詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
鏡のなかに
とおく落ちていった
ひとつ
ひとつの
香りのあわれさは
なりゆきを待っている
いくつもの
抜け道にあざむかれてしまう
わずかなすき間にひそむ
その
夜の筋書きを
こころ待ちにしている
刹那も永遠もたがわない
うりふたつ、に映るのは
そこにもがく影ばかり
刹那も永遠もたがわない
きれいな光が望みなら
零落を
うのみに零落を
禁じることが確かな手立て
色をなくした音たちの
故郷は
いずこ、と
聞き耳をたてて
まあるい器が散ったなら
それは
いくたびも
輪をなしてゆく
だれにも
咎めることのかなわない
うつくしい響きが
鏡の
むこうに
許されながら
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ほむら、ほむら、
ほれ、ほれ、ほうれ
こをえがけ
ほれ、ほれ、ほうれ
つみ、あがれ
ほうられ、ほむら
ほうむれ、ほむら
いざ、いざ、くだけよ
くる、くる、ま
いざ、いざ、いだけよ
ゆく、ゆく、え
ほむら、ほむら
ゆら、ゆら、まわせ
こよえがけ
ゆら、ゆら、ともせ
てら、てら、せ
つま、つみ、ほむら
つめ、つむ、ほむら
ひの、ひの、ひのこ
おの、おの、こ
かしこ、み、かしこ
さら、さらに
ほうむら、ほむら
わた、わた、し
ほうむら、ほむら
かなた、かな
はる、はる、はるか
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ほんの
ひと握りの間に
つたえられる想いなど
わずか数行
わびるにも
しのぶにも
なぐさめるにも
たしなめるにも
ひとは
それほど多くを
持ち得ないから
大切な想いは
小さく包んで
わずか数行
手向けのことばも
にくまれことばも
お礼のことばも
まつることばも
短いことは非ではなく
長々しいことは美ではない
つかの間の
ひとしずくの命なら
すべてを湛えよ
わずか数行
誇らしくも哀しげに
いたらぬ誓いも
とどかぬ契りも
交わしあう空も
交わしあう海も
わずか数行
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いつか
もう一度逢えたなら
忘れたふりで
笑み交わそう
望みを叶えた二人じゃないけれど
間違えたわけではないからね
総てを無かったことになど
出来るはずもない
ただ
素直には向き合えない
気恥ずかしさがあるから
それに上手に添えるため
忘れたふりで
笑み交わそう
出逢うべくして
出逢えたならば
自然なよそおいで
すれ違い合おう
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
空は
だれの言葉も聴いていない
雪の語りも
風の遊びも
なにひとつ聴いていない
大地は
だれにも組しない
黙りこむ愛にも
困り果てた踵にも
まったく味方しない
掌に
やっとのことで
包み隠した小さな傷は
いまごろようやく
嘘になる
もう
途方もなく嘘になる
夢は
なんにも見ていない
色も形も
位置も名前も
己を生んだ思いの主も
なにひとつ見ていない
波は
どこにも帰らない
ある筈もない暦なら
ある筈もない情けなら
ある筈もない見分けなら
波は
いつまでも帰らない
どこまでも帰らない
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つめたい風が
頬に突きささるように
真っすぐで
それは
あまりに
迷いのない有り様で
わたしには逆らう手立てがない
気まぐれ風味に
夜空をみあげれば
きら星が澄みわたっていて
気まぐれ風味に
わたしに呼びかける
そんな気がする
無理、というほどの無理なはたらきは
していないわたしだから
もう少し傷んだほうが
良いのかもしれない
ただただ黙って
こころの内では
舌打ちしたりなんかして
言い訳を繰り返したりして
逃げ場なんて
いくらでもあるから
どこにも無いのと同じこと
苦しまぎれの
ふたつ返事に笑みを忍ばせて
もう
開かれるしかない
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
鳥の主が空ならば
なにゆえ空は
鳥を飼う
鳥の主が花ならば
なにゆえ花は
鳥を飼う
聞こえぬ詞は
いらんかね
飾らぬ詞はいらんかね
雨は
足かせさながらに
優しくなれない
優しさのなか
香りは
足かせさながらに
厳しくなれない
厳しさのなか
右往左往の
時が降る
鳥の主が山ならば
なにゆえ山は
鳥を飼う
鳥の主が人ならば
なにゆえ人は
鳥を飼う
いまだもかつても
過ぎたかね
いまだもかつても止んだかね
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かなしみは
凍てついたりしないから
いつまで経っても
わたしは
楽になれずに
ひどく体温をうばわれる
硬いものなら
落としてしまえば終わりにできる
手から放して
決別できる
するどい痛みを伴う軟らかさには
願わぬ再会ばかりが叶うから
潮騒の語りが耳に届く
少しだけ
解かれるようにして
耳に
届く
もう
衝動なんて抱かない
ためらうことも
ままならないのに
どんな身動きができようか