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千波 一也の部屋  〜 投稿順表示 〜


[1204] 遠くへいきたい
詩人:千波 一也 [投票][編集]



軽はずみな言葉ほど
健全なものはないからね

自然な
なりゆきの
その背にわたしは乗るよ



いたわりと偽りは紙一重

無情と無償は紙一重

流され過ぎた挙げ句の空には
風の音だけがいつもある



どこか知らない町へいきたいね
あてもなく己の寂しさを
肯定したいね

ためらいがちな一歩の全てに
優しくなれたら素敵だね



罵ってしまおうか
ここいら辺で限界顔で

絶縁するのも良いかもね
未練にも満たない
お荷物ならば



さよなら、は
あまり好きじゃないから
無言で憂いを振りまきたい

いつまたどこで
逢うとも知れない間柄なら
なおさらのこと



誰か
そろそろ拾って頂戴

遠くへいきたい
ただそれだけなんだから


2014/02/14 (Fri)

[1205] 恥知らず
詩人:千波 一也 [投票][編集]



雨は
嘆きを代弁しない

風は
怒りを
代弁しない

おまえを語れる
他者はない



星は
だれをも照らさない

花は
だれをも誘わない

おまえは
おまえであるしかない



月のうらには
哀しみがあり産声がある

海のそこには
戸惑いがあり残響がある

おまえごときが
推し量れる世ではない



何ができても
何ができなくても

何をのぞもうと
何をあきらめようと

おまえは
おまえとともに往け
価値のわからぬ恥知らずめが



2014/02/14 (Fri)

[1206] ソレイユ
詩人:千波 一也 [投票][編集]


地に伏せながら
黒布は一身に熱を浴びている

欲するものは
明るみの向こうの
静寂な守り

守り、という信仰



容易くは脱ぎ捨てられぬ
軟らかな哀しみに
黒布は濡れている

知るべき言葉に
たぐり寄せられながら

黒布は濡れている



緑の匂いの濃い山林は
秩序の檻だ

畏敬のみが押し寄せる
法の中枢だ

監獄とも呼べるだろう




ソレイユは
自らを引き裂いた

奔放な彼の所作は
巧みに姿を整えながら
燃されるべきものを監視している

それゆえ愚かな沈黙は
なお織り重ねられ
地に伏せる



美しく在ろうとする
偽りたちの一切を
ソレイユは導く

起点と終点とが
交わるところの単一色へ
染めあげる


2014/02/14 (Fri)

[1207] ふゆの肩書き
詩人:千波 一也 [投票][編集]



雪のみちには月明かり

どこまでもまるく
月明かり



焦りも悔いも寂しさも
ましろな吐息
雪わたり

笑みも望みもなぐさめも
ましろな吐息
雪あかり

つめたい夜には月が降る



なにもかも
離されかけてしまう白の夜

やさしさも
おそろしさも
意味が重なりかけてしまう白の夜

わたしの吐息もまるで他人



あまりに小さな肩身では
すべての一歩が
疑わしい

それゆえ微細に火は灯る

ましろな季節をあばくため
せわしく孤独が
群れをなす



雪のみちには時がない

月明かりだけが
満ちている



てのひらに負う
熱とすきまと柔らかさ

ただそれだけがふゆの手がかり

なにも問わせず
なにも解かず


2014/02/14 (Fri)

[1208] 残されたもの
詩人:千波 一也 [投票][編集]


ちいさな駅で見送った
あなたの笑顔は
まっすぐでした

こころ細さに折れそうな
わたしの代わりを
つとめるように

あなたの笑顔は
まっすぐでした



とおく、
遮断機の音が鳴り止んで
口からこぼれた
「ありがとう」

直接に、
あなたへ渡せなかった
「ありがとう」



なんにもない青空の
平素なまぶしさは
今なお鮮明です

鮮明に
寂しいものです



手をふるあなたの
かすかな淀み

今ならば少し
みえる気がします

恥じらい混じりのほほえみが
ようやくかなう
今ならば


2014/02/14 (Fri)

[1209] 手をつないだら
詩人:千波 一也 [投票][編集]


手をつないだら
あなたが見える
まあるい瞳で
わたしをゆるす
あなたが見える


手をつないだら
あなたが聞こえる
ひみつの言葉で
わたしを結わう
あなたが聞こえる


手をつないだら
あなたがかおる
かるい歩調で
わたしをつつむ
あなたがかおる


手をつないだら
あなたがきえる
わたしのなかの出口から
ささいな隙間の入り口へ
あなたがきえる



2014/02/14 (Fri)

[1210] 冬枯れ
詩人:千波 一也 [投票][編集]

呼び声はまだ
きえてはいない
癒えてはいない

たずね人はまだ
絶えてはいない
やんではいない


ましろな雪は
ゆめの燃えがら
はる待つ
まくら

かたく一途なよわいには
しんしんしん、と
雪がつむ



さけないのぞみは
いちるの翼

まだか、いまか、と
時をしのぐ



静けさはまだ
おえてはいない
逃げてはいない

待ちびとはまだ
さめてはいない
閉じてはいない


2014/02/14 (Fri)

[1211] 千年樹
詩人:千波 一也 [投票][編集]


さいご、には
なれるはずもなかった
いのりの一葉が
身をよせて

そよかぜを織る
やわらかな
うみ



すきま、から
もれる光は重なりあって
ことばのほつれを
受けとめる

なりゆきまかせの
さざなみの




はじまり、の日は
渇きつづける
水のうち

こぼれ
すくわれ
めぐまれて、凪ぐ
不ぞろいの腕



2014/02/14 (Fri)

[1212] うつしみ
詩人:千波 一也 [投票][編集]


いたいの、いたいの
とんでいけ

大三角に
ぶつかるくらい

おおぐま、こぐまに
ぶつかるくらい

高く
みごとに
のぼりつめたら
今度は
はげしく
おちてこい

ぼくの歩みへ
おちてこい

それが
ほんとのいたみだ、と

いたいの、いたいの
とんでいけ



2014/02/14 (Fri)

[1213] 火から生まれた
詩人:千波 一也 [投票][編集]


春から
いちばん遠い季節に
吐息は
ゆれる

遥か
列車の通過の幻想に
疑いもなく
聞き耳
立てて



苦しまぎれの憧憬が
いつかの砂地で
花開く

もう
誰ひとり忘れぬように
頑なに

自立を遂げる
影かたち



憂いは
自ら意志を得て

冬の
起源の日を告げる



圧倒的な精度で
圧倒的な
鮮烈さで

軌道はくれない

深く
くれない



命は
ことばは
火から生まれた

時に
消え入りそうになりながら
水を
わたって

夢も
祈りも
もろい強さも




2014/02/14 (Fri)
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