詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
貫いて、
まっすぐ空を貫いて
僕は僕の
生きてきた道を
証そうとしていた
この手を握りしめると
隠しようのない非力さが伝わって
けれどわずかに
意外な力も伝わって
僕は
僕以外のものになどなれないのだ、と
ただまっすぐに
苛立っていた
そこへ
急な角度で現れたのは
君だったね
あり得ないほど自分勝手な生き方で
笑わせたのは君だったね
真一文字に
雲が流れていった
はじまりの、
あの夏
僕に守れる
ものがあるとしたら
きれいに
理由を飾りつけて
守りの一切を放棄しようとする僕を
見逃さないことだ
守ろうとする弱々しさと
格好悪いほど必死な姿は
無かったことになど
ならない
すべて、
すべてを認めることが
僕に守れる僕、だ
たやすくはない
ただひとりの
僕、だ
貫いて、
まっすぐ空を貫いて
僕は
君の気まぐれに
つまずいてばかり
だけど
相変わらず、
だけど
僕は
僕以外のものに
僕の知らない、あかるい夢のような僕に
なれそうな気がしている
知らないことが
やさしく思えるような
みえない僕に
なれそうな気がしている
互い違いの一直線は
実は
互い違いではないのだろう
きっと
懸命ならば、
同じことなのだろう
幾重にも
幾重にも
それぞれの信じる、一直線が
結ばれた空には
分かれ目などない
きわめて繊細に編まれた絹のように
穏やかな空だ、
今日も
頑なな
僕たちのうえに、
唯一無二の約束ごとのように
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つながれた指の
無言の理由を探りあって
にじむ光の
遠くを見つめるふりをして
みずからの域を出ない
ふたつの熱帯魚
あれは雨の日だった
つたない呼吸が包み込まれて
許されて
汗は
濃密に、均一だった
地を打つしずくは
けせない鼓動と
よく混ざり
まぶたを閉じて描く、
水彩の部屋
あれは雨の日だった
容易くは崩れられない太陽の
言葉に代わるさえずりを
そっと歓んでいた
ふたつの恥じらい
はじまりの、キス
時は寡黙に
けれど、しっかり饒舌に
けなげな偽り合いを囲っていた
秒読みに
形をなしはじめる約束を
浅く、満たして
やさしい砦のように
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きみの王国には
ママとパパがいて
きみの法に翻弄されている
きみの王国には
どんなものでも住めるから
かえるもクマもお友だち
くるまも絵本もお友だち
きみの王国には
国境があって
日々それは拡大をみせるけれど
ほんのささいな失敗で
時々それは縮小もする
きみの王国には
いつか終わりが訪れて
きみの不在が日常になる
でも大丈夫
ママとパパが覚えておくから
きみの王国には
焦りや疲弊やため息が満ちても
それらを一瞬で吹き飛ばす
まぶしい笑顔が咲いている
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苦々しい喜びや
清々しい恥じらいが
わたしの背中を支えてくれる
寒々しい真実や
みずみずしい偽りが
わたしの肩を持ち上げてくれる
どうしたって
戻れないのが過去ならば
どうしたって
訪れるのが
未来たち
そうしてわたしは
完成されつつある至らなさを
なぜだか胸に抱き締める
大切そうに抱き締める
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日常のなか
その特別性が
はからずも失われゆくものを
調度品といいます
ちょうど、
郷土と響きが似ています
つるりと光をなめらかに着て
都合のいい解釈に
身を委ねます
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
弱々しい泣き声を自粛して
見上げる空に満ちるのは
サファイアの海
誰のものとも分かちがたい記憶の潮に
わたしは鼓動をそっと浮かべる
きれいな言葉も醜い言葉も
燃やしてしまえ、落日よ
思うほどには
わたしはわたしを拒絶しないから
自制の瞳はクリスタル
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きつく、きつく、したら
壊れてしまうかもしれないね
って
胸のうちで微笑み合いながら
重なりあう
雪の
はずだった全ての飾りは
やわらかな音のなか
硬質な匂いの
一滴となり、
主をはなれた一滴は
やがて孤高にうたいはじめる
震えて、ひたむきに、
たとえ忘れ去られても
きつく
きつく
その一瞬の永遠を
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いわゆる春、には
飽きたので
エンゼルなどを植えました
やがて
捨ておけぬ腐敗が
たち込めることでしょう
そうして
悔いを味わうでしょう
ほんものの春、です
感じたいのは
目を逸らせない
いちずな春、です
暮らしのなかに在るべきものは
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愛想の悪い
コンビニ店員がいて
時々ムッとするけれど
それは私の勝手な
お客さま感情なのかも知れない
缶コーヒーを
一本買ったくらいで
「こっちは金を払ってんだぞ」
って
偉そうに振る舞いたくなる
お客さま感情なのかも知れない
愛想の悪いニイちゃんが
ばあちゃんの荷物運びを手伝っていたりする
愛想の悪いネエちゃんも
子連れママを気遣って通行していたりする
ぞんざいな釣り銭の渡し方に
少しムッとしつつ
この店員も
どこかのホテルやファミレスなんかでは
ひとりの客なんだよな、って
ひとり、胸のうちでボソボソ言いながら
ひとりの客であるはずの私は
客である前に
何者に映っているのだろうって
気になった
もちろん
聞けるわけなんかないけどね