詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
秋風が冷たくなってゆくのは
赤々と燃える炎を
鎮めるため
山から道へ
道から軒へ
軒から海へ
秋風は
休む間もなく吹きぬけてゆく
そうして
暦に目を留めた誰かが
山が燃え始める頃だと思い当たる
分け入れ 分け入れ 獣道
嗅ぎ取れ 嗅ぎ取れ 秋の風
生まれながらにして人間は
その目に弓矢を持っている
葉の命が朽ち果てるその前に
射抜け、ひとひら
射抜け、ふたひら
束の間の美の頂点に立ち
見おさめられた者だけが
艶やかに
ゆるりと
枝を離れる
狩りの狼煙
葬送の炎色
紅葉は赤々と燃えて
日毎に秋風を冷たくさせる
鎮魂の山林には今日も
誰かの足音がする
枯れ葉を砕く足音がする