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千波 一也の部屋  〜 投稿順表示 〜


[1254] はんぶんこ
詩人:千波 一也 [投票][編集]

ぼくのよりきみのが多いなぁ
っていう争いは
とても大切

その争いが
大人になっても続くなら困るけど
争いのためのはんぶんこだと
困るけど





はんぶんこって いやだなぁ

だって
ぼくのが減るんだもん

でも
あのこがいないのは
もっといやだなぁ





やわらかいホットケーキを
はんぶんこ

少しだけかたい
ビスケットもはんぶんこ

でもね
ママをはんぶんこには
出来ないんだよ

パパもだめ

いいかい
出来ないことのあることを
やさしさ、と呼ぶんだよ

ぼくたちには
出来ないことのほうが
ずっとずっと多いんだ





正確に
はんぶんこ、する道具は必要ですか

寸分のたがいも許すまいとする熱は
凍傷をもたらす
災いです

冷たい道具の言いなりになんて
なりたくないです

あ、
もうちょっとナイフを右に走らせて
そう、そう、って
なんの話をしてましたっけ





ぼくのより きみのが多いなぁ
っていう争いは
とても大切

少なくもらう身はもちろん
多くもらってしまう身のせつなさも
順繰り順繰り
わかっていけるから





ねぇ、
きみの目の 右はなにを見ているの

左のほうでは
なにを見ているの

はんぶんこずつ
おんなじものを見ているのかな

それとも
まったくちがうものかな





この
足のしたの
ずーっとしたの国ではさ
まだ寝てるひとがいるんだって

ぼくらは起きているのにね
おかしいね

でも、
夜にはぼくらも
笑われてるかもしれないね

くすぐったい、ね





ぼくのより きみのが多いなぁ
っていう争いは
とても大切

つぎは上手に分かれるようにって
どんどんへたくそになれるから

上手に
上手に
ほほえみかたを
覚えてゆけるから





とつぜんですが問題です

目の前に
鍵と 神さまと フルーツとがあります

どれをだれと分けたら
良いでしょう

絵筆と
くじらと
キャンドルと

どうすれば
はんぶんこに出来るでしょう

2014/03/02 (Sun)

[1255] 姿なき海
詩人:千波 一也 [投票][編集]


穏やかな海  荒れ狂う、海

語らない海  激昂の海



揺りかごの海  黒い海



汚される海  奪う、海

果てのない海  唯一の海



渦を巻く海  平面の、海



こだまする海  推し量る海

寂寥の海  動乱の海



ほほ笑みの海  煙る海

地を削る海  円い海



空に伏す海  反逆の海



懐かしい海  悔恨の海

逃げ惑う海  純真の海



枯れてゆく海  かばう、海



雪を積む海  透明な海

包み込む海  縛る、海




遠浅の海  大口の海




童心の海  諦念の海

先へ往く海  戻す、海

紐解かれる海  裏の海



たどり着く海  消える海



名を持たぬ海  探す海

問答する海  鏡面の海

舵を取る海  崩落の海



見つめている海  にせものの、海



軟らかい海  鋼鉄の海

狙い撃つ、海  従順な海




輝かしい海  過去の、海




望まれる海  陰の海

新しい海  暗黙の海



迷い子の海  老いた、海



頑なな海  恥じる海



手厳しい海  母の海

譲らない、海  父の海


継がれてゆく海  瞬きの海





終わらない海  一粒の海

群れをなす海  孤高の海




番をする海  旅人の海

明け渡す海  閉じる、海



聞き分ける海  過ちの海


及ばない、海  巣立つ海


揃わない海  林立の海


恵まれた海  愚問の海




逆らわない海  諸刃の海

高貴なる海  世俗の海




企ての海  無策の、海

壮健なる海  飢餓の海




あたたかい海  幻の海

書物にある海  掌の海




鍵握る海  棄てる海

立ち止まる海  憩う海




目指される海  不意の海



完全なる海  推敲の海



美しい、海  姿なき海



2014/03/02 (Sun)

[1256] 影うた
詩人:千波 一也 [投票][編集]


幾重にも
連なってゆく
痛みの無言に慣れてしまう
その痛み

それは
誰にも明かせないから
誰もがみんな
重たく齢を
重ねる


褒美のような光の背には
忘れられ過ぎた美しい輪郭が
揺らめいている

幾重にも
歓びあって
揺らめいている


丁重に
差し障りのない物語を
憐れみながら

己もやがては
そこに身を置く


幾重にも
降り積もってゆく
白い穢れに清められてしまう
その漆黒

それは
誰にも見つからないから
誰もが小さな重みを
護る


2014/03/16 (Sun)

[1257] 子守唄
詩人:千波 一也 [投票][編集]


愛の映らぬ鏡があろうか

愛無き涙も
愛無き悔いもないならば

愛の映らぬ鏡があろうか



その背がいかに重くとも
その背がいかに暗くとも
それを見据えるお前の眼だけは
お前をわかってくれるだろう



愛の響かぬ鏡があろうか

愛無き恨みも
愛無きつらみもないならば

愛の響かぬ鏡があろうか



2014/03/16 (Sun)

