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千波 一也の部屋


[1092] お片づけ
詩人:千波 一也 [投票][得票][編集]


きみが
見送りつづけたあのバスを
撮ることなんて出来なかったけど

きみが待ちつづけた
あのバス停とベンチとを
ぼくは撮ったよ

現像なんかしないけど
捨てたりもしないけど



窓の外には枯葉がつもって
もうそんな季節で

きみは
迎え入れがたい時間が
増えた、というから
ぼくは秒針の音を聞いている



泣き方に
手ほどきなんて要らないけれど
細々灯れるものならば
教えを請うのも
わるくない

そう言ったきりきみは
空の無言を聞いている



守れなかったことの寂しさが
悔しさを呼ぶ

守れなかったことの悔しさが
寂しさを深くする

なにを守れなかったのか
それはきれいに忘れても



履き古した靴のいったいどこが
いとおしいのだろうね

指になじむ紐の擦り切れ具合かな
無難に選んだ彩りの
褪せ具合かな

どこの物かもわからない
あちらこちらのかかとの汚れかな



さよならを告げる
練習をしていたんだ

思い通りにいかない夕暮れは
そんな小さな焚き火に興じた
くべる言葉の少なさに
身を震わせながら



きみからの手紙は
行間を読むことにしている

語らないきみの
呼吸にじっとおもいを馳せて



思い出さないほうがいいことなんて
一つもない

わかりきってるからこそ
苦しいんだ
こんなに



青さはちっとも
変わってなくて
敢えて言うなら
変わってしまったのは
ぼくのほう

とても難しくて
とても易しいことなんだけどさ



得たものよりも
のこりのほうが気になって

ぼくはずいぶん
待たされている



かなしい言葉はいらない
それを頼らなくても
十分にかなしめるから
よろこびも
同じ




捨てるという所作や言葉は
あまりに冷徹だから
決まりごと
そう呼ぶように
ぼくは心がけている

誰かにとっては
散らかったありさまに映るとしても
なんとなく

2011/09/30 (Fri)

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