詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
きみに降る雨の日を
ぼくは知らない
いちばん、
知らない
余地の
あり過ぎることが
迷子という方角を狂わせて
ときどきぼくは
ひどくさまよう
ついつい
惹かれてしまうものは
控えめなつもりの
あまい蜜
それは
どこか乱暴で
やがてはよく似た
大人へ変わる
ぼくたちは、
背中未満
猛毒に対処する方法を
見つけられないまま
ながめることに
長けてゆく
ぼくたちは
匂い過ぎる、胸
うまれることへの
あこがれに
おぼれて
育つ、
果実のよわみ
きみに降る星の日を
ぼくは待っている
いちばん、
とおくで
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
もしも
花弁が落ちたなら
終わりましょう、
きょうを
あしたを向いて
もしも吐息を
こおらせたなら
呼び直しましょう、
水の微熱を
いのちの名前を
もしも
願いを叶えたのなら
捨て置きましょう、
ちいさな痛みは
無数をひとつに
かえすため
もしも
ほのおに包まれたなら
夢の時刻はおしまい、です
星の列車を
仰ぎましょう
もしも孤独が
咲いたなら
はじめましょう、あしたを
かなしみの途中
やさしさの
向こうで
もしも、
もしもがほんとうならば
その為にだけ贈りましょう、
この歌を
にせものかも知れなくても
寄り添いましょう、
この歌は
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
かぜをすする、と
むねは
しずかさを
とりもどす
むかしむかし
おそらくぼくは
みずうみだったのだろう
かわではなく
うみでもなく
つきの
みちかけと
おしゃべりしながら
かぜのゆくえを
みていた、
のだろう
かぎがひかる、と
むねは
おそれて
さわぎだす
それゆえぼくは
こわくない、
こわくない、
と
なみだのなかの
てつに
なる
あしたもかならず
あめだろう
いともたやすく
よろこびに
しずんでゆくのを
こばむため
そうやってぼくら、
まざり、あうんだね
わかるかい、
きみのとけいが
かたるもの
わかるかい
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
あめを
かぶるひとたちは
おうさまとして
こわいことばを
あやつります
わがものがおで
わがものがおで
うそもほんとも
とびこえます
とうのむかしに
そらがなげだした
かんむりを
いまでは
だれもしりません
あめを
かぶるひとたちは
そのおうこくに
みをつくします
うたがいもせず
うたがいもせず
まぼろしかもしれない
かんむりを
そっと
のせて
のせられて
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
あさがたに
いきかえるいのちを
つきはしっています
そうしてつきは
さかなのゆめを
おもっています
おたがいに
みるものがなければ
ただのあぶくですから
なんとなく
ちかい、の
です
けれどもよるは
かならずおとずれるよるは
ひとつのて、でさえ
うたがわせるので
みな
うらがわへと
わたります
そのいとなみを
だれかが「し」だと
よびました
ときのながれは
むずかしいものです
すくわれても
すくわれ
なくても
そこここに
いたい、という
こえはおなじですのに
そこここに
いきていたい、のに
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
よろこび、という
ことばそのものの
よろこびは
どこにある
ただしさ、という
ことばそのものの
ただしさは
どこにある
どうして、という
といかけそのものの
どうして、は
どこにある
おかえり、という
よびかけそのものの
おかえり、は
どこにある
それなりに
じゆうなわたしは
おなじくらいのちからで
とじられようとして
いる
かなしみ、という
ことばそのものの
かなしみは
どこにある
かなしみ、という
ことばそのものへの
こたえは
どこに
いる
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
つとめて
まっすぐに
まがっていきたいものです
つとめて
ねっしんに
さめていきたいものです
そうして
やっぱり
つとめてたくみに
へたくそになりたいものです
うたは
かぎりなく
おまじないににていて
ほら、
だれもがじぶんを
よそおいながら
しんじつへと
あふれて
しまう
そこにはやがて
はながさくので
ひとびとは
しあわせ・ふしあわせを
さがしはじめるのです
だれもがおんなじ
やりかたで
つとめて
じゅうなんに
かたくなりたいものです
つとめて
ぱさぱさに
うるおいたいものです
うまれもった、この
かなしみを
かなしみの
ひを
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
なにもない夜に
孤独はうまれない
たぶん、
そうでもしなければ
孤独になってしまう、と
ひとはあわてて
うむのだろう
負けじと
ひとり、闘うのだろう
なにもない夜に
なくせるものなどない
はじめから、
夜にかぎらず
はじめから、
てのなかにあるものは
てのなかへ渡そうとする
ことばの熱だ
かたちのないものを
あまりにもかたちにし過ぎて
ひとは自由をなくすのだろう
はじめから、
存在していないだろうものから
のがれるすべを
なくすのだろう
なにもない夜に
おぼれてしまえばきりがない
なにもないのだから、
おそらく、
必要不可欠なものとして
なにもないのだから、
ひとは
ひたすらみちを行く
なにもない夜に
なにもない夜を
動力として
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
ふたりは、
まだまだ遠い
互いの肌をすべるとき
温度がちがう、と
わかるから
のぼりつめて、
のぼりつめて、
この
からだをつつむ
きみにもたれる
ああ、
やっぱりそこは
そこなんだね
そこだったんだね
わすれ上手な水が
のこしたものは
ふたりの呼吸
なつの匂い
ねえ、
窓のくもりに
なにを書こうか
やがては逃げてしまうけど
いつかはわすれて
しまうけど
霧のよる、
ふたりは何度も
水になる
確かめあって、
ことばに
なって、
めぐりめぐって
またもとめあう
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
咲いてゆく音が
きこえます
川が
はじめて山をなすこころ、
そういうものが
乱れていきます
置いていかれることも
置いていくことも
じつは
まったく
同じこと
ほら、
よぞらの星はきれいでしょう
遠いでしょう
かばい合う布として
まっとうできる約束は
枯れないこと、
です
わずかな意味にも
枯れないことです
たとえ途切れてしまっても
ひとは絶えずに
棲むでしょう
やみのそこ、
もっともきれいな
ながれのなかで
その身をあらい
かがやくでしょう