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千波 一也の部屋  〜 投稿順表示 〜


[1304] 在庫
詩人:千波 一也 [投票][編集]


わたしの辿った
春を数えていただけの、
それだけで、よかったはずの
とおい春


わたしには
あとどれくらいの春がめぐるのだろう、と
なにげなく指を折り、数え始めた
そう隔たらない春


わたしの命には限りがあるから
春の残りにも限りがあるけれど
在庫を残したまま、ぷつりときえる
そんな運命がわたしを飲み込むかも知れない


在庫など、
あっても無くても同じことだろうか
そんなことは考えずに生きたほうが
幸せだろうか


前を向いて、未来を切り開いて、とか
過去は捨てずに、しっかり抱いて、とか
わかる、けれど、どれも確かにそうだけれど
少しずつ、はぐれてしまっている気がして


何がおきてもいいように
こころを決めて臨む春
でも、この至らなさを立ち直らせる
やさしい階段のような春もほしい


だれか知っているのだろうか
在庫の確かめようを、
あるいは確かめなくても
こころやすらかに暮らせるすべを





2014/11/06 (Thu)

[1305] 白いけむり
詩人:千波 一也 [投票][編集]


三月の外気は
まだまだ零下だから
白くけむるよ
吐息はみんな白くけむるよ
こちら北海道の三月は
まだまだ桜と無縁だからね
凍えるよ
着のみ着のまま出てきたのでは
凍えるよ
ひとりぼっちで待ち尽くしては
凍えるよ
白いけむりは
生きてる証だからね
おかしな顔でもつくってさ
吹き合おうかね
寒いからさ
せめて
おしくらまんじゅうみたいに
わらい合おうかね
白いけむりが
なんにも証せないのだったら
どんなにか冷たいのだろうね
どんなにか痛いのだろうね
往くことも
退くことも出来ないで
大事なものを
たきぎに代えて
代えざるを得なくて
白いけむりは
燃えていたんだろうね
きっと
待っているのかどうかもわからないで
時間も暦も味方にはなってくれないで
それでも
燃えるしかなかったんだろうね
あの三月も
この三月もきっと
白いけむりになっていくものを
その
けむりを立てるものを一心に
信じながら
呼んでいるのだろうね
見え隠れする春に
すべて
まざりあってゆくよりほかにないような
それぞれの
春に


2014/11/06 (Thu)

[1306] アコーディオン
詩人:千波 一也 [投票][編集]


十分に
勤めを果たした風よ

わたしのなかから
出ていきなさい

真直ぐ、迷わず、信ずるままに

うつくしい音を
連れて

うつくしい
音色となって

あたらしい風を
迎えにいきなさい

やわらかな担い手となる
清らかな和を

めぐりめぐる
自分探しのように

奏でていきなさい
一切を

真直ぐ、迷わず、信ずるままに





2014/11/06 (Thu)

[1307] 時が咲いている
詩人:千波 一也 [投票][編集]


よばれた気がしてふり返る、と
案の定だれもいない

もう
幾度となく通いつづけた道の途中で
わたしは今日も花を咲かせる

いつかまた
不意に、懐かしく
わたしの足を止めるだろう花を
ここらで咲かせる

そんな
ささいなわたしの傍らを
風は軽やかにくぐり抜けて
きっと
無数の花を
揺らしていったにちがいない

時が咲いている
見るも触れるもかなわなくても
ひとりわかればいい、と
わたしを満たして
笑んでいる

2014/11/06 (Thu)

[1308] 私が私でなくなる日
詩人:千波 一也 [投票][編集]



私が私でなくなる日にも
海は変わらず在るのだろう

私が私でなくなる日にも
空は変わらず在るのだろう

私が私でなくなる日など
なんの特別なことはなく

私が私でなくなる日には
誰かが人を愛するのだろう

私が私でなくなる日には
誰かが優しくなるのだろう

私が私でなくなる日など
ほんの些細なしずくだろう




2014/11/06 (Thu)

[1309] ひとひらの冬
詩人:千波 一也 [投票][編集]



