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千波 一也の部屋


[675] 久しぶりに微笑んだ
詩人:千波 一也 [投票][得票][編集]


のら犬がいた


そいつは

安全な距離を保ちながら

一生懸命にオレを吠えた

かるく

しっぽが揺れていた

もとは白かっただろうに

よごれた茶色が寂しかった



砂利道にしゃがんでみたら

そいつは少し警戒をした

どんな目に遭ってきたのだろう

しっぽを揺らしながら

吠える声色が

少しばかり確かになった



ふと思い立って

買ったばかりのパンを取り出した

今夜の貴重な食料なのだが

まぁいいか、と袋を開けた


のら犬が首をかしげたような気がしたから

かるく

パンを放り投げた

ゆっくりとそいつは寄ってきた


嘘くさい茶色を

リアルな茶色が

静かにかじる


触れようとしたら少し驚いたが

触れてしまえば

おとなしかった




夕陽もそろそろ居なくなる頃に

そいつは何かを聞き届けたらしく

片耳をピクッと立てて

与える物の残っていない人間から離れていった


振り返ることもせず



現金なやつだな、となんだか笑えた


ところで今夜は何を食べようか、と

あるはずもない選択肢を掘ってみる



自由気ままなギブ・アンド・テイク

鼻歌なんかを楽しみながら

久しぶりに微笑んだ



2006/09/14 (Thu)

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