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千波 一也の部屋  〜 投稿順表示 〜


[1224] 氷点
詩人:千波 一也 [投票][編集]

白いひかりの内側で
やさしくもつれ合うものを
聴いていたかったのに
ただ、聴いていたかったのに

生きていてもいいですか、と問うよりも
生きていなくてはいけませんか、と問うほうが
おそろしく鋭い


かねてより
足音を待つのが好きでした
おのれの行方はさておき
気ままに彩色するのが
好きでした


白いひかりが一直線に磨耗してゆく
あれはもう、内でも外でもない
形、と呼ばれるためだけの
疲弊

わたしのからだは
あらゆる支えを軋ませながら
いつしかその頼りなさが頼りになって
やわらかに恵まれてきたけれど
悲しい結び目は必ずあらわれる


素足に広がる波紋のはじまりは
ささいな涙と
ささいなため息

ささいな全てのはじまりは
かならず此処にあるけれど
終わりについてはわからない
誰もわからない
わかってはいけない


睦まじくいつわり合いましょう
睦まじくとらわれ合いましょう
どちらがどちらを担うかなんて決めたところで叶いません
睦まじくうつむき合いましょう
睦まじくたちのき合いましょう
どちらがどちらを担うかなんて境で言ってもはじまらない


連鎖してゆく矛盾のそばには
いつでも言葉が寄り添っていて
それはそれは安らかに事も無げに
季節をつむいでみせるから
まぼろしは燃えてしまえる
美しさをたたえて燃えてしまえる
けずり落とされてもしまえる
はかなくて
放ってはおけないきらめきとなって
けずり落とされてもしまえる


従順なら良かった
もののあはれ、にも
辱めにも
咎めにも

従順なら良かった


はげしさを増す怒りの深みから
きびしさを増す慈しみの上辺から
奔放にともされ続けている
いちるの望み
常夜灯

その下で
あるいは上で
ひとつのものへと帰ろうとするうたが
わたしの耳に運ばれる

ひとつのもとから分かれたはずの
寂しいばかりではいられないはずの
わたしの耳に


2014/02/14 (Fri)

[1225] 無限
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荒涼とした大地の上に
荒涼とした時空が
広がる

その
片隅を
写し取りたい些細な詞は
荒涼とした
影をなす

荒涼とした影の懐に
荒涼とした金属の
痕跡がある

その
一つ一つを
愛でる眼差しと
振り切ろうとする背中とが
荒涼とした大地の上に
ささやかな破片を
点々とさらす

荒涼とした風の中で
荒涼とした溶融が
終わりを告げて
また始まって

厭い切れない固執の輪から
荒涼とした時が降る


2014/02/14 (Fri)

[1226] 散る葉
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葉は、
いつか散る

かならず散る

その
散る、というさまは
さびしいけれど
寒々しいけれど

散る、という務めは
葉にしか担えない

わたしには、
どんな務めが担えるだろうか

模倣ではなく
比喩でもなく

ひとの命が、
ひとの命だけが
たどり着きえる場所は
どこだろう

2014/02/14 (Fri)

[1227] 波のゆくえ
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波のゆくえが
気がかりならば

波の言葉に
添いましょう

正しさに
包まれようもないけれど

同じだけ
誤りようもないならば

それは
素敵な所作ですね

波のゆくえも
きっと

そんなふうに
笑んでいるやも知れません


2014/02/19 (Wed)

[1228] ナイフのように
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羅列で構わないから

愛の言葉を私にください

そう、突き立てるように

脆弱さを削ぎ落として

2014/02/19 (Wed)

[1229] 湯宿にて
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ドアを開けると
しらない私が待っている

無上の憩いを
約束するように
鏡の私が会釈する


窓の外には
なつかしい夜

あたたかな夜



単調に
指折り数えることの

単調な充足は
ようやく首位になる

ここにきて
本当の首位になる



ドアから出ると
廊下は静かに灯りだす

いつかの音を忍ばせて

だれかの声を
忍ばせて

ゆっくりと
滲み始める



私の時計は
正しさに欠けていて

気まぐれに物語を編む

ふと
立ち止まるのは
そういうからくり

そういう
仕掛け



真白な煙のなかには
何も見えない

でも
それでいい

幻めいた瞬間が
そこに在るということ

真実味のある儚さが
そこに見えるということ

容易にはあり得ない
容易さに

私はひとり
お辞儀する


2014/02/19 (Wed)

[1230] 才能
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かよわい肌の持ち主は
男のほう

繊細に消されていった
煙草の匂いは
指にも
首にも
移り住む

男を選んで
移り住む



男は
確かに直線的だ

けれどもそこに
強度はない

女の
したたかな
曲線のなかでだけ
つかの間の英雄を味わう
有限の直線だ



本能は
女が受け継ぐ習わしで

男は
その足元に
飼い馴らされる

そして
有る筈もない才能を
健気に磨く

信じる力を
一心に
磨く



かよわい言葉の源は
男にあって

視線は
鋭くならざるを得ない

守るべきかと問われたら
信じることに
命をかけて

美しいものたちに
憧れるよりほかにない



男は
真っ直ぐ前を見る

抱えきれない多くのものを
背中に肩に
感じながら

開け放たれた
前を見る

自由気ままな
女の視界の
片隅で


2014/02/19 (Wed)

[1231] 木のおもちゃ
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木のおもちゃには
ぬくもりがある

けれどもそれは
物の扱いに手慣れた
おとなの語り

おさない子には
木は硬い

角を落とそうが
やすりをかけようが
木の硬さはなくならない

芯の硬さは
なくならない

子の手にわたるのは
木のぬくもりではなくて
その扱いを優しく囲う
おとなの気づかい

木を知るおとなの
物を知るおとなの
自然な気づかい

それがあってこその
ぬくもりだろう

切られ削られ
おもちゃになった
木の身の上も救われるだろう


2014/02/19 (Wed)

[1232] ギフト
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やわらかなわたしは
凍結することが出来るから
やわらかくなど
ないのです

冷ややかなわたしは
あこがれを抱いていたりするから
あつく出来ているのです
本当は


空から
たずねくる
控えめな想いの白さたち

もう
見分けなど
つけられなくても
みんな真白であることが
わたしに課せられた
大切な探しもの


いつまでも
笑んではいられないから
ときどき厳しくなってみます

いつまでも
嘆いていてはきりがないから
ときどき奮って駆けだします


何が正解でも
何が誤りでも
とにかく営みつづけなければ
何も語れないわたしに
雪はおとずれます

労うように
寄り添うように
ただただ
真白に

しらない言葉で


2014/02/19 (Wed)

[1233] 越権
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火が
ほしかったから、

そっと
恥じらいをまぜて

お月さまに
耳打ちしました
そっと


まるで
玩具のような運命の
わたしです

あわい
夜の吐息にさえ
消されてしまいそうな

さびしい
さびしい
祈りです


それだから
火がほしかったのです

あの
尊い遠くの
お月さまなら、

授けるすべを
ご存知かもしれなくて


蟻ほどにも働けぬ
不精で
矮小な
たわごとだけれど

ささやかならば
ささやかなりに
許されそうで

望みを
こぼしてみた次第です



2014/02/19 (Wed)
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