詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
あの日を
あの日、と呼ぶことは
思いも寄らないことだろう
あの日の僕には
時は
流れてゆくものだと思う
追い越せないことは
確かだけれど、
離れ過ぎずに
ちょうど良く
追いかけて
そのくせ振り向いて
溺れかけながら
時を
流れながら、僕は
言葉を探すのだと思う
そのさなかについて
おまえ、と呼んだ日の
風のまぶしさ
オレ、という名乗りに
支配されていた
懐かしい匂い
君、の響きを
低くから受けとめた
時計塔の空
あなた、のなかにある
ごまかせない幼さの
不思議なひかり
僕はそうして
僕だけの番人として
やがての海を予感する
勇気と希望と回顧と戦意と
いつかの僕を
僕はどこまで否めるだろう
水たちの名の
やわらかな対峙の形の
さなかで
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満月が
飽和してゆく
そっと
するどい涼しさは
船乗りだけの
うろこです
ただ一言でかばわれて
消え入ろうにも
悔やまれて
丸みを帯びた
涙の甘さに透かされます
あまりに綺麗な翼の夜に
還元される本質の青
幾億の荷が
忘れられない岸辺を
築く
音を立てては
なりません
金色に
遠ざかる脚
その装飾となる
崩れたままの
無形の背
たじろぎますか
火のそばで
腕に
覚えのあるうちに
断ち切ることを
過ちますか
地平が
恥じらってゆく
自由の代償は
もっとも硬く美しく
ここにあります
今はまだ
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いい匂いがしたもので
いい気になって
追いかけて
できないことは
どこにもない、と
一目散に
忘れもの
置き去りはいつも
ひとりぼっちの
さかな
やがて
じわじわ
仲間になるよ
瞳を閉じて
海のなか
まっすぐ曲がれば
おなじに
なるよ
どうしようもなく
逃げ惑う音だけ
鮮明だから
ゆらゆら、
尾ひれ
きょうも誰かが
迷ってる
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機械的な
街だとしても
あしたの祈りが渦巻いて
それと同時に
幾度も踏まれて
けれども確かに
きのうはあったから
あした、と呼ばれる
きのうは
あったから
スクランブル、
少しのあいだ
足たちが止まる
手のなかにある
痛みをそっと
迎えるように
夢見るこころの表面の
名もなき顔は
きょうもまた
翼にかわる
人知れず
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数えることは
もうやめましょう
恨みつらみも憎しみも
優しさという
そよ風も
むかし、
草原だった日の思い出に
にわか雨が降ります
ちいさな箱で
目覚めることが
見上げるかたちの
ひとつ、として
すっかり
穏やかです
だれか、
抱きかかえてくれますか
それは
怯える数にも
勝るものだ、と
教えてくれますか
最後の最後まで
行き止まる壁には
色がありました
すれ違ってきた手を
ほどよく匂わすように
やがて、
帰らぬものをさがす日に
泣き声はただ
月になります
どうか、
続きますように
せめてもの
かけらが
どうか
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階段下は果てしなく
あらゆる定義をつぶして
みせる
のぼる者には延々と
おりる者には
刻々と
語るなら
陰たちのとく
無声に届け
階段下は果てしなく
ひとつの素顔を
隠してみせる
やさしい時間の
吹きだまり
ぽつり、としずくが
寄り添う
日なた
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使い古した姿については
ぼろぼろだね、と
同意をしよう
けれど
わたしたちが
聞き取れる言葉は
そこまでだ
知らされていないほんとうを
伝えるすべもなく
ひた走るような
沈黙を
ときどき見かける
埃まみれに
飼い猫まがいの手足なら
なにをきれいに
傷つける
捨てられた
そう遠くはない行き先を
つとめてしずかに
履きながら
ふるえる
風の
おもいに
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あわてなくても大丈夫
きみはそのまま
泳いでゆくから
大丈夫
そこにあるものを
取っておいで
いちばん上手に
見つけて
おいで
ねむれる場所は
そのまま、がいい
はしごをかけてごらん
そよいでゆくから
みんな、
浴びたそばから
始まりだすから
きみは
いくつを願うのかな
おそらくは
知らないうちに
求めてしまうのだろうけど
くすぐったい、でしょう
あどけない
髪には
おそれなくても大丈夫
抜け道はすぐにも
向こうの方から
訪ねてくるから
大丈夫
雲のすきまで
いたずらしながら
待ってておいで
すきなら、
ね
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
軒先で待っているのは
はじめての雨
覚えるばかりでは
砕いてしまう
なにもかも
降る音も
そそぐ景色も
かなしい無限として
砕かれてしまう
一粒よりも
はるかにもろい
ただ一匹の存在に
まぼろしのような爪に
頼るともなく
暮らしは
傾いていたのだろう
五感をただしく
なげうって
ふるさとがまだ煙のうちは
凍える季節もわるくない
できるだけ
たくさんの意味に
連れられて帰りたい
薄皮みたいな
よろこびでいい
だから、円く
円く描かれ
揺れて
みる
軒先で待っているのは
おわらない雨
ふしぎに濡れる
傘のなか
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ほんの小さなぬくもりに
まどろみかけて
おもわず、
にゃお。
素性はね、
甘えていたい
だ円です
きっと
格好をつけて
するどいように
ごまかすけれど
見つからないかくれんぼは
いやだもの
いじわるしても
遠くをみていても
それほどむずかしい
仕組みじゃない
つついてごらん
少しだけ怒らせてごらん
すぐにもきっと
すり減るような
気がするよ
こたえることで
消えてゆくんだね
おなじなんだね
みんな
だけれどそれは
かなしい星じゃないから
どこかですっと
横切るよ
必ず
黒いかげしてさ
さびしさの日を
離れずに、
にゃお。