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千波 一也の部屋  〜 新着順表示 〜


[1069] 星屑みたいな夜に
詩人:千波 一也 [投票][編集]


さびれた町だけど、さ

コンビニ袋なんかを

シャリシャリいわせて

きみと歩いて、さ

きょうのことを

懐かしく思う日が

来るんだろうな、

って



真夏のくせに

夜はひんやりしてさ

数少ない街灯のくせに

1本1本のオレンジ色が

ほんと

薄くてさ


ほんとに

さびれた町なんだけど

きみが

いるからさ

良かったな、って

ほんとに



コンビニ袋の中身は

そりゃ安物だけど

ハーゲンダッツとか

缶コーヒーじゃない珈琲とか

ちょっとだけ

フンパツしてて

ま、

そんな贅沢を

分かち合いながら

おじさんと

おばさんに

なっていくのも

いいかも知れないね


あの頃は

苦労したな、なんて

言いながらさ




おれ、

汗っかきだから

手なんかつないだら

すぐにジメジメしちゃうんだけど

浜風が、さ

ちょうどよくて


きみは寒いっていうけど

ほんとにちょうどよくて

黙っていたら

シーンとしている感じも

ちょうどよくて


さびれた町だけど、さ

忘れられないって

そう思った

ほんとに




ささいなことだけど、さ

そういうものに

目が向かなくなったら

かなしいことだから

きみと渡った

ちっちゃな橋のこと

忘れたくないんだ



繁盛してない焼き肉屋も

怪しいネオンの居酒屋も

ふらりと寄ったラーメン屋も

充実してない本屋のことも




みんな

通りすがりのことだけど、さ


みんな

きみと見てきたことだから

ありがとう、って


またね、って


きみと

にぎる手に

少しだけ力を入れたりして


夜風のなかで

しょっぱく

なって


2011/09/01 (Thu)

[1068] 泣いてもいいから
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泣いてもいいから


どうか

自分を傷つけないで




わからなくても

いいから


わかろうと

しなくてもいいから


どうか

しあわせに




 すべてが見える日なんて

 来ないかもしれないし

 遠いだけかも

 しれない


 不確かな日々が

 わたしたちを傷つけることは

 多々あるけれど


 確かなものごとに

 傷つくことも多くある




だから

やめましょう


いたずらに

すり減るのは

終わりにしましょう




泣いてもいいから


どうか

しあわせに




あなただけに

生まれてくるものを


待っていて

必ず




えがおは順番


順番に

くる



2011/09/01 (Thu)

[1067] かなしいさかな
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水の

こぼれ落ちる音が、すき


みずしらず、な

はずもないのに


わたしはまったく

かなしいさかな



水が

なくのを

聞いたことがない


そのくせ

わたしは過ぎて

いく



水も

わたしも

きれいが、いい


理由は

おのおの違っても



水を

わたしは

飲み干せない


飲み干せたなら

溺れない、

のに



水に

なれない

わたしはさかな


すべてを

言葉のせいにして


わたしはひたすら

守られたがる



2011/08/29 (Mon)

[1066] 月のしずく
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月のしずくは甘いので

虫を呼ぶのに都合がいい


月のしずくは甘すぎるので

虫は日ごとにおろかになって

それをついばむ

鳥が栄える




月のしずくは砕けても

きれいにさえずる鳥がいて

けものはそっと

涙を落とす


それも或いは月のしずくか




月のしずくの甘さのはてに

けものはけなげに棲みついて

虫のためにと花など

植えた


花は

夜な夜な

濃厚に空を吸いこんで

時々ふっと月を真似して

しずくを落とす


あまりにきれいな無音さが

羽もつものの背に乗って

やさしい光に

消えていく




誰のためでもない永遠が

続けばいい


鏡のような

しずくにはもう

おわかれをして




月のしずくは円いので

輪になるものには都合がいい


小さな小さな傷をこさえて

小さく小さくつながって

波と呼ばれる

ひとつになって


今夜も

月を呼んでいる


2011/08/29 (Mon)

[1065] 風のまもりて
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風のなかには

なんにもないのです


だから

吹き抜けていく言葉にも

なんら意味などないのです


おわかりならば

すべてやさしく奏でましょう


嘘も願いも涙のわけも

せめてやさしく奏でましょう




風を

まもれるものがあるとするなら

風のほかにはあり得ません


それがおそらく

風へのあこがれの源です


そうして風は

まもられるのです




風のなかには

なんにもないのです


だから

みんな言葉になるのです


孤独や希求や焦燥に

つかのま触れた

気になるのです




いけないことなど

どこにもひとつもありません


許されることや

迎えられることだって

ありません


信じるもなにも

季節はとうに風なのですから


一度

帰ってみては

いかがでしょうか



2011/08/29 (Mon)

