詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
つゆのおもてを奏でるような
かすみの語り部、
八日月
白々しくも、
ゆかしいものです
枝のあいだを
いそぎもせずに
はかなさをなぞるには
聡明すぎる、ような
老いも若きも
灯りでしょうか
過ぎゆくものは
いくつかぞえても
わすれてしまいます
いいえ、
それゆえの
流麗なのかも知れません
呼び声にしたがって、
とどかぬことを
腕は続ける
だれか、
それをたやすく哀しむだろうか
やがての季節は
いまも昔も変わりなく、
わずかな寄る辺を
禁じるすべ、が
ときでした
あらゆる姿の
こぼれるひかりの
その波に、
舟は舟から
さらなる舟へ
まぼろしではなく
けれども綴れぬ、
夜のみなもと
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遠鳴りを
たずねてゆびは
更けてゆく
傾き、
あざむき、
なき、みさき、
橋の向こうを告げられぬまま
こころもとなく
火を浴びて
頑なに
待ち人の名を忘れてしまう
憂い、
ねぎらい、
幸い、つらい、
内でも外でも
織りなす檻うた
やがての白まで鋭くあふれて
重みは時流を
さすらって
もう、帰れない、
置き去りだった
なにもかも
その逆も
途絶えることなく
月読む風は氷を慕い
遙か、
焦がれる、
いまは、ただ、
なぞりに従い
影は背中を離れない
落ちたはじまり
そのままに
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別れの時刻を知ったとき
ひとは優しくなる
すなおには
明かせなかったこころをもって
朝はかならず来るのだと
ようやく夢は
ここから
近く
ありがとう、
すべてのひとつは
生まれることの水音だったね
似すぎたものに戸惑わないで
届かぬ空にうなずいて
守るべき抵抗を
つかむため
いつかの夜に許したことを
いまならわかる
おそれの末と
都合のような頼りの果てなら
そこへと帰る道などない
闇に塗られる筈もなく
それすら奪えば
嘆きは曇り
知らないままでいたかった
子どものままで、と
うそぶくたびに
乾く風など
送り、遅れてしまえる日々は
未完のつなぎめ
もろくも強く
またいつか、
つづきの言葉を忘れたふりで
ひとは微笑み
荷をかわす
別れの時刻を知ったとき
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ふと気がつけば
後ろ手の冬
雪の匂いも薄らいで
それとは知らず
陽をまとい
季節は
追い越せないものだとばかり
待ち続けてきたけれど
いつの間にやら
景色は流れて
暦、三月
すぐにもそこに
足音が軽やかであるのなら
同じおもてで
名を呼ぼう
君から遠く離れても
鮮やかな香に
つぼみは
揺れて
透けてゆく胸から
願いは始まる
まだまだ広い
こころのうらで
不意の訪れ
やさしく
染めて
光、架橋
春風を凌ぐ
君の日につつまれて
桜、便箋
雪、飛脚
春風を凌ぐ
君に逢いたい
冬のひとひら夢見るように
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よみがえる言葉を
踏みしめながら
いつの季節もささやかに鳴り
のびゆくはずが
逃げてゆけないものへと
落ち着いてしまった
あたらしく
おとを試して、
更なる空をおいもせず
結び目だけは
ていねいにしなさい、と
去りゆく風から
見つめられ
足音だけが沈みこんでゆく
それが、くれない
いつからが、つち
いつまでがつち
燃えるとするならば
両手はいかにも砂のいろ
きびしさに負けてしまうまで
孤独は、枯れて
いのりの数を
おだやかにそそぐ雨は
みがわりの
羽
無言のなかでも、
あきらめを棄てながら
他人を絡めるゆびさきの
目覚めとともに
森はある
たとえ閉じゆくさなかでも
さいごのおとには
だれかが
続く、
ふかき護りに
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脱ぎ捨てたシャツには
汗の匂い
それはそのまま
あすへとながれて
うっすらと
口づけをもとめる
よるの首筋は
片付けきらない部屋の
すべてを横切りとけてゆく
あらゆる途中を
かわせるはずもないままに
さまようことを
おろそかに遠ざけて
