詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
ことばを選んできた
いいえ、
ことばに選ばれてきた
いずれにせよ
日は進んでゆくけれど
なにかしらの軽重に
傾かざるを得ない
そらを仰いで
いいえ、
そらに仰がれて
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てのひらに
乗らずじまいの鳥でした
だから
わたしを探すなら
むこうの風の
枝あたり
落ちるともなく
揺られ続ける
木の葉の
ような
ささやかに
確信めいた一枚の
ちいさな炎が
わたし
です
この世で
いちばんやさしい嘘が
あなた、だとしたら
わたしはそれを
かくまう罪びとで
構いません
月が
伝えてくれるのは
満ち欠け、
ならば
まっとうするのが
清楚です
交わした約束など
ひとつもありません
願ったことや
にくんだことなら
ひとつならず
ありました
でも、
約束なんて
なかったのです
むごいものなど
必要なかったのです
雲を
描けるつもりで
いますか
いまも
まっすぐに
風のしたですか
あなたは
やわらかな言葉の
裏側ばかりを
品定めして
わたしは
すっかり
褪せました
朽ちてはいないのが
救いです
軽々と
音になるのが
救いです
いつでも
忘れにいらしてください
わたしは
きっと迎えましょう
だれより
なにより
慈しみましょう
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つき立てたスプーンは
さながら銀嶺
氷寒は、あまい
あまくて
ぬくい
だれかの失くした王冠と
つとめてしずかな
舌鼓
ありふれた脱ぎ捨て方で
癒しのすべが
固まってゆく
模倣の山の頂
みたいに
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むらさき色に
宇宙がのびていくのを
見た
小さな
わたしの夕暮れ
家々の窓には
サーモンピンクが
反射して
遡上の川を
わたしは想う
街灯がともるには
ほんの少しだけはやい
オレンジの刻
わたしの影は
匂いとなって、また明日
なつかしそうに
さまようの
いまはもう
青くはない空だけど
それは確かに
青かったから
ほんのり苦い
わたしの夕暮れ
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逆らいたいのに
敗訴、
愛想、
で
棚から大賞
ポチっと
ボタンを押したのち、
もちもち
ねばって
独りぼっちに
なれない
ぼっち
あやまち気味に
ひと握り、
あま噛み気味に
まるかじり、
しんみり
じりじり
人見知り
おとり、で構わないけど
火傷、
故郷、
いえいえ、と
ひととおりの
レボリューション、ネオ
ロンリネス
抱き締めたいのは
期待、
液体、
有機体、
だいたい願いは
意外な出逢い
曖昧、
難解、
ご招待
あしたもきっと
お客様なら
さらさら、
はらはら、
いざ、さらば
欺瞞
いやん。
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星には
たどり着きえぬことを
受け入れたところが
はじまりであるはずの
命です、だれも
おそらく
涙をこぼすな、
とは申しませんが
絶望するような眼差しで
星を見上げることは
やめて頂きたいの
です
絶望するに値する
契りがあれば別ですが
だれも
そんな生まれ方は
していないはずです
生まれる前に
受理したすべては
だれにも確認できません
すべては巧みに
闇の中です
ならば、
照らしましょう
闇を精一杯に照らしましょう
なれるはずもない
星を請うことをせず
この身、その身に
なしうる限りの乏しさで
精一杯に照らしましょう
闇を照らしましょう
それが
できたら、わたしたち
生まれたことに
なりましょう
だれにも
代われぬ星として
生まれたことに
なりましょう
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きみの
笑顔のために
ぼくはせっせと
穴を掘る
いくつもいくつも
穴を掘る
そして
うっかり
自分で落ちた
試しに
笑ってみると
自分の声が妙に近くて
さびしくなった
ひょい、と
穴から顔を出すと
きみは笑った
あかるく
笑った
そして、きみは
落ちた
ぼくに
駆け寄って
ぼくに手を貸そうと
駆け寄って
するり、と
落ちた
いくつも掘った
ひとつに
落ちた
ぼくは
笑うべきかどうか
とまどっている
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粘土で
象をつくったら
「可愛いきりんね」って
誉められました
たこ風味の
おかしな生きものをつくったら
「足が多いよ」って
注意を受けました
気ままに
まるをみっつ並べたら
「なにがしたいの」って
責められて
「こうしたらお団子よ」なんて
手本を示されました
がっかりしたし
いらいらしたし
悲しくもなったけど
なんにも言いません
言えません
そのかわり
粘土をつぶす力が
強くなりすぎるけど
粘土は黙って
こわれてくれるのでした
何度も
何度でも
こわれてくれるのでした