[1064] 鳥の巣
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鳥の巣を

憎らしく見つめた夕暮れに

山の向こうで落雷があったという



鳥の巣の

落下をねがった昼下がり

無人の家屋が荒らされたらしい



鳥の巣が

天敵に襲われるさまを夢想した夜

わたしは微熱に見舞われた



鳥の巣に

試しに小石など投げつけた朝

空には晴れ間が見えてきた



鳥の巣へ

親鳥がもどる夕暮れに

わたしは長々電話の途中



鳥の巣と

関係のない日のあれこれが

あちらこちらで雛となる



2011/08/29 (Mon)

[1063] 花の身軽さ
詩人:千波 一也 [投票][編集]


花弁のような裸体になって

柔らかくも冷ややかな

草むらに横たわると

この黒髪は

匂いに濡れる


花咲く野辺には

見つかりがたい陰があって

花弁はいつか

そこへと落ちつく


 (仲間だろうか

 (我が身も仲間と思われて

 (涙からがら触れたのだろうか


奇麗な肢体が欲しいというのに

言葉は甚だ無力であるから

絵画や彫塑の傍らで

ときどき笑みなど

浮かべてみせる


不快な湿度は

そうして覚えた


 (重たいものをはね除けながら

 (いつかは己も除けられて

 (望むともなく縛られてゆく

 (望むともなく重たくなって


花々の奥底に潜むものをうたうとき

命はその身をいだかれている


影の見つかりがたい確かなそれが

柱であることなど

薄皮たちには

わからない



身軽なものを見上げるまでは

わからない



2011/08/29 (Mon)

[1062] しゃぼん玉
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できるかぎりの優しさで

息をおくって

あざやかな

卵のひとつひとつに

そらを託しました



そうして

いかにも幸福そうな

幽閉は

繊細に

消えるのでした


ことば以外の

ちからによって

いかにも幸福そうに

消えるのでした



あざやかな

そらの向こうを

とべないわたしは

きょうも卵に託します

半ば強情な

優しさで


2011/08/27 (Sat)

[1061] ナニカ
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彼の名はナニカ

ナニカ チョウダイ と言われても
どうしたら良いのか わからない

タロウ チョウダイ
ハナコ チョウダイ

きみなら どうする



ソレガ ナニカ は
格好いい言い回し


 出来る男 それが、ナニカ!
 頼れる男 それが、ナニカ!
 人情の男 それが、ナニカ!


ソレガ ナニカ の あとに
疑問符はいらない

文法上の誤りは ないけどね



ナニカ トリツカレテル と言われて
ナニカ は 焦った
お祓いもした


ナニカ モノタリナイ と言われて
ナニカ は 頑張った
ナニカ を 向上させるべく
頑張った


ナニカ ノミモノヲ と聞くたびに
ナニカ は すっと席を立つ
すると通りすがりのウェイターが
お客さま、ナニカ?
と 呼び捨てにする



ナニカ ガ イル と叫ばれた夜
ナニカ は 泣いた


 ナニカ ガ マチガッテイル
 (いいえ、ぼくはなにも

 ナニカ ガ オチタ 
 (いいえ、ぼくはどこにも

 ナニカ ガ オカシイ
 (いいえ、ぼくはいつだって


ナニカ カワイソウダネ と 誰かが言ったとき
ナニカ は そこに もう いなかった



ナニカ クオウゼ
ナニカ クイタイナー
ナニカ クエバヨカッタ

声の背後で
にげる足音が した



川近くの堤防で
階段なんかに腰かけて 遠くを見ていたら

ナニカ カンガエゴト デスカ って 
おばあちゃん
お孫さんつれて

何にも答えずに 黙っていたら
夕日がきれいで

ナニカ イイコト アリソウネ って
おばあちゃん
お孫さんも
笑顔で

だから 
ぼくは くしゃくしゃに笑って
泣いてることを ごまかした

ナニカ コマッタラ マタ オイデ
ワタシハ マイニチ ココニ クルカラ

うん 
ありがとう また来るね って
ぼくは くしゃくしゃに 帰った

ナニカ スクワレタ



彼の名は ナニカ

時々姿を見かけるけれど
ナニカ 元気そう

それでも
ナニカ 傷つくことがありそうな
ナニカ ふしぎな顔してる

2011/08/27 (Sat)

[1060] 風が吹いたら
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灯台の

岬で

風が吹いたら

きみは

揺れる

髪も

すそも

きれいにつれて

きみは揺れる


それは

取るに足らない一瞬だけど

きみにまつわる

ささいなすべてを

よろこぶ権利に

ぼくはそよぐ



 海は

 おだやかに

 晴れているから

 灯台はただ

 黙ってる


 それが

 なぜだか

 まぶしくて

 ぼくは見ている

 とおくを

 見ている




風が吹いたら

ぼくはめくれる

ぱらり、と

めくれる


ぼくの

ページにとまる

きみの指を

思いながら

ぱらり、と

めくれる




風が吹いたら

ぼくは

そんなことを考えている


すずしい顔して

考えている



灯台の

岬で

とおくを

見ている

ふりをして


2011/08/27 (Sat)
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