詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
信じることが
すべてであることに
変わりはないわ
きのうも
あしたも
何にもくれないのなら
進むしかないわ
信じた先が
傷だらけでも
泥まみれでも
そこから先へつながる道は
必ずあるから
わたしのゆめは
紅くながれて
冷めたり
しない
暮れない昼がないように
暮れない夜も
きっとない
だから
言ってるじゃないの
信じることが
すべてなのよ
すべてでなければ
この世は成り立たないのよ
結果論じゃなくて
感情論でもなくて
だれも見たがらない
さわりたがらない
ささいな闇の
お話よ
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
泥のなかに いたね
いつも そこしか
なかったね
汚れることなど なかったね
すべてを 受けて
おのおのだった ね
なんにも 簡単じゃなかったね
だけどなんにも 失くさなかった
形を変えたものはあっても
なんにも 要らなくなかったね
泥のなかには 水がある
水のなかには 不純がある
不純のなかには 純がある
純のなかには 澱みがある
泥のなかに いたね
恥じらいながらも まっすぐに
空につながる 不思議だったね
海も 緑も 鏡の向こうみたいで
泥のなかに いたね
選ぶことも なく
選ばれることも なく
素直に けなげに
やわらかだった ね
いつの日にか も
いつの間にか も
あのころは ただ
やわらかだった よね
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
遠く、
海を呼ぶ声が
かさなり合って
海からの声は、もう
ちいさくなった
探せないものはみんな
いつかきれいに
空からくだる
たやすくは
気づけないかたちで
空から降る
浅く、
ひざまずいた地面から
風を見送る風が
ゆくのを
そっと、
手放すための
風が吹く
上手に捨てる
すべなどないから
みんな、染みて
深みをさけて
深みにはまって
聡明に、空に焦がれる
それはそれは
透明なかたちに
凪いで
廃墟へ還れ
時を生まれる旅人よ
おそろしい波の心臓に
ただよう波のやさしさが
最もおそろしい
ならば、まだ、
声で良いのかもしれない
はかなげでも
あやうげでも
無数に群れた途上の夢の
水で良いのかも
しれない
しずかに、にぎわう
しずくの
寄る辺
は
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
少なからず、
迷いはあったから
今もまったく
そうだから
なるべく
人にはやさしくありたい、と
やさしくされたい
言葉はきょうも
眠る時間です
少なからず、
痛い思いは味わったから
おんなじ思いは
たくさんだから
傷つきかけた誰かのことを
守らなくては、と
構えています
まるで
新たな傷口を
まだかまだか、と
待つように
少なからず、
好意はあったから
結んでもいない約束に
うかれていたのは
事実です
それとまったく同等に
裏切られたのも
事実です
でも、
だれにも同意を
得られないわけでもないから
わたしのような正直者は
つぎなる行為へ
つぎなる行為へ
行けるのです
少なからず、
度を超えた自覚はあったから
熱かったから
どうにでも、
止めてほしかった
毎度のことながら、
それが
言えるのは
あとからだから
寒いんです
いまさらながら
寒いんです
いまさらだから
どうしても
間に合わなくて
凍えてるんです
少なからず、
間違えてきたから
そのたび
愛してきたから
愛されたから
正しく在ろう、とは
誓えないんです
だれにも
いつまでも
誓えないんです
少なからず、
努力はしたから
怠けもしたから
大きなことは言いません
ひとに
強いられるのは
努力じゃないし
怠けでもないし
だから、
小言にとどめます
少なからず、
願いはあったから
怖れてきたから
だれの
どんな言葉にも
たやすく頷いたりしません
たやすく否定したりもしません
綺麗なものは
綺麗なままに、と
信じているだけです
少なからず、
抱えてきたので
負われてきたので、
ゆっくりと
見つめることを
心がけたいんです
ひとを
ながれを
向こうを、内を、裏側を
おもうわたしで
いたいんです
少なからず、
わたしらしさが
わかってきたから
続けてみるより他になく
なおさら
迷子になりそうです
が、
幸せをうたうのも
不幸せをうたうのも
わたしを
通した言葉なら、
聴きたいほうへ
聴きたいほうへ
進んでいこうと
おもうんです
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
おもいで、と呼ぶには
