詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
このゆびを
のぞんで降りたきみですか、
しずかな熱も
いそぎゆく風も
そのゆくすえは
つながってゆく気がして
荒れたくちびるを、恥じらう
ふゆです
やさしさは
なつかしさだとおもいます
つつまれてみたり
渡ったり途切れたり
いつか、
だれかの季節を告げるような
やさしさは
なつかしさだとおもいます
思い出せるさくらはいつも
ひんやり、ふわり
きみを
雪、と呼ぶことに
まだまだ不慣れなあおです、
ぼくは
ねぇ、姫君
肩幅のぶんだけ
つまずいてみせてもいいですか
髪と瞳と肌だけは
きめられたいろ
かくせぬ弱み
このゆびを
のぞんで降りたきみですか、
うちとけたなら
雪の香、はらり
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
とじゆく風にひらかれて
それがあるいは逆だとしても
なおさら地図は
紙切れとなる
吐息はつまり消える熱
硝子に映る秒針を
遠ざけるものは
いつでも
そばに
こまやかな星座の
その呼び方を
失う痛みはもう聞こえない
感傷を
わすれるための感傷は
ささいな温度で
にわかに
とける
十一月はバラード
惜しむ隙間もなくした雑踏で
きまぐれな鍵が
ひとり
遊ぶ
十一月はバラード
なりゆきの人たちにも
避けたかった人たちにも
とべない翼が
降り積もる
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
みぎてと
ひだりては
まったく違うけれど
まったく同じ
それは
重ねたかたちではなく
重ねようとする
その
こころのなかに
あらわれる
水を掬う両手は
かならず
わずか
こぼしてしまうけれど
そこから川は
ゆくのかもしれない
至らなさとは
おろかさを間違えること
風や海や星たちに
誰も
際限なく
こたえることはかなわない
おろかさとは
そそぐものを
あふれるものを
そのままにしておかないこと
ありのままを
ありのままに
誰もがきっと分水嶺
頂上高く
そびえることは
かなわなくても
両手を重ねたかたちを知れば
流れは絶えず
よどみなく
誰もがきっと分水嶺
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
しずくが微笑めば
そのつど国は
虹色に
音階はわかりません
でも
それは
いつか憶えた
果実と似ています
ひかりの器には砂漠を
おだやかな午後の
頬杖が
かなしみに怯えない
かなしみであるように
つばさの先には
うたがいを
ほら、ラフレシア
ツンドラの月を
迎えましょう
そのままで
そのままをすりぬけて
もて余すものは髪に乗せて
足りないものなら
つめの隅々まで言づけて
送りましょう
おおきなふねを
地球儀まで
贈りましょう
ワインのコルクを
雪降るそらへ
時刻にも時刻がつきもの
どうぞ
お忘れなく
確かめ合うための
ちぎりの姉妹の
在ることを
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
左目が宝石を映すなら
右の目には
砂つぶを
片耳があしたを聞いているなら
もう片方で
還らぬ日々を
此処が、いま
過ぎゆくすべてに挨拶を
迷わぬつもりが
いつしか独りきり
まんなかは見晴らしが良くて
寂しさをつぶやけば
行き場もないまま
とけてゆきます
いまが、此処
なるべく
痛まないようになら
開けてしまえる身だけれど
そんな事実は
にせものだと言われてしまいそうで
なんだか
怖い
おなじ畏れを持つのなら
他人はどこまで
他人でしょうか
鏡の前です
きょうもまた
いいえ
或いは向こうでしょうか
あしたも昔も
みがいては
みがかれて
右腕は自分
左腕も自分
守っているような
閉じこめているような
欲しい答に
はぐれています
此処で、たくみに
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鳥居に
菊花を吊るしたら
砕ける桟橋
傾ぐ舟
手鏡ぬぐえば
小太刀まばゆく
たちこめる宵
群がる灯篭
座頭の爪弾く
琵琶は
千年
雀の遊ぶ
鳴子は
こがね
雲居をながれる
琴の音ならば
せせらぐ川面に
満ちて
ひさしく
舞う鈴の音に
身を尽くし
澪標こそ待ち人のかげ
舞う鈴の音に
道標
扇をかえせば
いざないの波
日傘はほころぶ
けなげな芳香
編み笠ひとつ
小石にゆるせば
むらくもの笑み
やわらかな風
舞う鈴の音に
身を尽くし
舞う鈴の音に
語り部は
なる
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まねごとはおやめなさい、と
たしなめられている
水の向こうにいる人に
あるいは
近くて遠い
水のおもてに
わたしのゆびは
冷ややかに染まる
月明かりは物言わず
それゆえ夜は
何もかもが許されるはずだと
たたずんで
わたしとよく似たあなた
触れられず
聴けもせず
わたしはまったく及ばない
けれど
一枚の水の隔たりに
あなたもわたしに及ばない
向かい合うことが
ひとみ
通い合う
まなざしにだけ
姿ははじめてあらわれてゆく
水は
わらっていただろうか
にげていただろうか
わたしのゆびには
うるおいがひとつと
波のゆくえが
幾重にも
透きとおる
それは
無限にひとつの
ひとみをこぼれる
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
たとえば今日が
誰かの命日かも知れなくても
生まれたあなたに
おめでとう
そうして
またひとつ
わたしは欠ける
たとえば今日は
誰かの鍵が消えるかも知れない
誰かの扉が崩れるかも知れない
すべてが見えてしまったら
正気ではいられない
それゆえに
わたしたちは
残されたものとして
同じように
誰かを
置き去りにする
そう、
わたしたちは
みごとに狂うひとつの歯車
たとえば今日で
誰かの城が滅び去ろうと
誰かの空が燃え尽きようと
キャンドルはいつも
揺れて
減る
莫大な時間は不足と似ているね
不幸というものをうたえるほどに
わたしは
まだ
幸福を数えていないから
生まれたあなたに
おめでとう
かぎりを知って
祝福をしよう
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
ひとつの想いが報われた日に
この手は
またすこし
小さくなった
それは
悲しみではなくて
ひとの非力さが
尚いとおしく感じられた、と
そういうこと
涙がなければ笑顔はない
約束がなければ
傷はない
たとえば誰かが
たやすく語ることの総てを
もう一度はじめから
確かめたいと思った
大げさではなく
つまらなくもなく
この手に
負ったぶんだけはただ確かに
えらぶことに慣れたつもりで
疲れ果ててしまうことは
とても寂しい
だからこそ
素直に知らないふたりがいい
「この手で大切にしたいひとがいます」
この手は
いつまでも小さいままだけど
愛と呼ばせてくれないか
むずかしい意味は含ませず
愛と呼ばせてくれないか
この手は
いつまでも
小さいままだから
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
てのひらには
てのひらがあって
そのてのひらには
さらにてのひらがあって
ちいさなてのひらは
どこまでもさがしてゆける
かわいた てのひら
つめたい てのひら
ぬくもる てのひら
しめった てのひら
ちいさなはじまりが
いつも
ひとつの
てのひらになる
なにかにふれることを
てのひらとよぶ
ちいさなてのひらを
どこまでさがしてゆけますか
たどりつけなくてもいい
てのひらをもつ
じぶんがいつでも
はじめのいちまいでありますように