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千波 一也の部屋  〜 新着順表示 〜


[1099] 日傘
詩人:千波 一也 [投票][編集]


太陽に

照らされすぎると

こたえなくてはならないことが

次から次へと

たずねてきそうな

気がいたします

おそろしいような

恥ずかしいような

こそばゆいような

形容のしがたい心持ちの

いずれにも添うものは

笑顔です


日傘をさして

友になりませんか

つかの間の

ほどよく上手な

花になりませんか

つかの間の

流れをいとわぬ

水になりませんか

つかの間の


完全に

日をよけることなど

かないませんから

一時の

戯れですから

遠慮なさらず

隠れてしまいましょう


白、

袖、

黒、

髪、

青、

爪、

紅、

嘘、


華やかなんです

日陰も意外と


桃、

風、

黄、

指、

紺、

文、

碧、

石、


太陽に

さらされすぎると

おぼえた意味の正しさが

気になります

ときにはそれも

大切だとは存じ上げますけれど

きょうでなくても

よろしい筈です


影としての立場から

光としての立場から

あなたの憩いを

お誘い申し上げます


道々草々

そこかしこ



2011/10/16 (Sun)

[1098] おやすみなさい
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もう

終わらない

たぶん、本気


なればこそ

手足をうんと広げましょ

いつまでも

いつまでも

どうもがいても

真実はばたける日が

来ないなら

せめて

眠りにむかう姿くらい

思い切りよく

ありましょ


だれにも

迷惑をかけない片隅で

届け先の耳を

まちがえないで

小さくても

おおきくても

華やかでも粗末でも


わたしにしか言えない

夢のとびらの

合言葉


あなたにも

あなたにしか言えない

魔法があるはずだから

もう

ごまかす必要のない

闘いです、これは


競走しましょ

どちらが先に

風になれるか


くるまる

くるまる

冗談まじりに

余裕をもちましょ


2011/10/16 (Sun)

[1097] 残暑
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おもいで、と呼ぶには

早すぎませんか

わたしの肩に

のしかかる時間を

不思議な重さに替えながら

にわかに雨は

零れはじめて

ゆるやかに、

空のとおさが

染みるのです



 あの

 岬に揺れた

 草花は、もう

 しらない色になったでしょうか

 あの

 窓からながめた

 町明かりは、もう

 ちがう足どりになったでしょうか



うっすら、と

飲み込みがたい

寂しさは

言葉に

出来ず

わたしの背中を

ときどき伝います


まだまだ

暑うございますね、と

やさしい文句で

挨拶をして


ひやり、

ながれて

ながされて

きょうの

居場所を

すこしずつ

覚えさせられるのです



あやまり、と呼ぶには

早すぎませんか

ましてや正解だなんて

あなたも、

わたしも、



2011/10/16 (Sun)

[1096] 少なからず、
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少なからず、
迷いはあったから
今もまったく
そうだから
なるべく
人にはやさしくありたい、と
やさしくされたい
言葉はきょうも
眠る時間です

少なからず、
痛い思いは味わったから
おんなじ思いは
たくさんだから
傷つきかけた誰かのことを
守らなくては、と
構えています
まるで
新たな傷口を
まだかまだか、と
待つように

少なからず、
好意はあったから
結んでもいない約束に
うかれていたのは
事実です
それとまったく同等に
裏切られたのも
事実です
でも、
だれにも同意を
得られないわけでもないから
わたしのような正直者は
つぎなる行為へ
つぎなる行為へ
行けるのです

少なからず、
度を超えた自覚はあったから
熱かったから
どうにでも、
止めてほしかった
毎度のことながら、
それが
言えるのは
あとからだから
寒いんです
いまさらながら
寒いんです
いまさらだから
どうしても
間に合わなくて
凍えてるんです

少なからず、
間違えてきたから
そのたび
愛してきたから
愛されたから
正しく在ろう、とは
誓えないんです
だれにも
いつまでも
誓えないんです

少なからず、
努力はしたから
怠けもしたから
大きなことは言いません
ひとに
強いられるのは
努力じゃないし
怠けでもないし
だから、
小言にとどめます

少なからず、
願いはあったから
怖れてきたから
だれの
どんな言葉にも
たやすく頷いたりしません
たやすく否定したりもしません
綺麗なものは
綺麗なままに、と
信じているだけです

少なからず、
抱えてきたので
負われてきたので、
ゆっくりと
見つめることを
心がけたいんです
ひとを
ながれを
向こうを、内を、裏側を
おもうわたしで
いたいんです

少なからず、
わたしらしさが
わかってきたから
続けてみるより他になく
なおさら
迷子になりそうです
が、
幸せをうたうのも
不幸せをうたうのも
わたしを
通した言葉なら、
聴きたいほうへ
聴きたいほうへ
進んでいこうと
おもうんです



2011/09/30 (Fri)

[1095] 霧に浮かぶ
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遠く、

海を呼ぶ声が

かさなり合って

海からの声は、もう

ちいさくなった


探せないものはみんな

いつかきれいに

空からくだる

たやすくは

気づけないかたちで

空から降る



浅く、

ひざまずいた地面から

風を見送る風が

ゆくのを

そっと、

手放すための

風が吹く


上手に捨てる

すべなどないから

みんな、染みて

深みをさけて

深みにはまって

聡明に、空に焦がれる

それはそれは

透明なかたちに

凪いで




  廃墟へ還れ

  時を生まれる旅人よ




おそろしい波の心臓に

ただよう波のやさしさが

最もおそろしい

ならば、まだ、

声で良いのかもしれない


はかなげでも

あやうげでも

無数に群れた途上の夢の

水で良いのかも

しれない



しずかに、にぎわう

しずくの

寄る辺




2011/09/30 (Fri)

