこころをもって

 朝はかならず来るのだと

 ようやく夢は

 ここから

 近く



ありがとう、

すべてのひとつは

生まれることの水音だったね



似すぎたものに戸惑わないで

届かぬ空にうなずいて

守るべき抵抗を

つかむため



 いつかの夜に許したことを

 いまならわかる

 おそれの末と


 都合のような頼りの果てなら

 そこへと帰る道などない

 闇に塗られる筈もなく

 それすら奪えば

 嘆きは曇り



知らないままでいたかった

子どものままで、と

うそぶくたびに

乾く風など



 送り、遅れてしまえる日々は

 未完のつなぎめ

 もろくも強く



またいつか、

つづきの言葉を忘れたふりで

ひとは微笑み

荷をかわす


別れの時刻を知ったとき



2007/03/06 (Tue)

[784] 烙印
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遠鳴りを

たずねてゆびは

更けてゆく



 傾き、

 あざむき、

 なき、みさき、



橋の向こうを告げられぬまま

こころもとなく

火を浴びて


頑なに

待ち人の名を忘れてしまう



 憂い、

 ねぎらい、

 幸い、つらい、



内でも外でも

織りなす檻うた

やがての白まで鋭くあふれて

重みは時流を

さすらって



 もう、帰れない、



置き去りだった

なにもかも

その逆も


途絶えることなく

月読む風は氷を慕い



 遙か、
 
 焦がれる、


 いまは、ただ、



なぞりに従い

影は背中を離れない


落ちたはじまり

そのままに



2007/03/08 (Thu)

[785] 八日月
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つゆのおもてを奏でるような

かすみの語り部、

八日月



 白々しくも、

 ゆかしいものです



枝のあいだを

いそぎもせずに

はかなさをなぞるには

聡明すぎる、ような



 老いも若きも

 灯りでしょうか


 過ぎゆくものは

 いくつかぞえても

 わすれてしまいます


 いいえ、

 それゆえの

 流麗なのかも知れません



呼び声にしたがって、

とどかぬことを

腕は続ける


だれか、

それをたやすく哀しむだろうか



 やがての季節は

 いまも昔も変わりなく、


 わずかな寄る辺を

 禁じるすべ、が

 ときでした


 あらゆる姿の



こぼれるひかりの

その波に、

舟は舟から

さらなる舟へ


まぼろしではなく

けれども綴れぬ、

夜のみなもと



2007/03/11 (Sun)

[786] オクターブ
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さがしてみても

しっぽは見つからない


まるで

気泡のような午後だから、

いつの窓にも

ふたりは

求めて



 やわらかな、視線


 だれにも始まる

 デッサンの



ひとつでも、

拒む何かがあるのなら

まねごとには終わりなく、

閉じてゆく日々に

かならず添える、

小指はいつも

しずかな

レモン



 物憂げな、アルト


 あこがれていたのは

 むしろ、ソプラノかも知れず


 横顔の手がかりは、もう

 あのバスに



聴かせるつもりをよけながら

おぼえた言葉をつたい合い

響いた数だけ

てのひらに、



 世界は

 破片をつなぐ乗り合わせ


 ひたすらな足もとから

 ほどいて渡るように

 風たちの、ピュア



高く、向こうのためのあやまちを


あそびも眠りも

おだやかに


2007/03/11 (Sun)

[787] 蝶々結び
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まちがうことを

素直におそれた日々は

だれかのきれいな蝶々結びに

たやすく揺られる花だった


あの草原で

かぜを追いかけてゆくことに

不思議はどれほど

あっただろう



 ためいき、ひとつこぼれる


 あわてて

 しあわせを吸い寄せる


 そんな

 不器用さのあることが

 ひとつの花であるかもしれない、まだ


 だけど、でも、



にがてなものに疲れた午後は

ひとりしずかにそらをみつける


いつものながれを

ごくしぜんな幾つものながれを

はじめから決まっていたことのように

呼びたくはない

空、などと


だから、みつける



 なつの匂い

 ふゆの匂い

 なつかしく

 いつの季節もめぐるなら

 それはひとえに大きな、はる

 あふれる花の

 揺られるままの



あしもとに

転がるすべてが教えのかたち


すぐにもかぜは吹くけれど

それゆえ蝶々は

結ばれ続ける


ひらいて、きれいに、はばたいて、



2007/03/22 (Thu)

[788] ぬかるむはる
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泥を かわして

かわして また 泥


すきだとか きらいだとか

そんな難しいことは あとからになさい

もっと ずっと あとからになさい

余裕がでるまで 待ちなさい



 陽をあびて みんな

 どんなふうにも 混ざり あい
 

 いそがしいものだ ね 

 日々のいのちは
 

 いそがしい ものだね 

 しきたり しき たり
 

 風にほどかれ みんな

 どんなふうにも 呼ばれ あう



ぬかるむことは じっと待つこと

ゆっくり すること


あきらめを にがしなさい

あしたの嘘を 捨てなさい

あやまりたいなら つかりなさい

あやうさを あいまい に

あきらかな道 の

あまのじゃく



 あまがえる、るるん


 あかさたな、

 はる


 はまやらわ、わ、は、


 いきし ちに、 ひび

 ひみいりい、に、ひ、



はじめから

みんな おんなじ はじめから


あめんぼ ありんこ つくしんぼう

みんな まっ白 

まっすぐに 

ゆき


あめ ゆき とかして

はるは 泥うみ けがれなく


はるは 泥うみ 

なみなみ 



2007/03/26 (Mon)
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