三月の晴れ間に舞う
ひとひらの冬

勢いもなく
威厳もなく
すぐにもそれは解けて

どこから来たの、
どこへと行くの、
たずねるいとまも無く
お別れになる

けれど、
帰るべきところへと
帰ったのだろうと思われる

きっと、
やさしい身内のもとへ
戻ったのだろうと思われる

もうじき春が
あふれ出しそうな頃に舞う

ひとひらの冬

それはあまりに淡く
いとおしい



2014/11/06 (Thu)

[1310] もとめる原理
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檻の中に
いるのだとおもった

どこまでも許しを必要とせず
満たされつづけるような
海に吹かれて

さびしさを紐解けず
絡まっていた



慣れてしまえば
失うことは怖くない、さほど

得ることに慣れたなら
はかり知れぬ不幸が
みえる

気がする



人は
何故にゆだね合うのだろう

大切なことを隠し通して
堪えきれなくなるまで
隠し通したつもりで

何故に
ゆだね合うのだろう



降る雨を待つことも
降らない雨を待つことも

やがては消える、という点では同じ

そして、同じがゆえの
差異がある

その差異の一片が
ことばで

ことばによって人は
孤独を深めて

ゆく



愛することに疲れても
そむかれても
報われなくても

それらを越える一点の
力に伏して

孤独をみつめる

孤独を口にする

孤独をともして
ぬくもる





2014/11/06 (Thu)

[1311] 流転
詩人:千波 一也 [投票][編集]


太陽を分かつ、春秋の姉妹

その両隣には
冬がいて

夏は、瞳の中に
在る



月と月を結ぶのは
南北の、師弟

記憶を西方に託し

東方へ
祈る



極楽は生死、の合わせ鏡

火と水は
互いのうつしみ

金と木は共鳴の、同志



天地にわたる海の歌

右の爪には砂漠を
満たして

左爪には空を咲かせる

真正面には
星の座標

背中に負うのは土の声




2014/11/06 (Thu)

[1312] 狼たち
詩人:千波 一也 [投票][編集]


三日月の
燃えるような匂いが、
遠吠えの森を
濡らし始めると
いまだ熟さぬ果実のような
青い吐息は呼応して
疾走の支度を始める
あてもなく
ただ、
匂いだけを頼りに
荒削りの爪を
三日月へ
重ねる

鏡に映るつめたさは
牙ではなくて、
牙を照らす
あの
月明かり
傾くたびに
増してしまう鋭さは
牙ではなくて、
牙を暴く
あの
月明かり

なだらかな
平野に横たわるのは
拒絶の対象を忘れた、難破船
それはあまりに優しい
拒絶の眼だから
草むらの群生たちは
物音を立てず
風だけをまとって
海を学んでいる
遠く、
浅く、
海を学んでいる

残酷な狩りは
残酷ないたわりの中に生まれる
勝つも負けるも
至極平等な真実ならば
誰も、
介入してはならない
誰も手を貸してはならない
脚色も
口添えも
一切を捨てて
傍観者にすら成り得ない
誰も、
狩りの定義からは
逃れられない

遠吠えの森に
またひとつ、涙が
こぼれてしまったようだ

煙るしかない夜の言葉に
少なからずの同情を、胸に秘めて
咆哮たちは
互いにわずかに
踏みつけ合う
そうすることが尊いのだと
昔、賢者が語っていたと
湖面の三日月が
揺れているから
従順な
けものたちは
尾を揺らしながら
瞳の中に
疾走を
灯す




2014/11/06 (Thu)

[1313] おいで。
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おいで、

すべてを捨てる必要なんてないから
一時しのぎでいいから

おいで、

聴いてほしいことだけを
一緒に忘れてあげるよ

おいで、

誰だって孤独なんだってことが
わかるころには夜明けだから

おいで、

預けものがあるなら
待ってるさ

おいで、

大事な誰かに
ほんのわずかだけ
似せてあげるから

おいで、

心を貸せるかわからないけど
それでも良ければ

おいで、

秘密を消してしまえるよ
きっと

おいで、

どうせ
傷がふえる予定なら

おいで、

その疑いは
正しいかも知れないよ

おいで、

何に従ったのかなんて
理由を問う気は
無いさ

おいで。



2014/11/06 (Thu)
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