詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
もう
どこにも帰れない
そんな気がした夕暮れは
どんなことばも
風にした
ながれる雲の
行き先はしらない
突きとめずにおくことが
しあわせだとは
かぎらない
揺られる髪は音もなく
より添うでもなく
離れるでもなく
透けてゆくものに
残されること
それが、時刻
ほんとも嘘も
燃えるようにして
かばい合い、
奪い合い
それゆえに、水
それすらも
水にして
たとえば明日が右手なら
左の手には
温もりを置き
かなしみの日を
輝くために
両の岸から
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傘のしたでだけ
降り続ける雨がある
強弱では語り得ない、それ
交差点を渡る黒たちの
はじまりの日は
白だった
或いは
今も
嘘とほんとを
分けたがるけれど、みな
太陽をもとめることと
雨雲を祈ることとは
等しくないから
まったく同じ
知らぬまに無理を働いて
こころは眠る
それぞれの
夜、に
(聞こえるものが
(多すぎるということ
(見ることは
(たやすくないということ
(話したそばから
(縛られてゆくということ
自由を知らないことで
いのちは
ことばと
むすばれる
夢のなかでだけ
傷つき止まない国がある
難しく
かわしたつもり、の
夕陽の数だけ
よくある話の片隅で
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むずかしい顔をしていても
だれかに名前を
許すとき
見えない風に
腕だけ乗せる、ような
わたしはひとつの窓になる
だれかの背中のさびしさに
おもわず声を
かけるとき
揺られる髪の、
あらゆる自由の立ち位置の
ふしぎな狭さと
わたしは
向かう
探さなければならない
嘘をはたらく
そのからくりの為、
たくさんのほんとうを
きっかけにして
ねじれなければならない
愚かさに
まっすぐに
気がついてしまわぬように
ときを
わたり歩いてゆくことの不平等
そんなおおきな空の真下で、
和平は守られ
わらい合う
届かない、ということの
ひとつの幸福をわたしは溺れ
継がれる習いそのものに
くちびるを噛む
少しだけ
めまいのさなか、
ひかりを浴びて
たしかに
浴びて
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水の匂いが燃えてゆく
漆黒は
うるおいのいろ
こぼれてはじまる
灯りにけむる、
波のいろ
疎遠になれない花の名に
ひれ伏すともなく
かしづく儀礼は、
いつかの川上
衣擦れを漕ぐ
ささやきの
刻
面影がむすばれてゆく
一途に揺らぐ炎となって
重なることを
こいながら
涙、
線を越え
またひとつ
懐かしくなる
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掛け違えた光だとしても
あふれかえることに
消えてはゆけない
肩だから
底に、四月はいつもある
泥をかきわけて
そのなかを親しむような
見上げることの
はじまりに
どこか、
なにかの
沈みを
おぼえるような
空が、
抱きとめるものすべてを
わからないまま
ぬくもりは、不可思議
染まりゆくときを
繰りかえしても
知らずには終われない
素顔なら
待つも待たぬも
春の色
それは
途方もなく
やさしく続く
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風のゆくえに
はぐれたのなら
含ませ過ぎた胸に手を
どうでもいいと言い捨てるには
あまりに一途な
朝です、
誰も
いつの日も
気がつくためには
やわらかく、
ひかりをあまして
散りゆきそうに、
そこで、
はじめて、
生まれるはずです、
かわらない名も
無数の風も
乗り継ぐ支度を整えるまで
ゆっくり夢は待ちません
つづき、と口にするなぞりを
やさしく乗せて
流れゆきます、
横顔たちは
自然のちからが砕くかたちを
置くだけで、いいのです
ねむりを終える
その間際でも
うつくしい欠片に
傷つき慣れているのなら
探さず、
探して、
残りのまま、に
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グレープフルーツ、を啜ると
ゆびさきやら舌先やら
なぜだかきみを、
おもいだして
グレープフルーツ、か
それとも、ぼく、か
においのあふれる
部屋になる
なまなましい
いたずらみたいに
皮、をしめらせ
たね、をおとして
果汁にさまよう
皿のうえ
ナイフの光沢は
吐息にくすんでしまうから
爽やかなつもり、は
いつまでも青年を
たしなめる
フレッシュに、
唾液にまみれても
もぎたて、の顔立ち、の
ような
たぶん、
行けるところまでが真夏
グレープフルーツ、が
こぼれる、ように
こぼれる果実の
さなかで
おもう
ぼくは
いくつを食べたかな
微笑むきみのうちがわで
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泥を かわして
かわして また 泥
すきだとか きらいだとか
そんな難しいことは あとからになさい
もっと ずっと あとからになさい
余裕がでるまで 待ちなさい
陽をあびて みんな
どんなふうにも 混ざり あい
いそがしいものだ ね
日々のいのちは
いそがしい ものだね
しきたり しき たり
風にほどかれ みんな
どんなふうにも 呼ばれ あう
ぬかるむことは じっと待つこと
ゆっくり すること
あきらめを にがしなさい
あしたの嘘を 捨てなさい
あやまりたいなら つかりなさい
あやうさを あいまい に
あきらかな道 の
あまのじゃく
あまがえる、るるん
あかさたな、
はる
はまやらわ、わ、は、
いきし ちに、 ひび
ひみいりい、に、ひ、
はじめから
みんな おんなじ はじめから
あめんぼ ありんこ つくしんぼう
みんな まっ白
まっすぐに
ゆき
あめ ゆき とかして
はるは 泥うみ けがれなく
はるは 泥うみ
なみなみ
と
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まちがうことを
素直におそれた日々は
だれかのきれいな蝶々結びに
たやすく揺られる花だった
あの草原で
かぜを追いかけてゆくことに
不思議はどれほど
あっただろう
ためいき、ひとつこぼれる
あわてて
しあわせを吸い寄せる
そんな
不器用さのあることが
ひとつの花であるかもしれない、まだ
だけど、でも、
にがてなものに疲れた午後は
ひとりしずかにそらをみつける
いつものながれを
ごくしぜんな幾つものながれを
はじめから決まっていたことのように
呼びたくはない
空、などと
だから、みつける
なつの匂い
ふゆの匂い
なつかしく
いつの季節もめぐるなら
それはひとえに大きな、はる
あふれる花の
揺られるままの
あしもとに
転がるすべてが教えのかたち
すぐにもかぜは吹くけれど
それゆえ蝶々は
結ばれ続ける
ひらいて、きれいに、はばたいて、
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さがしてみても
しっぽは見つからない
まるで
気泡のような午後だから、
いつの窓にも
ふたりは
求めて
やわらかな、視線
だれにも始まる
デッサンの
ひとつでも、
拒む何かがあるのなら
まねごとには終わりなく、
閉じてゆく日々に
かならず添える、
小指はいつも
しずかな
レモン
物憂げな、アルト
あこがれていたのは
むしろ、ソプラノかも知れず
横顔の手がかりは、もう
あのバスに
聴かせるつもりをよけながら
おぼえた言葉をつたい合い
響いた数だけ
てのひらに、
世界は
破片をつなぐ乗り合わせ
ひたすらな足もとから
ほどいて渡るように
風たちの、ピュア
高く、向こうのためのあやまちを
あそびも眠りも
おだやかに