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千波 一也の部屋


[1286] 如月草
詩人:千波 一也 [投票][得票][編集]


如月草をご存知ですか

たとえばそれは
荒野をわたる風のなか
ささやかに
桃いろに
揺られています

如月草をご存知ですか

たとえばそれは
星座をたどる指のさき
あやふやに
紫いろに
染められています

まだまだ遠い春なれど
まだまだ灯せる言葉があるなら
そろそろ
眠りはほころびます

だれかの背をつたい
だれかの肩をつたい
だれかの髪をつたい
静かな包みは
静かに
静かに
ほどかれゆくことでしょう

如月草をご存知ですか

たとえばそれは
名もない駅のかたわらで
したたかに
銀色に
呼ばれています

たとえばそれは
疲れた瞳の水ぎわで
かたくなに
紺色に
潤わされています

老いも若きも男も女も
丸みも堅さも炎も氷も
みんな
ちがっているから
一様に
みんな
少しもちがわない

如月草をご存知ですか

よくよく
希望とまちがえられて
よくよく
祈りとまちがえられて
よくよく
懐古とまちがえられて

けれど
そんなまちがいの一つ一つに
きちんとお辞儀をしてくれる

それゆえ
誤りはなおさら募るばかりでも
季節がめぐれば
約束ごとのように匂いたつのです

一斉に
なおかつ静粛に

微笑まずにはいられない
むずかしさを
やさしく
従えて

はぐらかすつもりなど
微塵もはらまずに

手ほどきをする素振りなど
あまるほど漂わせて

だれの窓にも
だれの吐息にも
いつしか
そっと
根を張るのです

如月草をご存知ですか





2014/07/29 (Tue)

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