詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
言葉の鎧を貫きたければ
言葉の剣を用いなさい
言葉の剣を防ぎたければ
言葉の鎧を用いなさい
どちらが正しい、どちらも正しい
どちらが強い、どちらも脆い
どちらが尊い、どちらも貧しい
どちらが寂しい、どちらも熱い
言葉の壁を崩したければ
言葉の砲を用いなさい
言葉の砲を防ぎたければ
言葉の壁を用いなさい
堂々巡りに辟易するまで
傾く軸に
定まる優劣に
瞬きの間の勝敗に
こころ揺らさず漂えるまで
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
綴った言葉は
ひとの目に留まったときが旬
綴っている間が旬
口にした言葉は
ひとの耳をかすめたときが旬
数年の後に思い起こすときが旬
秘めた言葉は
ひとに明かされないその間が旬
ひとに明かす決意を固めたときが旬
今このときも昔もあすも
言葉の旬
見えるも見えぬも
聞かすも黙すも
言葉の旬
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
マイナスの評価を聞いて
なぁんだ、と高をくくる
マイナスの噂を聞いて
ほんとかしら、と疑いをもつ
どちらの態度も自由だけれど
その結果としてのわたしに
マイナス表示が貼られやしないかと
マイナス気味に思案する
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
夏至が過ぎた、と思うと
こころが細る
なにも
急激に夜が押し寄せるわけではないし
夏本番を迎えてさえいないのに
こころは焦る
やりたいことと
やらねばならぬことと
両方を隔てなく在らせてくれるような
陽射しの寡黙さが好きだ
形を持たずとも
輪郭を覚えさせられるような
一瞬たちの
無言の明滅が好きだ
わたしの本質は
あまりにも夏だったのだろう
幻も約束も優しさも
影も時間も愛しさも
抱き締めずにはいられない
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
しずくの国にも
ささやかながら法はある
しずくの可憐を守るに十分な
慎ましい法がある
しずくの法は
しずくに在らねばわからない
それゆえに
しずくの法は
しずくによって綻びもする
しずくの抱く光には
やさしくも脆い陰たちがある
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
ようやく
二本足で歩きはじめた我が子が
草はらで不意にしゃがみこみ
石ころや小枝を見つめている
あるいは
石ころや小枝のほうから
見つめてきたのだろうか
何かに染まりすぎた大人には解せない
やわらかで唐突な音声をもって
我が子は語りはじめる
砂つぶにも落ち葉にも
向こうの水にも風向きにも
我が子は語りはじめる
至極
神秘に真摯に無限と対峙して
我が子は宇宙とつながっている
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
濡れそぼつ紫陽花を
傘の中から覗いたわたし
やがて
雨が上がれば
水滴さえも花にして
紫陽花は凛と
咲くのだろう
濡れることを厭うわたしは
濡れる役目を傘に負わせて
柄を握る手に力を込める
わたしは
何を守るのだろう
わたしは何を守れるのだろう
例えば
もうじき注ぐであろう陽射しの中で
望みのはずの陽射しの中で