早すぎませんか
わたしの肩に
のしかかる時間を
不思議な重さに替えながら
にわかに雨は
零れはじめて
ゆるやかに、
空のとおさが
染みるのです
あの
岬に揺れた
草花は、もう
しらない色になったでしょうか
あの
窓からながめた
町明かりは、もう
ちがう足どりになったでしょうか
うっすら、と
飲み込みがたい
寂しさは
言葉に
出来ず
わたしの背中を
ときどき伝います
まだまだ
暑うございますね、と
やさしい文句で
挨拶をして
ひやり、
ながれて
ながされて
きょうの
居場所を
すこしずつ
覚えさせられるのです
あやまり、と呼ぶには
早すぎませんか
ましてや正解だなんて
あなたも、
わたしも、
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もう
終わらない
たぶん、本気
なればこそ
手足をうんと広げましょ
いつまでも
いつまでも
どうもがいても
真実はばたける日が
来ないなら
せめて
眠りにむかう姿くらい
思い切りよく
ありましょ
だれにも
迷惑をかけない片隅で
届け先の耳を
まちがえないで
小さくても
おおきくても
華やかでも粗末でも
わたしにしか言えない
夢のとびらの
合言葉
あなたにも
あなたにしか言えない
魔法があるはずだから
もう
ごまかす必要のない
闘いです、これは
競走しましょ
どちらが先に
風になれるか
くるまる
くるまる
冗談まじりに
余裕をもちましょ
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
太陽に
照らされすぎると
こたえなくてはならないことが
次から次へと
たずねてきそうな
気がいたします
おそろしいような
恥ずかしいような
こそばゆいような
形容のしがたい心持ちの
いずれにも添うものは
笑顔です
日傘をさして
友になりませんか
つかの間の
ほどよく上手な
花になりませんか
つかの間の
流れをいとわぬ
水になりませんか
つかの間の
完全に
日をよけることなど
かないませんから
一時の
戯れですから
遠慮なさらず
隠れてしまいましょう
白、
袖、
黒、
髪、
青、
爪、
紅、
嘘、
華やかなんです
日陰も意外と
桃、
風、
黄、
指、
紺、
文、
碧、
石、
太陽に
さらされすぎると
おぼえた意味の正しさが
気になります
ときにはそれも
大切だとは存じ上げますけれど
きょうでなくても
よろしい筈です
影としての立場から
光としての立場から
あなたの憩いを
お誘い申し上げます
道々草々
そこかしこ
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
粘土で
象をつくったら
「可愛いきりんね」って
誉められました
たこ風味の
おかしな生きものをつくったら
「足が多いよ」って
注意を受けました
気ままに
まるをみっつ並べたら
「なにがしたいの」って
責められて
「こうしたらお団子よ」なんて
手本を示されました
がっかりしたし
いらいらしたし
悲しくもなったけど
なんにも言いません
言えません
そのかわり
粘土をつぶす力が
強くなりすぎるけど
粘土は黙って
こわれてくれるのでした
何度も
何度でも
こわれてくれるのでした
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
きみの
笑顔のために
ぼくはせっせと
穴を掘る
いくつもいくつも
穴を掘る
そして
うっかり
自分で落ちた
試しに
笑ってみると
自分の声が妙に近くて
さびしくなった
ひょい、と
穴から顔を出すと
きみは笑った
あかるく
笑った
そして、きみは
落ちた
ぼくに
駆け寄って
ぼくに手を貸そうと
駆け寄って
するり、と
落ちた
いくつも掘った
ひとつに
落ちた
ぼくは
笑うべきかどうか
とまどっている
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星には
たどり着きえぬことを
受け入れたところが
はじまりであるはずの
命です、だれも
おそらく
涙をこぼすな、
とは申しませんが
絶望するような眼差しで
星を見上げることは
やめて頂きたいの
です
絶望するに値する
契りがあれば別ですが
だれも
そんな生まれ方は
していないはずです
生まれる前に
受理したすべては
だれにも確認できません
すべては巧みに
闇の中です
ならば、
照らしましょう
闇を精一杯に照らしましょう
なれるはずもない
星を請うことをせず
この身、その身に
なしうる限りの乏しさで
精一杯に照らしましょう
闇を照らしましょう
それが
できたら、わたしたち
生まれたことに
なりましょう
だれにも
代われぬ星として
生まれたことに
なりましょう