詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
列が
乱れますから
前へならいなさい、
切なさよ
ラインをよく見て
その境を越えないように
たたずみなさい、
恋しさよ
下を
向きすぎてはなりません
他のものたちと同様に
顔を見せなさい、
寂しさよ
己の背丈は
正しくそこに位置づくか
比べに比べて
納得なさい、
苦しみよ
隣のものや
前後のものに
ぶつからないか
しずかにひとりで
確かめなさい、
愛しさよ
よそ見をせずに
その場が己の居場所かどうか
考え続けなさい、
喜びよ
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
きみの涙は
あたたかかったから、
時間はけっして
冷たくなんか
ないね
願いも祈りも
こわれもの
そうでなければ
未来のすべては意味をうしなう
昨日も今日も
探しもの
とべないつばさを
守るため
きみの
笑顔は揺れていたから、
時間はけっして
停められない
ね
隠せるものは
ひとつだけ、だよ
ちいさく
まあるく
ころり、ぽかり、と
ね
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
銀河のほとりの
ちいさな一途
ひとつ
ふたつ、と
確かめあうのは
些細なことに
すがるぬくもり
「
もう、
離ればなれには
なれないや
っていう告白は
あきらめだろうか
いやいや、ちがうね
でも、
なんだろね
」
ほんとの謎は
ふところ広く
ほんとの答を
押しつけない
波打ち際の
ちいさなひかりは
だれかひとりの
手柄では
なく
集う
しるべの
豊かなものさし
少ない色で
描かれる絵はあっても
真実
それが
正しいわけでも
誤りなわけでもない
ふたりを
語るすべがあるなら、
一途、とひとこと
互いのすきまに
響けば良い
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
よく視ていなさい
憎しみを
あれは
にわかに
輪をなします
よく視ていなさい
憎しみの輪を
外れた者が
行く先を
そこに
あなたはいましたか
それとも綺麗な
輪でしたか
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
あとは
お任せいたします、
上手にもたれて
サボりましょ
問うも問わぬも自由なら
いずれも選ばぬ
すべもある
お口の悪いひとがいて
腰の重たいひとがいて
手先の器用なひとがいて
本質だけ見るひとがいて
だから
去りましょ、
場違いならば
夢には昔
名前があった
思い出せたら快いけど
思い出さぬが花もある
すべからく
迎えるものは
素敵でありたい
だから、時々
お任せいたします
一から百まで数える間に
まばたきくらいは
しますでしょ
よそ見をしたりも
しますでしょ
だったら、
ゆずり合えますね
時間は
まがいの一直線
角が
来たなら
交代しましょ
互い違いに
よき知恵
で
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
言葉はわたしを
待たないし
わたしもそれを
望んじゃいない
なにごとも
自然であれ、と
よかれと願う
ただ
わたしたちはその判断に
自信がもてなくて
波間や雲に
尋ねたり
する
この世には
識別の難しいことが
たくさんあるから、
聴けない言葉は
五万とある
きっと
言葉を抱かぬものはない
事象だろうと
造作だろうと
皆それぞれに
言葉を
抱いている
わからない、と
聞こえるように言えたなら
小さい声でも
大きい声でも
聞こえるように言えたなら
それは
立派な勇気でしょうね
否める余地のない
立派な勇気でしょうね
言葉は
あいにく
わたしを待たない
当然わたしも
望んじゃいない
ねがいや
祈りがあるなら、それは
言葉に満たない
どうしようもない
言葉、
なのでしょう
にわかには
信じられなくても
無数の
うねりの
海原みたいに
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
街は
かわらず
急ぎ足だから
にわか雨にも動じない
チラ、と
暗く続いた空をみて
街は
かわらず
明かりを灯しはじめる
明かりは
誰のためか、と
問われたならば
しばしの思案のあとで
誰もがさびしく
答えるだろう
バス停に濡れる
少女のための
傘は
どこにも
見つからない
待ち人のない
老婆のための
傘は
どこにも
見つからない
街を
わたる人たちの
行き先などを
街は
いちいち
気に掛けない
向かう人にも
帰る人にも
街は
街であるほかの
すべを持たない
夢に
たじろぐ少年を
たすける傘は
どこにも
ない
荷を
確かめる老爺の肩に
寄り添う傘は
どこにも
ない
街は
かわらず
暗黙の一方通行だから
にわか雨にも
動じない
流れる方向が乱れたら
街の
弱みが
さらされるから
街は
つとめて
干渉しない
軋む隙間を
あちらこちらに
許すしかなくても
街は
なにも
持たずに
済むように
街ゆく人の一つ一つに
なにか
易しからぬ
言葉を放ち続ける
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
おもいで、と
よく似た部屋では
呼吸がかなしい
呼吸が
まったく叶わない、
なんてことにはなり得ないから
しんしんと、
かなしい
痛み、に
からだは染まらないから
世のなかは海
まったくの、
おぼえたことは
誰かがいつか棄てたこと
わすれたことは
誰かがどこかで願うこと
気泡、と見紛う言葉には
つねに時計が
寄り添って
いて
唯一無二の正しさを
ちくり、ぽつり、と
囁き続ける
いつか
横たえる波打ち際は
きっと誰かの
カーニバル
もしくは誰かの
メランコリー
憶測だけでは
生きられないけれど、
憶測なくして
華はない
だから、
いまはもう
空っぽ、でいい
おもいで、に
なれるなら
名前だけ
でも
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
忍び寄りなさい、
枝葉にゆれる
子守唄
際限のない
いつくしみなら、
とうに
あなたの
失くしもの
鍵穴が
錆ついたのは
ひとつの区切り
また新しく
かなしみを携えなさい
古く、賢く、裏切らず、
顔と名前の
合致しない場所が
永住の
岸
まばゆい光は
はるか昔の水の密命
囲われなさい、と
変わらずに
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
陽光のまぶしさに
水の記憶はよみがえる
ゆらり、と立ち上がるそれは
わたしの肌へと染みるから
懐かしい匂い、という名の
許容がまたひとつ
こぼれ落ちる
おもいでを語れば
必ず虚偽が生まれるけれど
よほどのことがない限り
誰にもそれは裁かれない
そして、互い違いに
向こう岸を見る
そこに至れない
自分を見る
高まる熱は
低いほうへ、低いほうへと流れて
きょうも方々に風が渡ってゆく
当然わたしもその内に在り
外を向いては思いを馳せて
透明な風に置いていかれる
懐かしい言葉、の数だけ
いたまずに済むものと
そっと信じて
空に抱かれて