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千波 一也の部屋


[674] 地獄に一番近い島
詩人:千波 一也 [投票][編集]


風の手触りなど

いくらでも描けてしまうように

わたしとあなたの

輪郭は

ありふれた景色なのかも

知れないけれど

戯れることの

ひとつ

ひとつに

やわらかく透ける名前があって

眠りつくひとときの

温度にこそ

たやすくほどける数字があって

この島国は天国に一番近い



甘いことも

苦いことも

曖昧な区別の両手に掬いあげて

すべての過去は幸福に

したたる

そうしていまが

明日へと続く

掴めそうで掴めない尾のような

ひとすじが

流れる



わたしたちは

未来を知らされていない代わりに

夢見るすべに長けている

うるおう言葉を

互いの肩にのせ合いながら

一分後の笑顔から順番に

約束は

ゆるやかに

姿をあらわしてゆく

それは

光を告げる朝露のような



いつか時計は

何事も無かったように止まってしまうけれど

静かに壁と寄り添うけれど

月を眺める万人の

眼差しは永くやさしいから

そういうふうに

扉をなぞれたらいい



頼りもなく

一分後までの命だとしても

未完のうたが

続きを

呼び止まぬ限り

ふたりの記憶を探しに往こう



空には星の明滅、地には砂塵の渦


たやすく記憶はすり替わるから

指を結んで

輪のふところへ



不意に踏み外したその先は

あまりに非力なふたりにとって

必ず

地獄で満ちるだろう



それでもなお

この島国は天国に一番近い



2006/09/14 (Thu)

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