詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
ろうそくの寿命を
保たせたいのなら
使わないこと
点けても
すぐ消すこと
大事に
大事に
しているうちに
なくしてしまう
こともある
けれど
(おまえは
(どんな生き方を
(したいんだい
たばこの先に
火を点けながら
煙にもくもく
逃げられて
わたしは
わたしの
末路に
ついて
星々に
問う
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あふれる涙に
区切りをつけて
流星たちは夜を曳く
きらきらと
こぼれ落ちずに
音も立てずに
空は、昔
夜風をながれる
木の葉のさわぎが
飛べない鳥を震わせる
重なる波の片隅の
翼に空を仰がせる
苦しまぎれの偽りは
静かに燃えて
契りの鱗は、夜の底
まもられたかった意味たちの
気泡とともに
とけていく
約束は
彩られたら、終わり
ことばを撒いて
つかの間の迎撃に
無声は垂れて
夜は分かれて
懐かしい海の濃紺が
持ち合わせるのは
鏡だけ
流星たちの
素顔がいつでも
のぞめるように
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あなたに
似合う季節は
どれとは言いがたいので
あなたへおくる言葉はすべて
どうやらいまも
なりゆき
です
探しものは箱の中
箱という名に閉じこめられた
とても、やわらかな
形
顔なじみの風景が
ようやく広くなりましたので
淡い言葉もわるくない、と
思える紙片が
わたしです
きのうとあしたの
まんなかあたりで
よくわからずに
安堵して
すがるべきではないものを
ときに鍵と呼ぶ
日々のすべてが
かけがえのないものならば
どんな痛みも
どんな眠りも
どんな翳りも
どんな恨みも
はたから見れば
わたしもあなたも
思うほどには
意味をなさない
物語です
とがらぬ言葉で
角のない言葉で
互いの輪郭のなさを
あらわに記しあって
そろそろ、
祝福しませんか
機をのがさぬことは
大事な大事なつとめですから
ね
ぴたり、と
揃いませんか
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くもらぬ声で
ささやく物語が、愛
結末は
かなしくても
信じるしかなかった
瞬きの間が、愛
傷んだものは
そのままにしておくことが、愛
差しのべる手も、愛
叫ぼうとして
踏みとどまった後悔が、愛
伝わらなくて
にぎりしめた川風が、愛
星の名を
おぼえようとする瞳が、愛
星を見ていない
その目も、
愛
雨上がりの虹を架けるものが、愛
消し去るものも、愛
一から獣へ
獣から策へ
策から縁へ
縁から万へ
指おり
数えることの
よろこびが、
愛
数えたところで
無に帰る水面も、愛
ひとの光の
やわらかさが、愛
目をつむりたくなる
まぶしさも、愛
引き継がれてゆく
お荷物が、愛
失うことの
おそろしさが、愛
涙の奥の
なみおとが、愛
それを
描いたり
描ききれなかったりする
指さきも、愛
いつの日にか
が、愛
いつのまにか
も、
愛
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宇宙のかなたの秘めごとに
聞き耳を立ててみたくなるような
わたしの夜は
透きとおるほどに汚れてしまう
汚れるほどにもろさを甘受する
もろくなるほどに
他を傷つける
聞きたいことは
はじめから決まっていて
裏を返せば
なにも
聞いてこなかった、ということ
割る音も
砕く音も
磨く音も
宇宙のかなたには
可能性があるらしい
優しくなれる可能性
勇ましくなれる可能性
想いが報われる可能性
大なり小なり
望遠鏡は
大なり小なり
かなたを
知る
それゆえ争いは仕方ない
みち半ばなら
仕方ない
片隅にちがいない
わたしの夜は
誰より平和で
わたしの夜は
誰より
危うい
から、
みがかれても
みがかれても
此処にいる
なすすべもなく
武装して
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工事ランプは今夜も寂しくて
車もまばらな夜の向こうには
灯るような、三日月
いまとなってはどんな言葉も
傷をかばうための
道具でしかないのなら
せめて
こまめに
踏むしかない
ブレーキを、
ブレーキという
狭さを
おのれの強さを守る理由は
総じて弱く
おのれの弱さを守る理由は
総じて
強い
どんな明かりで照らしても
背中の荷物は影を落とさないから
すべての寂しさよ
細々と
灯れ
赤く
ブレーキランプの断続が
ミラー越しに
遠ざかる
この目に映る遠くまで
夜はまっすぐ伸びていて
境目のなす意味は、もう
ひとつも残らない
誰のためでもなく
なにかのためでもなく
ほんのわずかな自由さと
それを育てる不自由さとが
尊い巨塔をなして
ゆく
監視のための、
うつくしい
巨塔
夜よ、灯れ
絶えずに灯れ
小さきものの
迷いや憂いや誇りの頭上から
はるか、
逃げ道を
照らせ
最後の
最後の
すくいのように
ただまっすぐに
照らせ
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あえる ね
お、 と、
あ ふれる ね
はるか な はる が ね
くる ね のにね の に ね
あ ふれる ね
ほほ ほほ うふふ
ひのな ひの なか
ひかりの お く ち
くすり くすくす
ぐっすり ね むれる
ねむれる あめ つち
す、
が、
お、
おっとと おっぽ
しゅしゅぽぽ しっぽ
あえる ね あう ね
いえる ね ゆう ね
すやすや す や
すむ ね
すむ ねこ
あの ね の ね
わらわ わらわら
まるかけ まるかけ
かけない ように
え、
ん、
で、
おてて あわ てて
お て て
つれて ね
ね むろ
はは は はは
すく すく くすり
くす くす
ひ か り
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やさしい人はどこですか、と
尋ねることばが多すぎるので
空はすっかり無言です
晴れ渡る青空の日も
雨の日も
風の日も
空には無言が広がります
だから時には
黙って空を聴くのです
空からの質問はないものか、と
無言で待ってみるのです
そしたら案外
尋ねたいことなど少なくて
尋ねたところで
仕方のないことが多くて
空の高さに
ほっ、として
やさしい人はどこですか、と
不意に勢いづくことばは
まだまだ胸に眠って
います
が
まあるい瞳は
つとめてしずかに
覆われるので
きっと
しばらく
大丈夫、です
やさしい人はどこですか
夢であえたら
宜しいです
ね
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いらない人など
どこにもいないと云うのなら
いらない悲しみもきっと
どこにもない
いらない人というものが
もしもどこかに在るならば
目の前の喜びに怯える日々は
ずっと積もってしまうだろう
甘い果実もにがい果実も
内に秘めたはかなさは
どれもたがわず軽やかで
どれもたがわず重たくて
はかないものの別名は、永遠となる
一個だけでは成しえない
ひとりだけではたどり着けない
互いのちがいが消えないように
だれも同じく熟れてゆく
たとえどんなにはかないものも
ひとつ残らず結ばれて
ひとつ残らず永遠になる
たとえどんなにはかないものも
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薔薇色が
咲くべき場所は
薔薇のなかだから
薔薇色に
飽きたければ
薔薇として咲き誇りなさい
深紅の香も
深紅の刺も
深紅の愛も
深紅の涙も
嬉々として示しなさい
塗れなさい
薔薇色を
咲かせるものが薔薇ならば
薔薇色が
咲くべき場所は
薔薇にしか
ない