戻りつづける素肌の微熱
かばうつもりの涙から
たぐり寄せられ
絡められ
はやる季節はいまもなお
眠りのふちで待っている
荒々しい直線を
知らないままでは
かなしみはすれ違うから
抱きしめるちからの確かさは
情けなさを忘れるための
けものの習い
及ばないことなど
はじめから捨てたものとして
かろうじて息をする
背中で誓いは
あやまるともなく
星をかぞえて
ここからの
五線譜に
きのうのためのきのうは乗せず
ときの向こうを貫くような
はじめての旋律を
いつか
たやすい言葉に紛れることなく
幾度もかさなり
ゆれながら
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透き通る石が相手なら
わたしの瞳もまもられそうで、
こころゆくまで
あずけて
うるむ
そんな夜には
ゆびも優しくなれるから
ゆめをすなおに飲み干して
爪は爪のまま
自由はいつでも自由のために、
あやまるための哀しみを
そこには寄せず
わたしの灯りは小さいけれど
果てなきうみのさかなのように
およいでくれた
水晶のこと、
それは
おどろきではなく
はかないものでもなく
おそらく不思議をつなぐもの
みごとなひかりに誘われて、
懐かしさを越えるための
その奥へ
ともに遊んで
ともにけなげに
月のたもとでとけてゆくまで
まぼろしの手前の
言葉をえらぶかたわらに
あなたの瞳をえがいてみた、
ふと
そこに持ち合わせたこころの名前は
透き通る石のなかで
ほほえみに染まるから
いつかきっと、
その続きもそっと
しなやかな遠くまで
待つためだけに
逃げてゆく
すべての隙間にこぼれて澄んで
水晶になる、
つるぎも
星も
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雨粒を
ゆるすしかなかったことが熱だった
ほんの
一握り、の
うばわれるものも無く
渡ってもらうことで
どこか安らいでただ濡れていた
それしかなかった、
雨だれに
ほそく
もう、
ちかいと思っていたのに
だれのことばも
こたえに聞こえてしまう
肩はなおさら
ひとりを
耐えて
いつからか
或いは、いつまでか
ふたつの瞳はかさならなくて
無言をあびせる雲たちが、
そら
おなじ、
みなおなじ
ここに、いたいけれど
向こうにも染みて、いたいから
すくわれてしまう水の日は
まだまだ深い、
はなせない
おぼえ忘れた果実のような、
あらがえない
しずくの
めぐみ
ひみつをかばう鍵の重さは
すぐに時計を透けてゆく
ほら、
千の槍が降る
紛れようもないものに
あらわれながら
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翼を有する生きものに
あこがれていた
のぞみの場所までは
もちろんのこと
そこから
遥かな地平のすみまで
こころはきっと
羽ばたける
翼を有する生きかたに
あこがれていた
ひとの背中に
翼は不似合いではなく
むしろ
似合うのではないかと思うのに
いまだ一度も
見ていない
ひとの背中に寄り添う風を
翼はいくつ聴いたのだろうか
語りはじめる時刻は
きょうも訪れずに
あきらめることを
どこまで慣れてしまえたら
傷まずにすむだろう
境界線のための
それらの空は
きのうをなくさず
生まれたままで
過去のものごとへと
すり替わる流れをおそれても
自然に
ごく自然に
そそぎ止まない涙のなかで
きれいなままに眠りを落ちたい
ぼくは
あこがれを捨てないことから
あしたを数えた
たとえ翼をなくしていても
まっすぐに
ただ
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きんいろは
かなしいすべだと思います
闇夜のはなは
もっともあかく
ひとみを閉じこめて
火から、
結ばれてゆく、
果実のことなど、
だれもが、
とがめようもなく、
さようなら、
まぼろしのかわりに、
つないでゆきます、
ときに、
くだかれ、
散ることをせず、
似ていることを
ただひとつの手形と
いたしましょう
罪は
ひとしく滅びますので
はじまりかたもその先々も
待たせてはなりません
待つことも
ひさしく
傾きは、
つめたいまま、
汲みあげられて、
まどろみのかたわら、
いとしさに乗り、
かがやきを、
迎え、
いくつでしたか
あしたは
みずの方角へ
とおくの鏡をよぎります
わかれることを
うつくしく