詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
わたしを生んだ
女をわたしは知らない
影も匂いも
どんな音を発するのかも
なにひとつ知らない
わたしを抱いて
わたしを褒めて
わたしを叱って
わたしを守って
わたしを
ここまで
育ててくれたのは
わたしの母だ
この世にただひとりの
わたしの母親だ
わたしを捨てた
女のことをおもうとき
わたしの母は
どんな気持ちで
わたしを子どもにしたのだろう、と
少しだけ寂しくなる
古いアルバムを
開けば
素直な笑顔と
素直な反抗と
素直な恥ずかしさと
素直なはしゃぎが
ならんでいる
なんと幸せな
家庭で育ったのだろうと
こころからおもう
わたしの戸籍を取ると
養母という言葉が
痛々しく
印字されていて
まったく覚えのない女の名前も
堂々と
印字されている
雪と月と花と
めぐりくるものたちは
母から教わった
雪と月と花と
うつくしいものたちの
おもてと裏とは
母から
巣立って
いつしか覚えた
けれど
雪、月、花、
たいせつな何かを
数え忘れている気がする