詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
水は
裏切ったりはしないのです
やさしい嘘と
呼ばれるすべに甘んじて
飲み干しかねた
水はあっても
迎える季節を過ちかねて
流れるしかなかった
水はあっても
水は
何をも裏切らないのです
太陽と
とても近いところに
遠い昔が波打っています
だから
わたしは
ふたつの瞳で
ひとつのものを
慈しもうと思うのです
円く
及ぶべき人の思いの根幹を
慈しもうと思うのです
日記のなかに並んだ文字は
傷とよく似た面影です
はね返される
陽射しの底で
形づくられる
祈りの首輪
言葉に出せない密書のような
うすい匂いが溢れてゆきます
すれ違うとしたら
爪の先ほどの
蕾の上で
抱き締め合うとしたら
波間に漂う後悔が
聞こえない頂で
思い出すとしたら
重なり得ない
つばさの
両端で
各々で
穢れていたのかも知れません
はじめから
穢れてしまえるようにと
心遣いがあったのかも知れません
はじめから
曖昧ならば懇願も
きれいな音色に落ち着いて
例えばわたしの硝子戸に
懐いてくれると
思うのです
寂しい刃がひとりでに
よろこびすべてを
葬るならば
信じていましょう
寄り添っていましょう
頷いて
微笑んで
こぼれていましょう