[1094] 泥だったね
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泥のなかに いたね

いつも そこしか

なかったね


汚れることなど なかったね

すべてを 受けて

おのおのだった ね


なんにも 簡単じゃなかったね

だけどなんにも 失くさなかった

形を変えたものはあっても

なんにも 要らなくなかったね



泥のなかには 水がある

水のなかには 不純がある

不純のなかには 純がある

純のなかには 澱みがある



泥のなかに いたね

恥じらいながらも まっすぐに


空につながる 不思議だったね

海も 緑も 鏡の向こうみたいで


泥のなかに いたね

選ぶことも なく

選ばれることも なく

素直に けなげに

やわらかだった ね


いつの日にか も

いつの間にか も

あのころは ただ

やわらかだった よね


2011/09/30 (Fri)

[1093] 闇からくれない
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信じることが

すべてであることに

変わりはないわ

きのうも

あしたも

何にもくれないのなら

進むしかないわ

信じた先が

傷だらけでも

泥まみれでも

そこから先へつながる道は

必ずあるから

わたしのゆめは

紅くながれて

冷めたり

しない


暮れない昼がないように

暮れない夜も

きっとない

だから

言ってるじゃないの

信じることが

すべてなのよ

すべてでなければ

この世は成り立たないのよ


結果論じゃなくて

感情論でもなくて

だれも見たがらない

さわりたがらない

ささいな闇の

お話よ


2011/09/30 (Fri)

[1092] お片づけ
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きみが
見送りつづけたあのバスを
撮ることなんて出来なかったけど

きみが待ちつづけた
あのバス停とベンチとを
ぼくは撮ったよ

現像なんかしないけど
捨てたりもしないけど



窓の外には枯葉がつもって
もうそんな季節で

きみは
迎え入れがたい時間が
増えた、というから
ぼくは秒針の音を聞いている



泣き方に
手ほどきなんて要らないけれど
細々灯れるものならば
教えを請うのも
わるくない

そう言ったきりきみは
空の無言を聞いている



守れなかったことの寂しさが
悔しさを呼ぶ

守れなかったことの悔しさが
寂しさを深くする

なにを守れなかったのか
それはきれいに忘れても



履き古した靴のいったいどこが
いとおしいのだろうね

指になじむ紐の擦り切れ具合かな
無難に選んだ彩りの
褪せ具合かな

どこの物かもわからない
あちらこちらのかかとの汚れかな



さよならを告げる
練習をしていたんだ

思い通りにいかない夕暮れは
そんな小さな焚き火に興じた
くべる言葉の少なさに
身を震わせながら



きみからの手紙は
行間を読むことにしている

語らないきみの
呼吸にじっとおもいを馳せて



思い出さないほうがいいことなんて
一つもない

わかりきってるからこそ
苦しいんだ
こんなに



青さはちっとも
変わってなくて
敢えて言うなら
変わってしまったのは
ぼくのほう

とても難しくて
とても易しいことなんだけどさ



得たものよりも
のこりのほうが気になって

ぼくはずいぶん
待たされている



かなしい言葉はいらない
それを頼らなくても
十分にかなしめるから
よろこびも
同じ




捨てるという所作や言葉は
あまりに冷徹だから
決まりごと
そう呼ぶように
ぼくは心がけている

誰かにとっては
散らかったありさまに映るとしても
なんとなく

2011/09/30 (Fri)

[1091] 夜を告げる舟
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月のかげから

漕ぎ出でるのは

夜を告げる舟


一隻の

心許ない

ささやかな舟



涙も吐息も

櫂にほどけて銀の波


愛想も美辞も

帆にいだかれて金の風




嗚呼

帰ってゆくんだね

なんにも傷つけないで

傷つかないで

さみしい薄明かりだね

きれいだね




彼方を愛した

言葉のかげから

漕ぎ出でるのは一隻の舟


きらきらと

名残惜しそうに

夜を告げる舟




2011/09/30 (Fri)

[1090] 夜明け前
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思い返せば、
みじかい言葉でした

苛立ちも
かげぐちも
願いでさえも

今となっては
レンズのない顕微鏡のような

役立たない、とは
言わないけれど

言えないけれど

もう少しだけ
毛布にくるまれていたい、とだけ
本音をぽつり



慣れた手つきで
開きかけたカーテンを
放置してしまいましょう

やめたところで
だれも困らないなら
すてき過ぎて
泣けてきます

振り返ることは、もう
終わりにしましょう



だれかに
聞いてもらえるような
願いではありませんでした

聞いてもらいたかったのか、と
問われたら
返事ははっきりしませんが

たぶん、
大切にする方法が
間違っていたのでしょう

月日がゆけば
忘れてしまいそうですが



得てして
すききらいは
上手な光り方でした

感応は自由で
明滅も自由で

なにがわたしの
素地だったのか、
知らないなら知らないで
良いのだと思います



ながい沈黙の
夢は続いてゆくのでしょう

これまでのように
美しさや
優しさや
やわらかさなどの
定義におびえて

答をそっと
拒むのでしょう

是非は
よくわからないから

ほどほどの饒舌さで
ほどほどの
寡黙さで



もうじき
夜が明けてゆきます

待つでもなく
避けるでもなく
途方もないものが
もうじき満ちてゆきます

だからわたしは
準備に余念がないのです

せっせせっせと、
ひとつでも多くの
忘れ物をするために

あちらこちらの
寂しさ悔しさ虚しさが
今夜もわたしに
帰れるように


2011/09/30 (Fri)
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