詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
月のしずくは甘いので
虫を呼ぶのに都合がいい
月のしずくは甘すぎるので
虫は日ごとにおろかになって
それをついばむ
鳥が栄える
月のしずくは砕けても
きれいにさえずる鳥がいて
けものはそっと
涙を落とす
それも或いは月のしずくか
月のしずくの甘さのはてに
けものはけなげに棲みついて
虫のためにと花など
植えた
花は
夜な夜な
濃厚に空を吸いこんで
時々ふっと月を真似して
しずくを落とす
あまりにきれいな無音さが
羽もつものの背に乗って
やさしい光に
消えていく
誰のためでもない永遠が
続けばいい
鏡のような
しずくにはもう
おわかれをして
月のしずくは円いので
輪になるものには都合がいい
小さな小さな傷をこさえて
小さく小さくつながって
波と呼ばれる
ひとつになって
今夜も
月を呼んでいる