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千波 一也の部屋


[623] 百鬼夜行
詩人:千波 一也 [投票][編集]


竹の林の向こうから

銀の鈴の音 

リン シャラリン


夜露は月の輪郭を

ゆるりとその身に吸い込んだ



川霧晴れて すすきが並ぶ



トン カラリン

独楽(こま)が寂しく倒れるような

トン カラリン

下駄が小石を弾(はじ)いたような



茂みの底に息をひそめて虫のまなこは濡れてゆく



大樹の落とした木の葉を踏んで

てんぐ 

ひとつめ 

ろくろくび

苔むす地蔵に一瞥(いちべつ)くれて

かっぱ 

からかさ 

がしゃどくろ



鴉は捧げる 魚のいのち

狸は捧げる 草の根 木の実

百鬼に献ずる盃そろえば

宴はいまにも始まるだろうに

それは今宵もあらわれぬ

かくて夜行は常世に続く



のどの乾きと盲目の病み

いちばん暗い護りの途へと

長蛇は流れて

今宵が終わる



始終を見ていた梟(ふくろう)のした

茸(きのこ)の群れが頭(こうべ)を垂れて 

夜露はリン、と

砕かれた

まもなく月はそらへと還る


ざわめく声を孕んだ風が

漂う雲を追い払い

月光こぼれる 

蜻蛉が渡る 



2006/09/09 (Sat)

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