詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
使い古した姿については
ぼろぼろだね、と
同意をしよう
けれど
わたしたちが
聞き取れる言葉は
そこまでだ
知らされていないほんとうを
伝えるすべもなく
ひた走るような
沈黙を
ときどき見かける
埃まみれに
飼い猫まがいの手足なら
なにをきれいに
傷つける
捨てられた
そう遠くはない行き先を
つとめてしずかに
履きながら
ふるえる
風の
おもいに
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階段下は果てしなく
あらゆる定義をつぶして
みせる
のぼる者には延々と
おりる者には
刻々と
語るなら
陰たちのとく
無声に届け
階段下は果てしなく
ひとつの素顔を
隠してみせる
やさしい時間の
吹きだまり
ぽつり、としずくが
寄り添う
日なた
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数えることは
もうやめましょう
恨みつらみも憎しみも
優しさという
そよ風も
むかし、
草原だった日の思い出に
にわか雨が降ります
ちいさな箱で
目覚めることが
見上げるかたちの
ひとつ、として
すっかり
穏やかです
だれか、
抱きかかえてくれますか
それは
怯える数にも
勝るものだ、と
教えてくれますか
最後の最後まで
行き止まる壁には
色がありました
すれ違ってきた手を
ほどよく匂わすように
やがて、
帰らぬものをさがす日に
泣き声はただ
月になります
どうか、
続きますように
せめてもの
かけらが
どうか
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機械的な
街だとしても
あしたの祈りが渦巻いて
それと同時に
幾度も踏まれて
けれども確かに
きのうはあったから
あした、と呼ばれる
きのうは
あったから
スクランブル、
少しのあいだ
足たちが止まる
手のなかにある
痛みをそっと
迎えるように
夢見るこころの表面の
名もなき顔は
きょうもまた
翼にかわる
人知れず
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いい匂いがしたもので
いい気になって
追いかけて
できないことは
どこにもない、と
一目散に
忘れもの
置き去りはいつも
ひとりぼっちの
さかな
やがて
じわじわ
仲間になるよ
瞳を閉じて
海のなか
まっすぐ曲がれば
おなじに
なるよ
どうしようもなく
逃げ惑う音だけ
鮮明だから
ゆらゆら、
尾ひれ
きょうも誰かが
迷ってる
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満月が
飽和してゆく
そっと
するどい涼しさは
船乗りだけの
うろこです
ただ一言でかばわれて
消え入ろうにも
悔やまれて
丸みを帯びた
涙の甘さに透かされます
あまりに綺麗な翼の夜に
還元される本質の青
幾億の荷が
忘れられない岸辺を
築く
音を立てては
なりません
金色に
遠ざかる脚
その装飾となる
崩れたままの
無形の背
たじろぎますか
火のそばで
腕に
覚えのあるうちに
断ち切ることを
過ちますか
地平が
恥じらってゆく
自由の代償は
もっとも硬く美しく
ここにあります
今はまだ
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あの日を
あの日、と呼ぶことは
思いも寄らないことだろう
あの日の僕には
時は
流れてゆくものだと思う
追い越せないことは
確かだけれど、
離れ過ぎずに
ちょうど良く
追いかけて
そのくせ振り向いて
溺れかけながら
時を
流れながら、僕は
言葉を探すのだと思う
そのさなかについて
おまえ、と呼んだ日の
風のまぶしさ
オレ、という名乗りに
支配されていた
懐かしい匂い
君、の響きを
低くから受けとめた
時計塔の空
あなた、のなかにある
ごまかせない幼さの
不思議なひかり
僕はそうして
僕だけの番人として
やがての海を予感する
勇気と希望と回顧と戦意と
いつかの僕を
僕はどこまで否めるだろう
水たちの名の
やわらかな対峙の形の
さなかで
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海が眠る
その貝殻を
ためらいもなく
拾い上げて
ひとは口々に
語り始めるだろう
春を
春のための春、に
何をも待たず
つとめて実直に
見失うだろう
名もなき
春を
描かれ過ぎた岸辺も雪も
かろうじて
ある
ひとつの重みに
凛として
隠れ、さまよう
目と耳に
うたう
生まれたばかりの
うそを温めて
いつしか影は
波音に
さらわれる、
風のその肉声の
古い痛みが
ようやく
ほどいた
諦めを
やわらかな、
檻
知らずにおけない
結晶の朝が
告げている
真正面から
背中へ
と
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きみの言葉の行く先を
わたしはひとつに
収めてしまう
無限に広がりそうな
孤独の定義の
予感に
おびえて
きみの言葉に
息づくものと息づかないもの
わたしはそれを
探りあてようとしたけれど
居場所が欲しかった、
ほんとうは
無数に取り残されたこの空を
自由、と呼ぶには
こころぼそい
一瞬の、
一瞬のすべてをもって
人はいくつも
人にうまれる
うしない続ける歓びを
受けとめかねて
確かめかねて
きみの言葉が
伝えきれなかったひとつに
取り込まれてわたしは、
残される
きみの言葉の哀しみに
わたしはわたしを
閉じてゆく
上手に囲われ消えてゆく
風の報せは
誰かの
時計
たとえばきみの
言葉の続きを
聴くための
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理由はありません、っていう理由について
もう少しやさしくあれたら、
と思うんだ
さびしい時刻が生え出したのは
ぼくの、背骨を笑う
星のした
だれにも
飼い慣らせるはずのない
さかな、が破片、を
みとめた日
ごくごく普通に飲み込む海は
空からすると
真昼の戯れ
かくれんぼ、だね
知らない、ふりも
手慣れたふり、も
あまりに無防備な誘惑のようで
つつまれている
かこわれている
ねむりに
つい、ている
特別な歌たちは
いつか鳥へと帰るんだった、ね
きらきらとした
描ききれない言葉のように
燃えるんだった、ね
朝を迎えることから始まってゆくかなしみ
それがつまりはあらゆる種、と知っているなら
帰されていこう、時計のなかへ
偶然の横顔に
つまずきながらでいい、
だれもがそこだ、
と思うんだ