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千波 一也の部屋  〜 投稿順表示 〜


[1214] 放物線
詩人:千波 一也 [投票][編集]

ひょい、と
放り投げた缶コーヒー

疲れた顔した
おまえはつかの間
あわてた顔になる

あわてた顔で
キャッチして

細く、
わらう



おまえの横に
しゃがみこむのも
いいけれど

言葉を探して
言葉を選んで

たそがれるのも
いいけれど

そこに
おまえは
見えないからね

わたしの、
わたしのためだけ、の
取りつくろいしか
見えないからね



放り投げる物は
何だっていい

ほどよい距離で
放れる物ならば

おまえに向かう
たやすい線が描けるのなら
何だっていい



2014/02/14 (Fri)

[1215] わすれぐさ
詩人:千波 一也 [投票][編集]

空を
まっすぐに
見上げられたなら
もう、
なにものにも
傷つかないで
羽ばたける

きっと
たやすいことどもは
溢れているはずなのに
たやすくない日々が
溢れていってしまう
それは、
受けとめ方が
受けいれ方が
あまりに粗雑な
せいだろう
あまりに稚拙な
せいだろう

太陽は
信じるものでも
うたがうものでもなく
そこに、
ただ在るもの
ただただ圧倒的に
そこに在るもの
月も同じ
海も同じ
野も同じ

空を
まっすぐに
見上げられたなら
もう、
なにもかも
わすれてしまえる
窓辺も
舗道も
軒下も
すべて、
やさしく抱きしめられる



2014/02/14 (Fri)

[1216] 遺骨
詩人:千波 一也 [投票][編集]

ひどく熱い台の上で
亡きひとの骨を
拾う

幼い
わたしを
抱き上げてくれただろう
腕をひとつ

もう二度と
わたしを呼ぶことのない
喉をひとつ


かつての命は
小さな箸で小さな箱へ
しまわれる

骨の形をのこせぬ灰は
ちりとり・ほうきで
集められる


遺影には
亡きひとの笑みが
ただあって

緩やかに
ぞんざいになる箸使いを
許容しているように
見えなくも
ない


ひどく熱い台の傍ら
亡きひとの視線を
そっと思う

不快な汗を
指の間に滑らせながら


2014/02/14 (Fri)

[1217] 向こう見ずなあなた
詩人:千波 一也 [投票][編集]


あなたが
西日にうずめたものを
知るすべもなく
いまは昔


あなたが
見ていた向こうには
なんにも無いと思ってた

なんにも無いと
思いたかった


向こう見ずなあなたを
望んだわたし

きっと
それが見えていた
あなた



向こう見ずなあなたへと
落ちずにすんだわたしは
日暮れに凪いでいる



あなたが
夕日に託したものを
知るすべもなく
いまは昔

不意に
口ずさむ
なつかしい歌のように

すっかり軽い
荷のように




2014/02/14 (Fri)

[1218] 大きなお世話
詩人:千波 一也 [投票][編集]

大きなお世話を
売る店が
だいぶ減って
しまったから
世の中は
だいぶ自由になって
他人の
一挙手一投足を
監視したり
嘲笑したりして
ときを
費やしている





大きなお世話が
寝入ったあとには
きまって
風が
吹いていた
春を
あちらこちらに
振りまいて
暖かな
一陣に
つらなった

近ごろ
大きなお世話は
寝たきりが増えた





大きなお世話には
誘いに乗りやすいという
短所が
あったから
後味のよさは
そこに
理由があったのだろう

今では
すっかり
逆手にとられるけれど





大きなお世話は
まるで教科書
段ボール箱のなかで
日の目を見ない
ほこりの
ひとつ

売ろうと思えば
それなりに
買い手もあろうが
わざわざ
引っ張り出してくるほどの
余裕を
世間は
失っている





大きなお世話に
日付を記すと
なぜだか
安らぎが
わいてくるから
作法を
変えながらも
その
習わしは
絶えていない





大きなお世話が
降り出しそうな
予感が
したら
それなりの
身仕度を
したものだけれど

遠回りでも
それが
いちばん
近くて
身軽な
はずだったけれど





大きなお世話は
待ち過ぎた
おそらく
あまりに
待ち過ぎた
たやすく誰かを
裏切らないで
傷つけないで
済むように
自らを
もっとも
犠牲にして

大きなお世話は
待ち過ぎた


2014/02/14 (Fri)