[1258] 
詩人:千波 一也 [投票][編集]



反論がある、ってことは
温かいよね

ひねくれ者でも
あげ足取りでも

相手になってくれるだけ
感謝しなきゃね




雨のなかを、さ
わめきながら駆けぬけるのは
馬鹿馬鹿しいよね

いまさら
そんな歳でもないだろ、って
わらえてくるよね

わらい合えるよね




ひとりぼっちのため息は
嫌いじゃない

嫌いじゃない、けれど、

放りすぎたら
風邪をひく




蓋をしたくなる気持ちはわかる

距離をおきたい
気持ちもわかる

だけど
そののちに
後悔がうまれることも、わかる




天涯孤独の泣き虫なんて
あり得ないこと、と
思うのよ

おそらく
あんたの分が悪い

一直線じゃ
曲がりづらいもの



2014/03/16 (Sun)

[1259] 十年愛
詩人:千波 一也 [投票][編集]

十年前は
だれを好いていただろう

十年前は
どこに暮らしていただろう

一年、二年で気が変わり
三年、四年で空気が変わり

五年、六年、見た目が変わり
七年、八年、言葉が変わり

九年、十年、記憶が変わる


都合の悪いあれこれは
やさしいふうに手直しをして

都合が良いなら形を問わず
すべてこの身に引き寄せて

十年経てば
我が身がかわいい

それがおのずと他者にも及べば
はなまるだけど

十年愛は
我が身の実り

けなげな祈りを
抱えつつ


2014/03/16 (Sun)

[1260] アンコール
詩人:千波 一也 [投票][編集]

もう
あの船の行方なら
わたしの胸に描かれるしかありません

その
描きようの総てが許されるわけではなくて
それでも
描いていくしかなくて
ひとり
色をもたない潮風に
抱かれています


あなたが言葉にしなかったことも
あなたが
言葉にしたかったことも
こぼしてしまった
わたしです

それゆえ
波間にみえる一瞬は
もっとも近いかなたです


いつか
あなたを忘れる日が来たならば
それは悲しみの始まりなのだ、と
さらさらに渇いた砂つぶが囁きました

日付をもたないものたちが
結末めいて、音を立てました


さようなら、では
あまりにも易しすぎて
あまりにも整いすぎてしまいます

だからといって
代わりが見つかるはずもなく
ただただ身を置くばかりです

答などくれるはずもない
潮騒のかたわらで
ちぎれた時を
呼びながら



2014/03/16 (Sun)

[1261] 歌謡曲になりたい
詩人:千波 一也 [投票][編集]

わたしの母は
一流の歌謡曲なのであります

酸いも甘いも知り尽くし
いまや図太く
強固です


わたしの父も
一流の歌謡曲なのであります

優しく厳しく漕ぎわたり
ようやく近ごろ
柔らかです


わたしの親のそのまた親も
きっと一流の歌謡曲だったに違いありません

ならばわたしも
歌謡曲でありたい、と思うのです

拳をにぎりしめて
唇をかみしめて


2014/03/16 (Sun)

[1262] 対岸
詩人:千波 一也 [投票][編集]

ふしぎな生きものが対岸におりましたので
わたしは急いで脱ぎました

なるべく丁寧に急いで
わたしはあらわになりました


しかしながら
湯茶の用意が整っておらず
先方はやや訝しげ

これはしまった、と
寒々しい桜を演じるしかないわたし

そんな
華麗な一部始終を
通りすがりの親子連れなどが
羨望の眼差しで
見ておりました


あたふたと
脱ぎ捨てた衣服やら肩書きやら魂やらを
集めていますと
置き引き!と、どこぞの貴婦人が叫ばれますので
いたしかたなくわたしは
ボディー・ブロー

ところが
どうやらわたしの所業は
物言いがかかったようです

あと数ヶ月のあいだ
ここを離れられない身となったので
俳句の手ほどきを雀の頭に申し出ました

体よく断られてしまったわたしは
おそらく架橋の材として優れていたのでしょう

気がつけば
わたしは何処にも見当たらず
棟梁の鼻歌だけが聞こえるのでした

そうして
橋へと姿を変えたわたしの上を
ふしぎな生きものが
渡っているような気配がするのです

嗚呼
一度でいいから
お話を伺いたいものだ、と
しくしく朽ちながら
わたしは

いずれの岸にもいないのです



2014/03/16 (Sun)

[1263] 放射冷却
詩人:千波 一也 [投票][編集]



聞き耳を立てていた

厳しい言葉の迫る気配に
責める言葉の
迫る気配に

聞き耳を立てて
いた



口裏を合わせていた

障りのない言葉をえらび取り
結論付けない言葉を
えらび取り

口裏を合わせて
いた



成り行きを見守っていた

勢いづいてやまぬ炎の
勢いづいて
鎮まる炎の

成り行きを見守って
いた



私ならざる私になろうとしたのは
事実

でも、

私はやはり私でいたかった



誰にも聞かれない言葉ほど
私に無慈悲なものは
ない

独りになると、ひどく
寒い



2014/03/16 (Sun)
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