詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
こころ優しき戦士には
長い剣がよく似合う
寄らば斬るぞ、と匂わせたなら
みだりに斬らずに
済むだろう
こころ優しき戦士には
短い剣がよく似合う
誰にも刃を悟られぬまま
寄り合い、組み合い
暮らせるだろう
こころ優しき戦士には
丸腰などは許されぬ
それゆえ形が肝要だ
こころ優しき戦士には
一歩も譲れぬ信条がある
一人一人の、
貫き通した言い訳がある
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
高層窓には
飼い馴らされた
セレモニー
夜毎
あどけない肯定が
滑らかになる
背筋は
かたいまま
柔らかな囲いは
重たくなって
屋上からの月はなお遠い
一度、
フェンス越しに
口付けておくべきだった
信用ならない約束を
交わすべきだった
ルビー、と発する
唇のぎこちなさ
そこに
研がれそこねた海がある
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
卵のきもちはわからない
卵にならなきゃ
わからない
わたしの目玉は殻かしら
わたしを包んだ
殻、かしら?
とっくに無いと思ってた
くだけて消えたと
思ってた
卵のあしたはわからない
卵にかえらにゃ
わからない
きのう、なら
少しだけわかるかも。
だけど
ねえ?きみ
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杞憂に耐えかねた
音、がする
きっと 最も低いところから
きっと 最も遠いところから
そっと 最も高いところへと
そっと 最も近いところへと
のぼりつめている途中のそれ、は
息苦しさの極みだから
誰も手を貸せない
貸してはならない
己の制御がきかなくなって
もう、流れ下るしか無くなったとき
哀しい太陽が非を脱ぎ捨てる
所構わず脱ぎ捨てる
もうすぐ 音が止むよ
もうすぐ ほんとが始まるよ
もうすぐ 音が止むよ
もうすぐ 仮面が崩れるよ
天秤にかけられて
時、がゆく
大切なものも
そうでなかったものも
結局は重たいものに他ならないのに
音、は細部まで
しっかり きっちり骨がある
骨があるから
よくよく擦れて
杞憂が幾重も満ちてゆく
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
あなたが
愛してくれるのは
祈りだけにあかるい
ささやかな
ともしび
星には
なれない歌たちの
ひたむきな揺らめきを
あなたはそっと
抱きとめる
冬の香りが
ゆびの先まで
染みついたから
雪の支度はととのっている
言葉のなかの
静けさにふと歩みを停めて
わたしは星の涙を見上げる
繋がろうとする
川音を聴く
施しようのない石くれが
ゆっくりゆっくりと
胸のなかをめぐる
それは
だれにも
触れられない
ちぎりの息吹
だれの目にも映らない方角へ
わたしたちは傾いてゆく
まもりが
証してくれるのは
ひかりの先とその背中
海が
やさしく富むように
かなたは円く
見渡せない
隣り合う者の
ひとみを受け取ることだけを
唯一かなえて
安らいで
もうじき
雪が降りてきたなら
わたしはあなたを
また見失う
円く
しずくが
寄りあつまって
個々の時計を
狂わせる
なだらかな鋭角の
微笑のなかで
限りのある熱を
まよいのない物語を
告げ終えるまで
ずっと
きっと
そばに
計り知れないものになど
なれなくていい
透けて
すべては
ひとつになるから
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過度な
やさしさを
憩わせましょう
つかの間のわき見に
我を返しましょう
欠けても月は元にもどる
満ちても潮は引いてゆく
もっとも深い
日向へ赴きましょう
広げただけの
あなたの両腕に
名前をつけてあげましょう
浅瀬を渡れば傷ばかり
空を仰げば
降られるばかり
やわらかな
慕われやすい布ならば
知らぬほつれも
生じましょう
一度も
己を包まぬままに
しずかに裂けてしまうでしょう
重い扉はそこかしこ
気ままな風も
そこかしこ
いっそ
さびしいままで
くぐり抜けましょう
わびしいままで
もどかしいままで
軽く
すべてに会釈をしましょう
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幼い日々が
やわらかく在ったのは
いつわりごと、が
易しかったから
不器用な手に
添われていたから
ひとつひとつの横顔は
おぼろ気だけれど
ぬくもる匂いは
きえ去らない
わたしのなかの
幻灯機
ひかりの粒を
寄せあつめたら
おもても裏もなくなるね
昨日は、あした
明日は、きのう
いろを極めた
影たちがつながる
華やかに
ことばを紡げたら、と
願いごとの続く限り
幸せはとぎれない
たよりなげな指たちが
とじては咲いて
咲いてはとじて
息吹は
おわらない
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ささいな言葉を宛てるにも
勇気がいります
愛ならば
企まないで
ほしがらないで
ただ真っすぐに仰げたら
空は
味方につきますか
かぜに誘われて
かぜに残されて
かぜに守られて
かぜに責められて
願いごととは程遠く
透けてゆきます
なにもかも
人から人へ渡るのは
とこしえの海
記憶に
頼らざるをえない
まっさらな
球形の
海
引き潮とも
満ち潮とも分かちがたい
まばたきの間の
しずくでしたね
思えば
だれしも
つとめて静かな優しさが
尖りませんように
気弱な底が
傷をかさねませんように
言葉すくなく語るにも
ひかりが要ります
夢ならば
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わが子が泣くので
わたしはそっと抱きあげる
生まれたばかりの
からだを包む
そして
なるべく平易な言葉をかけて
わが子の視線の先を見る
ときに
わが子は泣きやまないが
この世にうまれたばかりなら
不安や恐れもあるだろう
滅入りそうでも
いらだちそうでも
わたしはつとめて
揺りかごになる
やがて
寝息をたてるわが子の頬には
ちいさいながらも
涙のあとができて
かわいそうに、と
胸がいたむ
この世には
いつまで泣いても
けっして抱きあげられることのない
赤子がある
かけられる言葉もなく
腕のぬくもりもしらず
泣き続けるだけの
赤子がある
かわく間もなく
こぼれ続ける涙をおもうとき
わたしはわたしの無力さに
なお胸を痛める
「おまえは良かったね」
「おまえは幸せだね」
「おまえは恵まれたね」
わが子にかけるどんな言葉も
後ろめたくて仕方ない
けれど
眠りはじめたわが子のために
その身に宿る夢のために
わたしはこの腕を
けっして解かない
たったひとつだけれど
たったひとつの拠りどころなら
わたしはかならず
失くさずにいよう
ほかでもない
わが子のために
たとえ
狭い、と責めたてられても
のちの道へと続いてゆけ、と
わたしはたしかに
灯っていよう
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ふところ広いあの人と
度量のちいさなあの人の
中ほどあたりが
わたしです
勇猛果敢な眼差しと
こわごわ逸らす上目遣いの
中ほどあたりが
わたしです
ひとの間に
ひとをならって
ひとは日になる
鳥になる
わたしのささいないつわりと
叶わぬ夢との中ほどに
誰かのねむりが
聞こえます
わたしの汚ないやり口と
惨めな悔いの中ほどに
誰かの初心が
映ります
ひとの間に
ひとをたどって
ひとつ、ふたつと位取り
ひとかど
ひとごと
ひと通り
真冬をしらないあの人と
火傷ばかりのあの人の
中ほどあたりが
わたしです
遠くへ行きたいあの人と
花を植えたいあの人の
中ほどあたりが
わたしです