[1219] 花の一族
詩人:千波 一也 [投票][編集]


ほころんで、揺れて、

待ちわびて、揺れて、



愛されて、色づいて、

愛されたくて、匂って、



踏みつけられて、手折られて、

ずぶ濡れて、さらされて、



めぐりあって、別れて、

干上がって、うるおって、



奏でられて、踊って、

踊らされて、奏でて、



わたしのなかにある、

一族の、らせん



種子のような、芽のような、

実りのような、根のような、



わたしのなかにある、

一族の、道すじ、水脈、風の音


2014/02/14 (Fri)

[1220] 三寒四温
詩人:千波 一也 [投票][編集]


まっしろく
息を吐きながら
晴天の
した

軽く、
多くのものに
通過されながら
わたしは
光に
耳を
すます


たやすいものを
幾つも集めて
したしんで

ようやく気がつく
難しさ

許さずにおけるものなど
幾らもなかった、と

ようやく気がつく
有難さ


日射しのそこに
こころを
置けば

虹の
ゆくえに
思いあたる


休む間もなく
時は
時を
忘れて
しまえる

暦、三月

ありふれている
ささいな
わたしを

誰かの笑みに
みとめたい


2014/02/14 (Fri)

[1221] まちがい探し
詩人:千波 一也 [投票][編集]

きのうの僕には
あったはずのものが
きょうは
どこにも
見つからなくて

きのうの僕には
無かったはずのものが
あすには
ひょい、と
あらわれるかも
知れなくて

寂しいような
ときめくような
頼りないような
すくわれるような

正誤も
価値も
たしかめ始めたら
すべて
事務的な数字
機械的な数字

探すつもりで
いるのか、いないのか
程よく
装えたなら
易しさも
難しさも
とけ合うかも知れない

まったくちがう
まったくの
一つに
とけ合うかも知れない



2014/02/14 (Fri)

[1222] 精悍
詩人:千波 一也 [投票][編集]


希望という名の紙切れよ
希望という名の瞳に渡れ

誰かは無謀と云うだろう
或いは幼稚と嗤うだろう

希望という名の未熟さよ
立ち止まるがいい
思う存分に

希望という名の愚かさよ
立ち戻るがいい
思う存分に

あちらこちらへ身を捩らせて
あちらこちらへ心を捩らせて
見るに堪えない紙切れとなっても
そこに埋もれた希望のことを
お前は決して見限るな

希望という名の紙切れは
希望の瞳に留まるだろう

絶望という名の声ならば
絶望の耳元に届くだろう




2014/02/14 (Fri)

[1223] かなしい記憶
詩人:千波 一也 [投票][編集]

水は
裏切ったりはしないのです

やさしい嘘と
呼ばれるすべに甘んじて
飲み干しかねた
水はあっても

迎える季節を過ちかねて
流れるしかなかった
水はあっても

水は
何をも裏切らないのです


太陽と
とても近いところに
遠い昔が波打っています

だから
わたしは
ふたつの瞳で
ひとつのものを
慈しもうと思うのです

円く
及ぶべき人の思いの根幹を
慈しもうと思うのです


日記のなかに並んだ文字は
傷とよく似た面影です

はね返される
陽射しの底で
形づくられる
祈りの首輪

言葉に出せない密書のような
うすい匂いが溢れてゆきます


すれ違うとしたら
爪の先ほどの
蕾の上で

抱き締め合うとしたら
波間に漂う後悔が
聞こえない頂で

思い出すとしたら
重なり得ない
つばさの
両端で
各々で


穢れていたのかも知れません
はじめから

穢れてしまえるようにと
心遣いがあったのかも知れません
はじめから

曖昧ならば懇願も
きれいな音色に落ち着いて
例えばわたしの硝子戸に
懐いてくれると
思うのです

寂しい刃がひとりでに
よろこびすべてを
葬るならば

信じていましょう
寄り添っていましょう

頷いて
微笑んで
こぼれていましょう




2014/02/14 (Fri)
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