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千波 一也の部屋


[616] やさしい雨
詩人:千波 一也 [投票][編集]


肩が

うっすらと重みを帯びて

雨だ



気がつきました

小雨と呼ぶのも気が引けるほど

遠慮がちな雫が

うっすらと


もちろん

冷たくはなくて

寒くもなくて

そのかわり少しだけ

寂しくなりました



車のライトには

たくさんの夏の虫が

雨に濡れていました

二度と羽ばたいてはゆかぬ姿で

ただ

静かに

濡れていました


思い返せば見事に続いていた、晴天



熟した果実の重さに似て

前髪の先から

ポツリ、と

結露


どこかで

たしかな文字が

ゆっくりと滲んでゆく気配

きっと

とても近いところで

とても

近い

ところ





車内の窓が曇ってゆくので

外の景色は

少し遠くなりました

そう

まるで

記憶のかたちのような


拭っても

拭っても

窓は曇ってゆくけれど

呼吸は止められません



雨は相変わらず囁き続けていました

うっすらと

うっすら




2006/09/09 (Sat)

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