ホーム > 詩人の部屋 > 千波 一也の部屋 > つらなり短冊

千波 一也の部屋


[632] つらなり短冊
詩人:千波 一也 [投票][編集]


記憶の糸を手繰り寄せれば

大樹にそよぐ

風の音が

聞こえてきます



忘れることも

留めることも

おそろしく容易であるので

誰もがその指先を

震わせてしまうのでしょう



昔、愛したひとがいます

そろそろ口癖も忘れました



昔、毛嫌いしたひとがいます

下の名前を思い出せません



昔、夢を語ったひとがいます

すでに消息は不明です




願いが叶うのならば

いまいちど

再会したいものです

笑顔で再会したいものです



おそらくは遙かな隔たりのある空のもとで

わたしは今日も

記憶の糸を手繰り寄せます


会えるひと

会えぬひと

もしくは

会わぬひと



今年もいつのまにか実りの季節


霞んでも

薄れても

あの日の体温だけを指先に思い出しつつ

願いはいまも

ただ一つ


わたしの名前も

ただ一つ



2006/09/09 (Sat)

前頁] [千波 一也の部屋] [次頁

- 詩人の部屋 -